苦悩への道のり -火村英生の災難-


俺は先週、爆弾を投下した。


いや、正確には投下したが爆発しなかったので仕方なく時限系の爆弾に変更したのだが・・・。


時間が来れば爆発するだろうと思って放置してある。


・・・何時になるのか予測不可能ではあるが。




それは健気にもコツコツと時を刻むだろう。


その音は大きなもののはずなのに、困った事に仕掛けた本人には聴こえないらしいのだ。

勿論、派手な音を立てて時を刻むのもだから、周囲の人間には駄々漏れで その爆弾に近づくものなど居やしない。


・・・まあ、それはそれでありがたかったが、 思わぬところで人避けが出来てよかったと喜ぶべきか憂うべきか判らない。




ぜんまいが止まってしまわぬようにせっせと毎日油を差してはぜんまいを巻くの繰り返し。

我ながらご苦労な事だと呆れはするものの、折角投下した爆弾なのだ。

不意にするのは忍びない。

それに必ず射止めると心に誓ったのだ。


男たるもの、一度決めたからにはやり遂げなければ一生悔いが残るというもの。
何が何でもやり遂げてやる。



そうして爆弾を背負っているのに気がつかない鈍感な男を見つめる。

ぱらぱらと雑誌を捲り手には冷えた飲み物を持ったアリスはいたってのんきだ。 そんなに冷たいものばかりを飲んでいると腹が冷えるぞ、という忠告もあっさり無視された。


なんてことない、普通の人間だ。

ただ、ちょっとばかり細くて白くて。


まあ同性ではあるが火村自身は問題無いと思っているからいいのだ。


そして、救いようが無いほど・・・鈍感なだけ。


「・・・アリス、好きだよ」


ふと出た呟きに動じる事無く、目線をあげると大きな瞳でまっすぐに見つめ 嬉しそうに笑って言った。



「ふふ、ありがとな!オレも好きやで、火村」



ああ、誰か。


頼むからコイツのハートに火を貸してやって欲しい。

・・・誰か?

それはそれで、嫌だな。


誰かがコイツに火をつけるなんて想像したくも無いことだ。
となると、やはり自分でなんとかするしかないのか。



彼の名誉の為にひとつ言っておく。

全体的に鈍いというわけではない。
それどころか、自分以外の誰かのことに関しては驚くほどに繊細に気を使うし
呆れるくらいに鋭いのだ。

鈍いのは自分に関してだけ。


勘弁して欲しい。


それでも、仕掛けた以上は何とかしてみせる。


せっせと、好きだ好きだと言って油を差してはするりと交わされ
毎日尽くしてはぜんまいを巻いて煙に巻かれる。



情けないことこの上ないが、致し方ない。


なにせ、相手はアリスなのだ。


邪気の無い笑顔で俺を懐柔して瞬く間に虜にしてしまった。
それこそ、悪魔のような微笑・・・。


「・・・好きなんだよな、お前が」


頬を赤らめでもしてくれれば、少なくともこの言葉の意味が好意だと 伝わっているのだとわかるのに、残念ながら嬉しそうに笑うだけ。



「なんや、オレって幸せものやね!」


屈託の無い笑顔は、それだけで罪だと思うぞ。
始末の悪い事にアリスはやたらと人に触れる。


触れたかと思うと笑う。


オレが爆弾を仕掛ける前は、それはもう盛大に触るし触られていた。

アリスが触れるからそれに便乗して触れるヤツが居たんだが、 あからさまに不機嫌オーラをぶつけてやったらと途端に離れた。



触るなよ、それは俺のだからな!


牽制しまくったおかげで今ではアリスが触れる前にさっと避けるようになった。


いい傾向だ。



が、俺にとってはまさに地獄・・・・。


皆が避けるようになったためにその鬱憤を俺にぶつけて来るようになったからだ。

まあ、手っ取り早くいえば俺にだけやたらべたべたとしてくるようになった。
酒が入ればそりゃもう、べったり・・・。


好きだ、と囁けば俺もや、と言って微笑むアリス・・・。
無防備にも俺の腕の中にすっぽりと納まって体重を預けて・・・。



くそう、頼むから早く爆発してくれないか。



これでは俺の方が爆発しそうだ。



「・・・・ひむらぁ?」

くっ、そんな舌足らずな発音で俺を呼ぶなよ。



「・・・どないしたん?」

うっ、上目使いで俺を見つめるな!



瞳が潤んでるぅ・・・・・!

「・・・・・・なんでもねぇ」



そ?などと軽く呟くとあろうことか腕の中で目を閉じやがった。


襲うぞ、コラ。

何度思ったか判らない強○作戦はきっと実行されることは無い。



・・・・たぶん。


完璧なまでの妄想は、何時しか俺の日課となった。情けない。
それでも、アリスの嫌がることはきっと出来ない・・・筈。


俺は最近、しみじみと思うよ。
神も仏もいやしねぇ、絶対。


でなけりゃ、此処まで鈍いヤツが好きなわけねぇからだ。



どうしてくれよう、コイツ。



それでもアリスに気が付かれないようにそっとため息を洩らす。


押し倒したら、気がつくだろうか?
気がついたとしても逃げられたらそれまでだ。



ぎゅっとアリスの細い腰を抱いて同じように目を瞑った。
酒が入っているせいか、若干高めの体温が心地よい。

まあ、焦らずに行くさ。


アリスを手に入れる為ならなんだってする。コレくらいの焦らし、耐えて見せるさ。



「なぁ・・・、ひむらぁ・・・・」
「ん?」

「すきやでぇ・・・」



耐えられる・・・・たぶん。



続きは「小悪魔アリスver」と「鈍感アリスver」になっております。お好きなほうをお選びいただいて御進み下さいませ。どちらのverにも「幸せの証明」というおまけがあります。

Author by emi