真実と有用性 -18-


似ているのかな・・・。
ふと、そんな風に思った。

勿論、見た目は明らかに違う。
それなのに、ちょっとした仕草とか、雰囲気とかが火村を思い出させる。

『・・・そんなに、似てる?』
『え・・・?』

見透かしたような呟きに驚いて顔を上げると、吃驚するくらい真摯な顔をしたアルの緑の瞳が目の前にあって。アリスは思わず息を呑んだ。

吸い込まれてしまいそうな、あの瞳がすぐそこにある。

それはやっぱり深い深い色で、陽光を受けてキラキラと輝いて見える。

まるで宝石みたいや。


こんな容姿ではさぞ女の子にもてるだろうな。おとぎ話に出て来る王子さまみたいな姿をじっと見つめるアリスに苦笑しながらアルが言う。

『僕、そんなに叔父さんに似ているの、アリス?』
『見た目は全然似てないけど・・・・、声とか。偶に・・・』

ふ〜ん、と言うなりはにかんでみせたアルになんだか私まで嬉しくなって二人して笑った。

なんでこんなに嬉しいんだろう。

『伯父さん、か・・・・。火村にもそんな風に言ってもらえる人が居たんやね』
『そりゃそうでしょ。他に言いようが無いし。アリス、知ってた?僕伯父さんと同じ高校に通ってたんだけどさぁ、そこのボクシング部のロッカールームに伯父さんの写真があるんだよ』

『火村の・・・?なんで?』
『ずいぶん前に卒業したのに、だろ?有名なんだ。東洋系の顔立ちでそれだけでも目立ってたのに、えらく強くて飛び級するくらい頭もよかっただろ?うちの高校じゃちょっとした伝説なんだよ』
『・・・へぇ、そうなんや』

やっぱり火村はどこに居ても目立つんや。

隣で話すアルは黙っているととても大人びて見えるのに、こうやって話してみると驚くほど幼くも見える。笑うととても優しい顔で火村には似てない気もするし、それなのに似ている声を聞いているとだんだん顔まで似て見えて来るから何だか不思議な気分だ。

それでも。

アルの横顔を見ながらなんだか自然と微笑が零れてしまう。

ああ、やっぱり嬉しいな。

火村は自らの意思でこの家を出た、と言っていたがきっと火村らしい優しさからなのだろう。
居場所が無かったわけでは無いのだ。

少なくとも、先ほど話した祖父にしても甥であるアルにしても口には出さないもののちゃんと火村を思っている。

今までアリスに自分の事を話さなかったことで、勝手に背景にはもっと殺伐とした理由があるのだろうと思い込んでいた。

未だ見えない部分もあるのだろうが、それでも何もかもが火村を否定しているのではない。
それが、堪らなく嬉しいのだ。

・・・だから、胸の奥の方が堪らなく、ほっこり、したのだろうな。
火村に似ている事で確かな血のつながりを垣間見て火村にも繋がる場所がある事を知って嬉しくなっただと思う。
『アリス、聞いてる?』
『ああ、勿論、聞いてるよ、アル、何やったっけ?』

それまで楽しそうに話をしていたアルは、いつの間にか私の手を握っていておまけに私をじっと見つめていた。
・・・どうも、その瞳に見つめられると居心地が悪い。
普段見慣れている瞳の色とあまりに違うそれは、なんだか見ているだけで吸い込まれてしまいそうで・・・。
それでも目を逸らせない私を覗き込むようにしてアルは囁く。

『電話で話しているのを聞いたとき、どんな人なんだろう。そう思ったよ』
『・・・?』

『伯父さんが、いつも無表情だった伯父さんが、嬉しそうに見たことも無い顔をして話していたから』

なんのことかと思って訝しげに首を傾げたが、すぐにああと思い当たった。
きっと火村の祖父が言っていた件の電話の話だろうと。

『これ以上無いくらい幸せそうに笑って「おやすみ、アリス。早く逢いたい」って』
『アル』

掌をゆっくりとなぞるように指が滑る。

『誰に聞いても伯父さんはいつも無表情で笑わない人だったのに。その伯父さんにこんな顔をさせる“アリス”って人がどんな人なのか気になって仕方なかったんだ』
『・・・そうなんや』

大学生の頃、火村に逢った時も同じような感じだった。

勿論、今とは違う友人としての付き合いだったのに火村には私以外に特別親しくしている友人が居なかったように思える。私を通じて共通の友人なら沢山居た。
でも・・・。
それでも、自惚れでは無く一番近くに居たのは自分だった。そう言い切れる。

なんでもできるのに、な。
どんなヤツよりカッコいいのに、な。
無愛想な印象からは想像できないくらい、優しいのに。

なんで私なんだろう、と自己嫌悪にさえ陥ったこともあった。
・・・今でもたまに、陥るくらいに。


そんな事を考えて黙ってしまったアリスに、話しかけることをしないでアルはじっと見つめる。
アリス特有の癖である思考のトリップが珍しいのだ。

アルもまた、同じような環境で育ったといえる。

恵まれた体格と誰が見ても端正な顔立ち、それに加え名門のイートン校においても抜群の成績。おまけに名家のご子息。
黙っていても人が集まってくる。男女問わず、年齢すら問わずに。

火村と違うのは、アルはそれを巧く使うのだということ。
取り巻きに当たらず、人当たり良く振舞うことで巧くあしらっているのだ。

他人を拒絶する火村とは違う。
アルは表面上他人を受け入れるスタイルをとっている。

だからアルと居るとき誰でもが彼に夢中だった。

自分の持って生まれた容姿も家柄もそうだが、その深い緑の瞳が最大の武器で低く響くヴァリトンが最高の武器だと知っている。
知っているから、それを最大限に生かして相手を魅了する。


それなのに・・・、な。


じっと、隣に座っているアリスを見つめた。

驚くことに自分といっしょに居るくせにアリスはじっと物思いに耽っているのだ。

その定まらない焦点は切り取られた景色の奥を見つめていて明らかに自分を見ていないとわかる。 おまけに歩いてきたからであろうか、ぽうっと上気した頬で薄く口唇を開いては呆けているのだ。

もしかしたら、自分の言ったことすら届いていないことがあるのかもしれない。

それは。

そんな事は。


有り得ない筈なのに。


Author by emi