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武舞。
音も無く、其れは動く。
しなやかな手足は泳ぐように流れるように。
無駄の無い足踏みは、驚くほど速い。足捌きは・・・強すぎず、弱すぎない。
飄々と、舞う様に・・・。
空気の止まった様な板張りの広間には、大勢の男達が固唾を呑んで其れを見守っていた。
白紺の装いに紛れた黒、そして、その黒が見つめる中央の晒。
おおっ・・・!
低音のどよめきと共に、板張りの床に大柄の男が沈んだ。
舞を魅せる白色はまるで表情を崩さない。
流石は、坊や・・・・・・・。
ふと誰かの呟きが聴こえた。
あれは、桜散る、春の出来事。
もう、何年も前の・・・。
「いやいや、とんだ災難でしたなぁ・・・」
顔なじみとなった府警の刑事にそう話しかけられて、苦笑するしかない。
こっちだって、好きで巻き込まれたのではないのだ。
「ま、お怪我が無くて何よりですな」
軽く手を上げて立ち去ると、掌をじっと見つめて呆けているアリスを見つけた。
「・・・どうした?」
「ん?・・・・いやぁ、なんや、なまってもうた」
暫く開いたり閉じたりと、何かの具合を確かめている様子のアリスは
うん、と一人合点するとほわっと満面の笑みで火村に話しかける。
・・・何かを思いついたな?
なんにせよ、あまり喜ばしい事態ではなさそうだ。
「やめ、やめ!今日は行かない」
「は?行かないって・・・店に?」
「ちょい、付き合うてな」
「お前、端的過ぎるだろ?なんだ、一体・・・」
言うなりさっさと歩き始めたアリスは向かっていた方向とは逆に歩いている。
その背はお世辞にも逞しいとは言えない。
言えないが、誰よりも頼もしい。
少しだけ、遡ろう。
「駄目だ、よせっ・・・・!」
火村の叫びにも振り返る事無く、犯人は一直線にアリスへと向かって走っていく。
徐々に縮まる距離に、後から追いかける火村は間に合わない。ソレを見てとり思わず叫んでいた。
「アリス!・・・・・殺すな!」
辛うじて目の端に捕らえた時には、鮮やかな色が黒い塊を蹴り上げて弾き飛ばしているところだった。
しなやかな、白い腕が空を舞い、すらりと伸ばされた足が高く飛ぶ。
その腕には、揺れるチェーンが見えなかった。
「ぎゃっ・・・!」
蹴り上げられた男は、驚くくらい離れた場所まで飛ばされ、カウンターの背に強かに打ちつけられて気を失ったようだ。
勿論、一撃目の払いで手にした刃物はアリスの手の中。
こうなることを、予想していたのだろうか。
一縷の隙も無く、呆けて魅せたアリスは息一つ上げずに其れをやってのける。
「・・・殺すかよ。ちゃんと手加減するっちゅうねん」
駆け寄った火村に刃を持った凶器を渡すと、あきれ顔のアリスはポケットからチェーンを取り出した。
「お前、わざと目立つように立ってたんだろ?」
「・・・ん〜?まあ、アイツの腹に物騒なモンが見えてたからなぁ。ま、なんとなく」
だから、腕のチェーンをはずしていたんだろ?
・・・邪魔に、なるから。
「・・・ったく、勝手に消えるなよ、アリス」
「はぁ?キミが呆けてんのが、いけないんやろ?ちゃんと見とけや」
不器用そうにいつまでたっても嵌らないチェーンを掛けてやると
サンキュ、と言って笑う。
まるで優男なのに、睫なんて、ばさばさの癖に。黙って立って居たら5分としないうちに声を掛けまくられる見目の癖に。
アリスは誰よりも、強い。
しなやかに舞う様に、動く。
その背は、白く細く、抱きしめたら壊れてしまいそうなのに。
「火村ぁ〜?おいてくで?」
「ああ、実家に寄るのか?」
「ん?そうやね、久しぶりに手合わせ、付き合うてな」
「・・・まあ、折れない程度に頼むよ、アリス」
そんなん、知らん。
そう言って笑い、寄り添うように肩を並べて歩く隣の男は
大学時代に知り合って、長い友人の期間を経て、恋人になった。
姓は、雅な有栖川。
名を、有栖という。
武の世界では有名な、心古流有栖川家・元師範総代だ。
出逢ったあの春、屈強な猛者たちを相手にその細腕で、全取り組みをしていた姿は
およそ汗臭い闘いをしているとは思えないくらい、綺麗だった。
舞を、魅せ、腕を見せる。
格の違いを見せ付けて、静まり返った道場でただひとり、悠然と立っていたアリス。
その姿に、今思えば、惚れていたのだろう。
誰よりも美しく、誰よりも強い。
だから、言ったのだ。
“アリスには、手を出すな!”
戯れでも、偽りでも、無い。
うかつに手を出したなら、怪我をするのは必至だからだ。
「なぁ、火村・・・。キミ、焦っとったやろ?」
「・・・いつ?」
突然の呟きに隣を見ると、悪戯そうに微笑むアリスと目が合った。
「俺が見つからなくて、探しに行ったとき。そんで、居なくて焦ってしくじったやろ?」
ふふ、と含み笑いをするアリスに俺が今、どんな顔をしているのか、わかる。
・・・・苦虫を噛んだな。
「・・・オレ、キミのそんなとこ、嫌いや、ないで?」
少し照れたような、それでいて当然のような微笑に。
ああ、そうだな。
いつかの春の日から、変わる事無く。
俺はいつだって、お前を探している。
いつかこのふたりの続きが書けたらいいな、と思っていました。紆余曲折、したらしい過去のお話とかも・・・。で、時がたつ事早1年・・・。やっと続きが書けました。補足に近いかな?
Author by emi