真実と有用性 -12.5-


憧れの店内を遍く堪能した後、日本では未発売のミステリ本を手に2ブロック先のレストランテでディナーを食べた。
イギリスへ行くと食が合わなくて苦労する、という定説を覆すような料理の数々に舌鼓を打って程よく入ったアルコールと10時を過ぎてから漸く落ちた夕闇に包まれるようにして宿へ戻った。20分ほどの散歩は酔い覚ましにちょうどよくてアリスは上機嫌で石畳の道を楽しむ。

その間も、繋いだ手はそのままで。
雰囲気に呑まれたのだろうか。

見知らぬ土地で、旅路の疲れで、感覚がマヒしていたのかもしれない。

手を繋いで歩くことに何の抵抗も感じなくなっていたのは。


そんな風に歩いて 少し酔いの覚めたアリスは先にシャワーを使い、ウッドデッキの誂えられた洒落たバルコニーでワインをあけて手に入れたばかりのミステリを紐解いていた。

サマータイムとはいえ、夜ともなれば吹く風は心地良い。

濡れた髪を軽くタオルドライしただけで火照った身体を覚ますように風に遊ばせていると程なく火村が肩にタオルを掛けた状態でカウチに腰を下ろした。


「なんだ、また飲んでるのか」
「・・・ん?こんなええ雰囲気なのに飲まない手はないやろ?」

ほら、といって火村のグラスを渡すと、そうだな、と笑って注いだ液体を喉へと流し込む。


あとは勝手に手酌で飲んだらいいとほおって目線を手元に戻すと、 しゅっという音と共に煙草の香りが漂ってくる。


遠くに聴こえるざわめきとじじ、と煙草が啼く音と。
居心地のよいバルコニーでミステリを読みふける。


なんという贅沢だろう。


この上ない極上の夜に酔いしれてアリスは本の世界へと没頭していった。





首をおかしな方向に曲げながらも心地よさそうに本を読むアリス、 その細く白い指がざらついた特有の頁を捲っていくのを火村はじっと眺めてしまった。

その指は決して強くない。
ただの、指だ。

それなのに、そこからアリスは物語を綴る。
自分の世界を言葉に載せて実態あるものへと変えていくのだ。

方法はなんでもいい。ペンでもキーでも。
ただの指、なのに。確実にアリスの内面を形へとかえる。
・・・そうして目に見えないものすら形へと変えてしまうのだろうか。

心さえ、同じようにして掬い上げるのだから。


アリスの指先が火村に熱を伝えるのは何故なのだろう。
不思議と触れられた箇所から、じわりと広がる確かな物があるのだ。

温かく、優しく、柔らかい想い。


手を繋げば、それを感じる。


指と指を絡ませれば、もっと強く感じる。
そして、その指で確かに感じる痕を残してくれる。


「・・・アリス」
「ん?」

その指が。

「・・・足、貸して」
「ん」

その、心が。

ゆっくりと投げ出された素足を撫ぜる。
無条件に差し出されるその足を掴んで揉み上げていく。


「疲れただろう、普段あまり歩いていないからな、アリスは・・・」
「・・・ん〜、そうやね。キミよりは歩いてないなぁ・・・」

そっと、壊れ物を扱うように体毛の薄い滑らかな白い足をマッサージしていく。滑らかな掌に馴染んだ肌。
窺い見たアリスの表情はまだ、本の世界へ向かっている。
力無く投げ出された足は広めのカウチソファの上に伸びて 背を肘掛に持たれ掛けて頁を捲っている。

ふくらはぎに掌を沿え、裏をなぞるように揉んでいく。

徐々に足首へと移動してそのつま先まで丹念に揉み解すと、 アリスの気配が少しこちらへ向いたのを感じた。


「っ・・・・」

ほっそりとした足首を掴んで指を一本一本丁寧に包んでは揉むと、 アリスは完全に頁を捲る手の動きを止めて心地良さそうに瞳を閉じている。

あと、少し・・・かな。

にやりとしてしまいそうな口元は引き締めたまま、指だけを丹念に動かしていく。

左足から右足へ。
同じようにつま先までを解してから足を戻るように上へ撫ぜ膝を軽く押す。


「んっ」


そのまま、滑らかな腿へ。

完全に本を閉じたアリスはぴくりと躰を動かしたものの制止はしない。
掌を大きく使い、吸い付くような内腿へと滑らせる動きに漸く火村の意図が伝わったらしい。
やや上気した頬にうっすらと瞳を開いて火村をじっと見つめている。
気乗りがしなければ静止するだろう、意図に気が付いたのに何も言わないのはアリスの意思だろうと思い構わずに動きを続けた。


