入学してから知り合った天農に掲示板で自分の名前を見たと教えられアリスは掲示板に立ち寄った。
そこに、彼は居たのだ。
すらりとした長身のその男はただ立っているだけなのに、同性ながら思わず見惚れてしまうくらいきまっていた。
じっと掲示板を見つめたまま、近づいてきたアリスにもちらりと視線を向けただけで姿勢を戻してしまった。
その一瞬、見えた顔にはっとした。
なんて綺麗な顔立ちなんやろ・・・・。
あまり近くに居て顔をしげしげと見るのも失礼かと思ってそっと盗み見る。
すっと通った鼻梁に涼しげな目元。意思の強そうなきりりとした眉。大きな掌が口元を触っていて、その長い指に、男らしい腕に触れてみたい、とすら思った。
魅入られたように見つめていると彼は驚くべき一言を呟いたのだ。
「ありすがわ、ありす・・・?」
声も無く立ち尽くす私の前を横切るように彼は行ってしまった。そこに書かれていた私の名前があまりにも珍しくて思わず声に出してしまったのだろうか。その声さえも、素晴らしくて・・・。
きっとその瞬間に恋に堕ちていたんだと思う。
それが火村とのふぁーすとこんたくと。もっとも、火村は知らないだろうけれど。
それでも二回目、は彼から話しかけられた。
偶然にも近い出会い。そして私たちはいっしょに居ることが多くなった。
どこに居てもやはり火村は目立つ。常に熱い視線を浴びている癖に
当の火村は面倒くさそうに顔を歪めて嫌悪を顕わにしっぱなしだ。
一度など、勝手に腕を組もうとした女の子に罵声に近い言葉を投げかけていたくらいに不機嫌を滲ませている。
ソレを見て触れられるのが苦手なのかもしれないとも思った。
けれど、何とか彼に触れてみたくて卑怯かとも思いつつ必死で考え出したのは
誰にでも触れる癖があるなら火村にだって触れる・・・・はずという作戦だった。
かなり無茶なこじつけだがそうまでしてアリスは火村に触れてみたかった。
なるべく自然であるように触れる。急にでは怪しまれるかもしれないと徐々に頻度をあげていく。はじめは差し障りない程度に、そして誰にでも。そして流れを崩さない様に火村に触れた。
不自然にならないようにと平静を装ってはいたけれど、内心はドキドキだった。
それでも恐れていたほどの嫌悪はされず。それからは徐々に触れる回数を増やしていった。
反対に他の人には触れなくなったけれど火村は別段訝しんだ様子もなくアリスが触れるのも嫌がる気配すら見せなかった。
とても満たされた毎日。
とても幸せな毎日。
そんな幸せな日々を送っていたある時。
火村がオレに好きだ、と言ってくれた。
心臓が止まるかと思うくらいに驚いた。驚いたけれどすぐにああ、と思い当たった。
火村は好き嫌いが激しい。嫌いなヤツには嫌いだとはっきり言う。
だから、好きなヤツにも好きだ、とはっきり言うのだろう。それでいっしょに居る俺にもわざわざ言ってくれたんだ、と。
でも、本当は嬉しかった。
だから、どさくさにまぎれてオレも好きだ、なんて言ったんだ。
ちょっと驚いたような顔をしていたけれど、すぐに笑ってくれた。
・・・よかった、俺のこと、嫌いじゃなくて。
それから、ちょくちょく好きだ、と言ってくれる。
その度に想いを込めて好きだ、と返している。
なんて、幸せなんだろう。
火村に触れても、彼は黙ってしたいようにさせてくれる。腹が冷えるからもう止めろ、と言われても酔った振りがしたくて冷えたチューハイを飲んだ。
そうして窓際に寄りかかった火村の胸にそっと凭れると、しょうがねぇなとか言いつつも優しく抱きしめてくれる。
調子に乗って寄りかかって瞳を閉じた。
背中に感じる君の温もりが心地よくて、思わず言ってしまった。
「なぁ・・・、ひむらぁ・・・」
「ん・・・・?」
「すきやで・・・・」
珍しく自分から言ってしまったことで火村が固まったのだと思った。
だって、ゆっくりと撫でてくれていた掌の動きが止まったから。
恐る恐る後ろを振り向くと、はにかんだように火村は笑って言ってくれた。
「・・・ああ、嬉しいよ、アリス」
よかった。
嫌われたかと思った。
欲張らないよ、火村。
こうして傍に居られるだけでも、幸せだから。
それが隣でなくても、大丈夫・・・だと思う。
今は、こうしていられるだけで・・・。
君の好き、のわけがオレの好き、とは違っていても。
鈍感にも程がある。
Author by emi