真実と有用性 -16-


青々と茂る緑に小鳥のさえずりが聴こえる。

見渡す限りどこまでも続く庭で、自然に任せて姿を変えていくのだろう木々が 優しく包んでくれる雰囲気がとてもいい。

それでいて足元は歩き易い様丁寧に手入れされているのがなんとも心憎い。そんな散策にはもってこいの庭をアリスは一人歩いていた。



無事に誤解も解けた後、込み入った話があるという火村を置いて私は外に出た。
一緒に居ると気を使うだろうから、という火村の心遣いから席を外させてもらったのだ。
憎からず思っているであろう祖父と孫、久しぶりの再会に積もる話もあるだろうし、何より私が居ない方が向こうも話がしやすいだろうと考えた末の決断だ。

私の緊張が限界を超えそうだったからとかでは・・・けっして無い。



庭に出るといった私に暫く逡巡した火村は、執事の人に持ってこさせたGPS付の携帯を持たせて真剣な顔で言った。


コレを無くすな、絶対だ。

子供じゃあるまいし、まさか庭で迷子にでもなると思ったのか?と聞くと、いたって真面目な顔で頷かれた。聞けばどうやら迷子になって倒れた使用人が居たらしい。
その広さ、ちょっとした公園よりも広い。大小6つの湖があり、庭なのに川が流れているとか。


なるほど、気をつけよう。


そうして先ほどからのんびりと歩いている。

いくら広いとはいえ、ようは屋敷が見えるところから離れなければいいのだろう、と思い小道をいく。

外界から遠く離れたこの空間では、日常の喧騒といったものを感じず さわさわと葉が風に揺れる音が古い洋館を覆って、なんともいえない雰囲気だ。

こんなところで篭って創作してたら、さぞいいもんが書けそうやな。

公園の様にもみえるが、外界との境界線には高い柵が張り巡らされていて ちょっとしたクローズトサークルといえなくもない。


数ある部屋をその日の気分によって変えて、行き詰ったらこうして散歩をしながら気分転換するのだ。古い城はそこが既に作中の舞台で、避暑に訪れていた主人公は小道を歩きながら木々に覆われた小さなハウスに横たわる死体を見つけ・・・・。


そんなことを考えながら小道を行くと、張り出した木々の枝の間に白く光を反射するものが見えた。それは屋敷からは少し離れたところにある、ハウスの屋根。


白い大理石だろうか、バロック式の建物で簡単な休憩所のようなものらしい。
入口はアリスのいる位置からちょうど反対側で中の様子がよく見えないが、近くに小川のせせらぎが聞こえているのでそれを愛でるためのものだろうと思った。

少し離れたところにあるハウス、あまり離れるのもどうなのだろうか、と屋敷を振りかえって見るも好奇心には勝てない。胸のポケットに入れた携帯を確かめるように触ると小道からそれて白い屋根を目指した。



簡単な小屋のようなもの、と高を括っていたがそれは大きな間違えだったようで近づくにつれ花の香りと共にハウスの全容が見えてきた。

それは細かい装飾を施された石製のハウスで綺麗に曲線を描くアーチとその周りを綺麗に彩る花達が美しい洋風の建物だ。少し小ぶりのチャペルか、礼拝堂の様にも見える。

その向こうには小川が流れていてせせらぎが聴こえ、なんともいい雰囲気を醸し出していた。

中はどうなんているんやろ。

少しだけ迷いはしたが、大きく開かれた扉の無い入口とそよぐ風に誘われて そっと表へ廻るとアーチを潜って中へと入る。


白い大理石が一面に引きつめられた内部屋には小さな噴水があり、その周りには可愛らしい天使の石像が置かれている。切り取られたようにぽっかりと開いた窓からは一面の緑と咲き乱れる花が見える。

・・・その、奥に。
ちょうど小部屋のように仕切られているのだろうか、テーブルとベンチの一部が見えてその上にはみ出した。

足?


まさか。


自分で先ほど考えていたのと同じシュチェーションに思わず身震いするものの、必死で否定しながら近づいていく。
そんなに頻繁にミステリのような事件は起きない。


・・・とは思うが。

火村についてフィールドに出ていると、案外込み入った事件も多いのだと知ったから全力で否定できないのが辛い。

それでも、やはり気になる・・・。

はみ出して見えるのは足、どうやら男性のものらしい。

綺麗に磨かれている薄茶の革靴はかなりのロングノーズで履いているのは明るいベージュのスラックス。ベンチに寝転んでいるのだろうか、・・・もしくは倒れているのだろうか。


おそるおそる、近づく。


滑らかなベンチの表面を覆うようにして大きな身体が横たわっていた。

綺麗な金髪に白い肌、シャツを少し肌蹴た胸元を確認すると僅かだが、確実に上下しているのが見える。

よかった、生きとる・・・。

ほっとして思わず洩らしたため息に気がついてだろうか、ゆっくりと閉じられていた瞼が上がって私は思わず固まってしまった。
その瞳は吸い込まれそうな、それでいて悲しげな深い緑。


碧眼なんて、はじめて見た・・・。

額に掛かる前髪を煩そうに掻き揚げながら目の前の青年は起き上がり、その瞳に見惚れて動けないアリスを見て柔らかく笑った。


『・・・アリス?』


Author by emi