最近になって学生の頃の話をやけに思い出すのは、きっとあの日すれ違った人ごみで懐かしい顔を見たからだろうと思う。
あの頃とはずいぶん違う。
色々なことを経験して、いい意味でも悪い意味でも変わってしまったのだと思う。
大概の人間にも当てはまる感慨なのだと思うが、どんな事にも例外というものがあるのだろう。
彼がそうだ。
纏っている雰囲気も、まるであの頃と変わらない。
幾分落ち着いたようにも見えるが、それでもやはり、ついさっきまで授業を受けていたかのような学生独特の空気を纏ったままだ。
掴み所のない不思議な性格は今も変わっていないのだろうか。
ふわり、と柔らかく優しく微笑む頬は、なるほど、少しだけその張りを手放したようにも見える。
白い肌に血色のよい頬の紅、このコントラストは相変わらずで。
「・・・ってか、相変わらず一緒なのんやな」
「ん〜?ああ、そうやね。よく言われるんや、驚きやろ?」
隣に寄り添うようにして立つ長身の男と顔を見合わせた有栖川は、嬉しそうにはにかみながら微笑む。
ああ、あの頃から変わらない笑顔で二人、一緒に過ごしてきたんだな、そう感じるだけの距離感だった。
「なんや、この間も大学の頃の知り合いに言われてん。お前ら、まだつるんでるのか?ってな。めっちゃ驚いとったで!
そんな驚くようなことでも無いのになぁ、俺らやて天農と未だに会ったりするやろ?」
「・・・ああ、そうやね」
なあ、火村!と首をかしげて問う彼に曖昧にそれでも優しく微笑む火村の穏やかな笑顔にどれ程有栖川を想っているのかが滲み出ていて
それも変わらぬ想いに、いっそ清清しい位の感動を覚える。
驚いたのは、未だにつるんでいるという事実にではないと思う。
きっと、それは。
変わらない想いで大切な何かを守っていけるという事実に、だ。
あの頃に見た、あの笑顔のままで。
「っつうか、変わらないよな、有栖川・・・」
「そう?」
「・・・見た目なんてまだ20代でイケルだろ?な、火村?」
「そうか?こう見えて躰はぼろぼろの40代くらいだけどな・・・、ぃって!」
「な、なんや!失礼やろ!!」
顔を真っ赤に染めて隣の男を小突く有栖川は、やがて見合わせた瞳を綻ばせて嬉しそうに笑った。
じゃあ、と手をあげ、去っていく二人の寄り添った背に思わず、笑みが漏れる。
さながら吹き抜けた一陣の風のような幸せのおすそ分けをしてもらった気分だ。
すこしだけ顔を振り、踵を返して雑踏へと迷い込む。
願わくは、変わらない愛を育てていて欲しい。
願わくは、変わらない笑顔を振りまいていて。
そう、願って已まない。
どちらのアリスでも結末は同じというお話です。いつまでも変わらない幸せな想いがあるのだと、それを見ていたいのだという願いから天農視点で書きました。
Author by emi