王の花嫁 -9-


友人に近いのが居る、従兄弟だが…。


次期王なのだから…。



火村の言葉にアリスは驚きを隠せない。



「王、ってことは…」
「ああ。アリスの縁談の相手だな。…いや、結婚はするんだから…まあ、一般的には夫になる人間という事か。従兄弟と言っても直接血の繋がりがあるわけじゃねぇが」


火村の従兄弟が次の王と言うことは、やはりやんごとなき身分だったのだ。一介の使者とは思えない物腰にも納得がいく。
そんな事を考えながら、はたと思い出した。

普通に話せることが嬉しくて肝心なことを忘れていた。聞きたいことがあって火村を探していたのだ。


「火村…、あ、あのな…?」
「ん?なんだ、アリス?」

「その、オレが男やって事、知ってるんよね?それなのに…ってどういうことなん?」

意を決し尋ねるアリスを見てなぜだか火村は満足そうに笑った。そして背もたれに腕を置き寄りかかり、長い足を組んで身体を向ける。

「こちらとしても都合がよかったんだよ。…王は己の血を引く後継者を残さない、と常から公言している。妻を娶るつもりも端から無かったんだ」
「…じゃあ王位はどうするん?」
「王には年の離れた弟君が居てな、マキ様とおっしゃるんだが、そのマキ様が成人されたら王位を譲り退位される事になっている」
「…それって王位継承で揉めないように…?」

それではまるで…。

「そう。お前の国と同じような理由だな。…まあそもそも現王は即位する気が毛頭無かったのに適任者が居なくて仕方なく期限付で王政を預かっているに過ぎないんだよ。その上結婚して子供でも出来てみろ。争いになるのは火を見るより明らかだ。が、王として王制を預かっている以上、手順を踏んで持ちあがった結婚話、滅多なことでは反故にできない。そんなわけだからアリス。お前が“姫”であるが“男”というのは当方にしてみても願ったり叶ったりだったんだよ」

「そうなんや…。でもそれならそれでわざわざオレなんかと結婚せえへんでもええやろうに。それか子供を作らなくても違うちゃんとした女を選ぶとか…」

すると大きなため息とともに火村が髪に指を絡ませてきた。

「…っ!」



他人に触れられる事に慣れていないアリスは内心かなり驚いたのだが、当の火村は気にする様子もない。

背もたれに腕を置いた体勢でちょうどその位置にアリスの頭があるから手持ち無沙汰に触ったといった感じで不自然さを覚えさせない。こんな時、なんといったらいいのかもわからなくて、アリスはとりあえず火村の指を軽く払った。


「甘いな、アリス。いくら結婚はしない、と公言していても王ともなればそれこそ縁談などうんざりするくらい舞い込むものだ。体裁の為に結婚して子供を作らずにいたとしても、だ。王自身に不慮の事故があって残された王妃の腹に遺児でも居てみろ。死んでその後、その子が自分の子では無いと主張する事なんて不可能だ。…そんな画策をする輩はいくらでもいる。女である以上間違いが起きないとも限らない」

そう言って火村はどこか諦めたように笑う。

くるくると髪を弄る指先は払ってもまたすぐに絡ませてくるので、アリスは諦めて触らせていることにした。

「だからって…」
「アリス。お前もおなじだろう?姫である以上、結婚もしないままでいつまでも城に居れば周りはやがて思うようになる。結婚しないのには理由があるのではないか、と。疑問はやがて詮索になり、…そうなれば、ば事が露呈するのは時間の問題だろうな。お前の母上様はそれを心配されて今回の縁組を打診してきたのだ」
「あ…」

「なんせ我が王は後継者を作らない、と公言して謀らないのだからな」

訳を聞いてみれば納得がいく。王室の姫ともなれば当然後継者の問題が出てくるだろう。子を産めぬ嫁など論外のところ、後継者は残さないと公言しているのであれば別だ。突然の縁組と思っていたのが実は思慮に思慮を重ねた母上の配慮であったのだ。

「まあ、お前の風体ならば王妃として振舞うことに違和感は少ない。いろいろと煩く言ってくる連中も黙るだろうさ。それに、もともと期限付きの王位なのだから、いずれは退く。王妃とは言っても特別何かをしなくても良い。ここまでとはいかないが我が城にも図書室はある。退屈はしないだろう?」
「そうやね…」

尚も心配そうに表情を曇らせているアリスを見て、火村は頭を軽く撫ぜると、思いの他優しい声で囁いた。同性とはいえ不覚にもどきりとしてしまった。やっぱり火村の声は…心地良くて、心臓に悪い。



あれ、心地よいのに心臓に悪い…?

自分で思ったことなのに、その意味が分からなくてアリスは考え込むんでしまった。が火村は気が付かず続ける。

「そんなに心配することは無い、アリス。昨日からお前と話をしてみて思ったが、きっと王ともうまくいく。弟のマキ様も気の優しい、いい子だ」
「イイ子…?」

「ああ、未だ5歳だからな。父親はオレの腐れ縁みたいなヤツなんだが」

火村はしれっとしているが、訳が分からないことを言った気がする。


王の弟の父親…。

ということは王にとっても父親であるわけだ。その父親は火村と同じくらいの年らしい。そうなると30代前半くらいか。

いったい王はいくつなのだろうか?


疑問が顔に出ていたのだろう、考え込むアリスを見た火村に鼻で笑われた。

「むぅう、よくわからんのや。…て笑うな!」
「アリス。腹違いではないんだ、父親が違う。ついでに先に言っておくと先代王位を継いだのは現王の母親だ。女帝と云われた程の豪傑でな、見目は麗しかったが気が強かった。底抜けに、だ。うんざりするくらいに…まあそれはいい。マキ様の父親はもともと宮廷付の画家でその母親となれ初めたんだ。5年前、弟君を身篭った際に崩御されて当時16歳だった兄が王として即位された」
「…つまり王は21歳?」

ふん、と鼻を鳴らして立ち上がると大きく伸びをしてアリスを見下ろす。

「そう。オレが21だから同じくらいと思え」
「えええ?」

アリスの上げた声に腕を振り上げた状態で止まってしまう。

「…なんだ、アリス。それは…」

驚いたように目を丸くするアリスは信じられないと呟いている。

「火村…、21歳なんや…。見えない、見えないよな…。30歳くらいかと思ってた…まさか、オレと同じなんて」
「はあ…?誰と誰が同じだって?」

あげたままの手で黒い髪をがしがしと掴み今度は火村が驚いた。

「なんやの?オレかて21歳や。どう見たって君の方が老けとるやろ」
「…いや、アリス。それは詐欺だろ。お前、どうみても14、5じゃねぇか」

「あほか!んなわけあるかい、…君こそ老けすぎなんや!14,5って子供やないか」

ややむきになって頬を高潮させる様はどうみても幼い。それを見た火村が薄笑いを止めないので更にアリスは怒る。怒りながらもなんだか嬉しくなってしまい、自然と笑顔になってしまった。


自分を隠さずに話をするのがこんなにも楽しいなんて知らなかった。
火村が同じ歳というのも、本が好きというのも。
そして不思議と気が合いそうなのも嬉しかった。


願わくは未だ見ぬ王も火村のようにいっしょに笑えるような人ならいい。
そう考えると憂鬱でしかなかった結婚も、それはそれでいいかもしれないと思える。


嬉しそうに微笑むアリスを、眩しそうに目を細めて火村が見つめているのにも気がつかずに…。



嬉しくってつい更新///

Author by emi