苦悩への道のり -天農君の哀れな一日-



「えっと、俺ってば、どうすればいいっすかね?」



昼下がりの学食、先ほどまでの喧騒が嘘のように学生達は散っていった。時刻は1時40分、3限の授業が始まったのだ。 俺は今日は3限は休講、それで、だ。



目の前にはふてくされ気味の友人が居る。


なんとも雅な名前とは裏腹にいたって普通の、それでいてどこかほっとけない男は 先ほどから、俺に向かってたらたらと文句を言っていた。


・・・共通の友人、火村について、だ。


俺にどうしろと?



「だからぁ・・・、おかしいやろ?アイツ」
「まあ、普通、ではないなぁ。有栖川の言うとおりや」



トレーを下げられた何も無い白い机の上に頬を乗せて膨れる様は、 およそ同じ年には見えない。



「みんな、知っとるやろ?なぁ、バレバレやろ?」
「・・・そうやね。ま、確かにばれてるな。・・・てか、本人にも、なぁ」



先ほどまで火村が座っていたあたりを睨むようにして有栖川は尚もぶつぶつと言っている。


学部の違う彼は生憎と3限に必須が入っており、泣く泣く(実際、背中は泣いていた、と思う。 たかが、90分離れるくらいで)教室へと向かった後だ。



いや、だから、そんなん、俺に言われても・・・。なあ?



火村とは社学の友人で、俺は有栖川を通じて知り合いになった。

・・・実際、わき目を振らない、おそらくは自分以外の他人に興味を持たない火村と知り合いというだけでも珍しいかもしれない。



恐ろしく頭が切れて見目もいい、それだから、学内ではちょっとした有名人だった。

少しでも、お近づきになりたい、ってな女は後を絶たないし、教授陣も一目置いているような存在なのだ。


それが、いまや、恋する阿呆、だ。


そう、まさに阿呆・・・。


ラブハリケーンが吹き荒れていて、自慢のポーカーフェイスなど、駄々崩れ。
これだから、恋に慣れていないヤツは困る。



少なくとも、俺が知り合いになった時期にはすでに阿呆だった。


驚いたことに恋した相手は、目の前の細っこい、友人だった。

名前こそ、アリス、なんて可愛らしいが、れっきとした男。


確かに、見た目も何処となく可愛らしいし、色も白いし細い。
ちょっとした女よりは色気もある。
ぼうっとしていそうで、博学だし、話をしても楽しい。



まあ、誰を好きになろうが、個人の自由だからな。
そのあたりは、別にいいんだが・・・。



「好きって、言われとるんやろ?付き合ったらええやん」
「え〜?好き、とは言われたけどなぁ、その先、どうしたいのか言われてないもん」




もん、って。


口を尖らせて言っていいのは、か弱き乙女だけ、じゃないのか?



・・・・・・・・・・・、許す。


いいよ、お前はそれが似合うよ。うん。




「じゃ、有栖川から言ったらええやないか。火村のこと、好きなんやろ?」
「・・・・そうやけど。それはいやや!」



いやや、ってさっきから其処へ堂々巡りなんだよな。

「じゃ、俺が言ってやるって。それとなく・・・」
「それは、いやや、言うとるやろ、天農」



深い、ため息。


もう頼むから、ちゃっちゃとくっついてくれたまえ。
そのほうが、どんなにいいだろうか。



だって、ほら。


背中に突き刺さるような視線を感じると、冷や汗が出て寿命が縮むだろう?


「アリス・・・、生協に行かないか?」
「火村・・・、早いなぁ。もう、終わったん?」



おお、目は口ほどにモノを言う。



大丈夫だって、他の男が寄り付かないようにちゃんと見張っていたんだから、さぁ。


そりゃ、仲良く話してたのは確かだけどね?
オトモダチやから、そこんとこ、宜しく、火村。


だから!

そんな威嚇オーラを俺に向けんなっつうの!
怖ええ、から!


俺が密かに冷や汗を拭ったことなど気がつきもせずに暢気な声だなぁ、おい。


じゃあなぁ、天農!


生協のプリンに釣られてあっさりと有栖川は去っていった。




もう、いっそ、押し倒したらいいのに・・・。



再度、ため息。


そう思いつつもなんだかんだと、気に掛けている自分が一番阿呆なのかもしれない、と思った。







小悪魔アリスverはこれで終わりです。おまけの「幸せの証明」は鈍感verとも同じ内容となります。鈍感verアリスをお読みになりたい方はまずそちらからどうぞ。小悪魔verだけでイイよという方はこのまま最後、幸せの証明へとお進みください。

Author by emi