帰るぞ、アリス。
そう言ったきり、火村は口を開かない。
話の方はもういいんか?
恐る恐る切り出すも「ああ」と短く返った答え。重々しい雰囲気にアリスもそれ以上は聞けず、
黙って歩く火村のあとをついていくだけだ。
小道を抜けるとそのままエントランス脇へと出て、見送りをされつつも車へと乗り込む。
ほどなく、屋根の無い車は風を切って走り出した。
そっと火村を窺い見ると、辛いような堪えているような
なんともいえない表情に思える。
勿論傍目にはただの無表情であるのに、不思議とアリスにはそう見えるのだ。
嫌だった、とは言っていたものの、幼少期を過ごした屋敷を離れることで
火村にも思うところがあるのだろうか。
・・・きっとおじいさんも、そうなんや。
ふと。去り際に見た老紳士の眼差しを思い出した。
その深い灰色は確かに哀しみの情、寂しさみたいなものを滲ませていたように見えたから。
決められた事なのだ、と言っては家の為だ、と強引にレールを敷いてきたのだろう。
今よりも若かった彼は、今よりももっと我が強かったに違いない。
それを受ける火村もまた、あまりに独りで居すぎたのだと思う。
だからお互いに反目しあった。
分かり合えない事に、譲り合えない事にいら立って離れて行ってしまったのだろう。
それでも。
10年も長い年月が経って共に歳を取った今は、違う。
火村を見つめるその古い瞳はとても穏やかだった。
そして、火村もまた、それに気が付かないでいられるほど若くも無いのだろう。
だからこそ、黙ったまま前を見据えているのだと思った。
「・・・なぁ、火村・・・?」
「・・・ん?」
流れている景色も、キミがいつか見ていたものなのだろうか。
「また・・・、来ような?」
「・・・ああ」
頬を撫ぜる風も、私の知らない君を撫ぜていったのだろうか。
「・・・火村、・・・・ごめんな?」
傍に、居られなくて。
「いいさ、・・・・アリスがわかってくれるなら」
ふっと、穏やかな笑顔が零れて嬉しくなって私も笑った。
「・・・でも、部屋に戻ったら・・・。寝かせねぇよ?」
「うっ・・・」
知ってる。
それが、照れ隠しなんだって事。
・・・たぶん、ね。
そっと背を伝う指の動きに思わず息を呑んだ。
「はっ・・・・・、ひむ、らっ・・・・」
その残酷なまでに優しい指は先ほどから背中から腰へと移動するだけで、アリスが望む刺激を与えてはくれない。
もどかしくて。
熱を持った内襞は意識の外で勝手に蠢いてしまうのに。
「ぁや、あっ・・・、んっ・・・・お願っ・・・、ねぇっ・・・・」
堪らずに腰を揺らめかせる。合わせた火村の熱い肉棒と、だらしなく先端から涎を溢している私自身が擦れて得もいわれぬ快感が全身を伝っていく。
「アっ・・・・、ひ、むらぁ・・・・・!」
堪らない。
堪らないのに、堪えられない。
その先にある決定的な快感を知ってしまっている身体はもっともっとと悲鳴を上げる。
それなのに火村は悠然とベッドに横たわった全裸の状態で、
足を拡げて跨った私の背中をずっと撫ぜている。
焦らされて自分から火村を飲み込んでしまわないようにと立てられた膝は私の腰をがっちりとホールドしており、ひくひくと入口を蠢かせることしか出来ないのだ。
せいぜい、猛った自身をすり合わせることしか許されていない。
伸ばそうとした腕はタオルできっちりと戒められているから。
そう、これは。
“お仕置き”というやつらしい・・・。
「ヒぁっ・・・?ふあっ・・・・、ああ・・・、ん」
「ほら、アリス・・・。もう一度、言って?」
くっと腰を伝って火村の指が後腔にあてられて、くるりと入口を回すように撫ぜて行く。
待ち望んだ刺激とは程遠いのに、その先にある快感を覚えている躰は容赦なく煽られて
気が狂ってしまいそうだ。
「あっ、あっ・・・・、も、もう、しなぁ・・・いっ・・・!から、はぁ・・」
「何を?・・・何をしないんだ?」
早く、早く、欲しい!
焦らされて熟れてこのままでは、躰の奥から焼かれて堕ちてしまう。
懸命に自身を火村の猛った中心にすり合わせるように腰を揺らしては中途半端な快感に啼く。自分が辛いだけだとわかっているのに、どうにも勝手に躰が浅ましくも動いてしまうのだ。
「はぁっ・・・ん、あっ・・・、ほか、の・・・、ひと、に・・・さわ・・・・られっ・・・ない!」
「・・・・・はい、よく出来ました」
「やぁ、ああああっ・・・んっ!」
ずずずと指が入口を割って挿入されてそれだけで爆ぜるように果てた。
もう、堪らない。
堪らなくて吐き出してしまったのに、それでも・・・。
まだ、と最奥が慣れた刺激を求めて止まない。
まだ、足りない・・・。
「アリス・・・、もう達ったのか?」
「ふ、・・・ぁん、やぁ・・・・」
達したばかりの躰は細かく快感を拾ってしまう。
挿入された火村の指を締め付けるように食んでは誘って、それに答えるように火村が関節をくっと折り曲げて内を掻き回す。
「ひゃっ・・・、あっ・・・・、ま、まだ・・・、だめぇ・・・・」
「まだ?アリス、嘘はいけないだろ?ほら、もう、勃ってる」
つつ、と裏筋を指でなぞられて頭の中が白く輝く。
ああ、壊れる。
壊れてしまう、そう思った。
恥ずかしいと感じるのと気持ちいいと感じるのは比例していくのだと思う。
相乗効果、ってやつ。
冷静な眼差しで下から見つめられて穴が空くほど恥ずかしいのに、
自ら腰を擦り付けては、なんて淫らな声で啼いているんだろう。
それなのに。それなのに、気持ちがいいんだ。よくて、堪らない。
だから・・・。
白く吐き出された粘着質の迸りを指で塗りこめられて、恥ずかしい、と感じるのを
止めてしまった。
だって、止めなきゃ・・・きっと壊れてしまうから。
そうして、恥とか羞恥とか自意識とかそんなつまらないもの、忘れてただ求める。
最高に感じて善がってキミの名前を呼ぶんだ。
「ぁあ、あっ・・・・、もっとぉ・・・・、ひむらぁ・・・・」
そうすれば、きっと甘く優しくキミは応えてくれるだろう・・・・?
Author by emi