そっと際どく掠めるように指を滑らせては離れる。

軽く押しては撫ぜてを繰り返しているうち、聴こえてきたアリスの吐息に今度こそ微笑んだ。


「・・・アリス、気持ちいい?」
「んっ・・・・、気持ち、ええよ・・・」

ひむらぁ、と吐息の中で囁かれて。

その声がもっと聴きたくて。
伸び上がって耳元に口付けをした。


「アリス・・・、もっと聴かせて・・・」
「ぁ・・・・、ふっ・・・・、ひ、むらぁ・・・・・」

ああ、堪らないな。
もっと、だ。アリス・・・。





「ひぁっ・・・・、あ、やぁ・・・・」
「嫌なのか・・、アリス?なら、止めなきゃなぁ・・・?」

ぐっと押し付けた腰を言葉と共に引くと、頭を振りながらアリスが下肢を絡めてくる。


「やゃっ・・・、ぁやっ、めな・・・いでぇ・・・・・」

既に1度白濁を吐き出しているアリスにとって、いいところを掠めるだけで緩慢な火村の動きが もどかしくて仕方ないのだろう。

敏感に感じる内襞を擦りあげられ、視界は溢れた涙でぼやけている。



「ひ、むら・・・ぁっ・・・、も、もっとぉ・・・・!」
「もっと?・・・・こう、か。アリス」

くっと最奥へ打ち付けられ込み上げてくる射精感につま先まで甘い痺れが走る。

それよりも、同じように堪えきれないといった火村の掠れた声がアリスの心を揺さぶるのだ。


もっと、もっと。
火村にも感じて欲しい・・・。


思いはダイレクトに下肢へと響くのだろうか。

じんじんと湧き上がる感情に比例して、身体の内奥から痺れるほど強烈な快感がアリスを苛む。

「アっ・・・・、い、ぁっ・・・・、っく・・・」

先端からはとめど無く、透明の液が溢れ出してはアリスの下肢を濡らしている。
火村が腰を打ち付ける度、ぐちゃりと湿った音が響いて堪らなく淫猥で。

もうなにもかもが、いやらしくアリスを煽る。

「も、もっ・・・、だめぇ・・・・、ひむ、らぁ・・・!」
「っ・・・、ああ、アリス・・・っ・・・」


それでも、一緒がいい、と言っては懸命に腰を振るアリスに煽られないわけも無く、 余裕を浮かべていた火村さえ、限界が近い。


「ほらっ・・・・、っく、・・・アリス・・・、一緒に、な」
「ヒぁっ・・・、あ、あっ・・・・・、あああぁ・・・!」

一際、大きく腰を揺らめかせ穿つとくっと背を反らせアリスが達した。

ほどなく、突き上げた火村もその奥へと吐精する。

「っ・・・・、アリス・・・・」
「んっ・・・・、ぁ、・・・・はぁ」


そっと目を閉じていくアリスを見て、なんともいえない満足感を感じながらこめかみに口付けを落とすとするり、回されていたアリスの腕が落ちた。汗ばんだ肌、濡れた髪が額に張り付くけれど、それすら心地よいのだ。そうして息を整えた火村は、腰を引くと力なくしな垂れたアリスの躰を抱きしめた。

「アリス・・・・」

問いかけられたアリスは意識を飛ばしていて、かえる声は無い。

それでも、ちりと走った首筋から背中への痛みがそれの代わりとなる。


アリスの胸元に咲いた薄紅の印と対の、背中の傷痕は限りなく火村を満足させるのだ。


その、細く白い指先は引き金すら引くことは無い。
それでも。確かに、火村の心の中の何かを捉えて離さないのだろう。


指先は物語を紡ぎ、火村の世界を廻す。
それをするアリスが。

誰よりも何よりも大切なのだ。


Author by emi