CADの授業

 これまでほど、他大学の設計授業について講演会で聴いたことがあるが、先日新たに、ある大学の設計授業に関する講演を聴く機会があった。
 その催しは平行して多くのセッションが開催されていて、参加者ほとんどが企業関係者だと思っていた。しかし部屋がほぼ満員となって、熱心にメモを取る聴講者を見ると、学校関係者も多かったのかなと思われた。私の場合、本学と同じCADを使用した授業との事で、おおいに関心があった。

 その大学の機械工学科では、1年から製図教育が始まる。1年では製図ルールや製図の授業が行われる。2年では減速機を設計製図する授業だ。これらはドラフタを使用する手描きで行われる。そして3年前期でCAD・CAMの授業が行われるという。

 CADの授業だが、本年度の課題は卓上旋盤だ。以前に卒業研究で製作された物がモデルだという。先ずはCADの使い方から授業されるわけだが、別にEラーニングのサイトを立ち上げて、映像で説明するので、授業に出られないものでも学習が可能なようになっている。
 CADの習得に関しては、学生間に大きな格差があるという。わずか2回の授業で、4月末にモデルを完成させた者もいる。そんな学生達には別のモデルが用意されている。 手巻きウィンチ、減速機さらには自由課題などだ。

 CADの次はCAEの授業だ。ソリッド構造の応力解析、シェル構造の応力解析、そしてスライダクランク機構の機構解析と、3回で済ませる。
 CAMの授業だが、特定のモデルに対してNCチェックやNCコード作成を行い、NC加工の見学をする。そして最後は総合演習で、特別課題を行う。

 「オーソドックスで、教員の強いこだわりが感じられる授業」との印象を持った。多分、CAD・CAM・CAEを除けば、40年前に我々が受けた授業と大差ないのでは思う。
 実は、このCADを使ってどんな図面教育を行っているのかというのが、最も関心のあるところだったが、それについては言及がなかった。設計製図教育は従来の手描き手法で行って、CADはツールと割切って使い方を教えるに留めている。社会に出れば、手描きで設計製図をすることは滅多にないが、教育にはそれが最適との認識なのだろう。
又、設計製図の単位とCADの単位が、明確に分離されているのがいい。

 CADは他学科の学生にも人気があって、4年になって研究室に配属されれば使用可能になっている。テキストも独自に作成して、無償で配布している。より高度なスキルを得たい学生には、本学で発行している、「Pro/ENGINEER Wildfire2.0による実践3次元CADテキスト〜基本操作からトップダウン設計まで」を紹介しているそうで、割切りもある。
 ベンダーが推奨するトップダウン設計の設計を、本来の機械設計の意味と混同する事はなかったようだ。

 本学では、この本がスタートだ。トップダウン設計はバイブルのように信仰されていて、2年間の4学期に、ゴミ箱・パワーショベル・スピンドル・シリンダと教材を変えて繰り返し教えられる。今年の2年秋学期はCAE授業に変わったので、パワーショベルは無くなったが。
 本学でのトップダウン設計は、非常に強い拘束を与えてモデリングを行い、1ヶ所寸法を変えればそれに関連する部品の配置や形状が自動的に動くというものだ。しかし現実には、CADのバグやネットワークの不安定等で、エラーが頻発する。非常に繊細だし、実施する設備環境が整っているとは言い難い。仕事だったら無理だろう。

 私の場合、このCADを常用しているわけではないが、何年も授業を手伝って学生のトラブルシュートをしたり、先述の本の執筆者でもある、非常勤講師から直に様々なスキルを学んだりした。大変勉強になり、私のための授業の様だった。
 学生間のスキル格差は大きい。先輩からファイルをもらって、それをトレースすれば何とかなる事もあるが、そんな学生ばかりではない。

 アリ地獄に落ちた3年生が助けを求めにきた。お決りのエラーメッセージが潰しても潰しても出てくる。「最初からやり直したら」というには納期が迫りすぎていた。すっかり気弱になって「毎年何人くらい落ちるんですか?」と訊いてくるから、「死ぬ気でやれよ!」とハッパをかけた。このCADは3Dが完成しないと、2D図面に手をつけられないからだ。
 教員には内緒だが、拘束をバンバン切り捨てさせて、エラーメッセージを沈黙させた。採点時に、どこまでトップダウンモデリングをチェックするか知らないが、多分うまく動かなくても、原因を特定するのは困難だろう。

 その学生は無事に単位を取得できたが、時々翌年も授業に顔を出す学生を見かける。ある学生の場合、原因が図面なのか計算書なのかは知らないが、元々不得手なCADのスキルは簡単には向上しない。今年もダメかとハラハラして見守っていたが、無事卒業していったようだ。

 機械設計技術者試験という資格があって、3級は実務経験がない学生でも受験可能だ。4力学が必修でない本学では、学生も受験を躊躇するほどの資格だ。試験でCADの概念的な知識は要求されても、スキルは要求されない。
 資格と授業の単位は全く異なる性格のものだが、機械設計という共通エリアの中で、CADスキルの占める比重の違いの大きさを懸念している。 (2009/12/13)


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