すごい授業
先日、企業におけるCADの使用事例を聴く機会があって、そんな発表に混じって、ある大学の設計製図講義の内容について聴くことができた。
油圧シリンダのストロークを変更してみるという、CAD機能の演習は説明されたが、具体的にCADをどう使うと言う話ではなく、又質疑応答もなく発表を聞くだけだったが、真摯な取組みにすごさを感じた。
その大学では、設計製図の教科は2年の後期から始まる。2年の前期から専門課程の教科が始まるが、他の専門知識がない状態で、設計製図を教えるのは適当でないとの考えがあって、半年遅れてのスタートだ。
最初の学期では製図のルール講義や手描きやCADでの製図演習が行なわれる。まだ手描きにこだわった授業がなされているのに驚いたが、CADの操作を教えるだけにならないように気をつけていると言う話には納得だ。この時点では、学生の興味をつなぐのが大変なようだ。
3年前期には設計講義が始まる。課題はスターリングエンジンの設計だ。4人のチームで、設計に留まらず、製作・試運転まで行なう。どのような条件が与えられているか分からないが、完成した物は直列形、V形、水平対向形と様々だ。試運転はガスバーナーを使用する。実際にカラカラと回っている映像を見せられると、学生ならずとも興味をそそられる。又学生が実際に機械を操作して加工しないと、嵌め合いの精度を実感できないという。
ただ、やる気のある学生とない学生がでてきて、ある学生が多いチームは気筒数も多く、充実した物になるそうだ。各々の作業を完全に分担できるわけではないだろうから、学生同士でどのように折り合いをつけているのか、興味がある。
講義は20回(@3時間)と言うから、この期で集中して教育されるのだろう。ただ、学生の人数にもよるが、加工設備が充実していなければ難しいところもある。
3年後期は振動設計の講義だ。長さ50、幅30、高さ2mmの片持ち梁に各自が自由に加工を施して、1500Hzにおける先端中央部の振動をいかに少なくするかについて、コンペが行なわれる。梁の材質はスティールとプラスチックの2種類を選択できる。
まず解析ソフトを使って形状を決定した後、自分で加工をし、加振機に載せてドップラー変位計で測定する。
特定の周波数で、特定のポイントのみの振動制御だから、様々な工夫の余地があるようだ。学生の工夫例が紹介されたが、驚くようなアイデアもあった。
講義は8回行なわれる。
すごいと思うのは、まず設計や解析に留まらないで実際に製作までやって検証させている事だ。動く課題を設定して興味を持ちやすくしているのも良い。CADがない時代に私が受けた設計教育は、計算書を作って図面を完成させる事だった。現在はCADが使用され、アニメーションのような動きも実現出来るが、バーチャルな世界に留まると言う点では大差ない。設計教育とはそんなものだと思っていた。
実際に機械を操作して、嵌め合いの精度を実感できるというのも良い事だ。例えば汎用旋盤で、素人が1/100mmの精度を出すのは、容易でない事は私も知っている。実験や実習で機械を操作する事があるかもしれないが、自分が設計したものでは気持ちが違うだろう。
全て習得できれば、ホップ・ステップ・ジャンプと機械設計の基礎を学ぶ事ができるだろう。従来からある、複数の設計課題をこなす教育も、それなりに有益と思うが、時間も限られている。
手描き製図だが、どんなところにこだわりがあるのだろうか。
以前、工場勤務時代に新人スタッフに機械製図を教えた事がある。工場スタッフだって機械配置図や治具の図面を描く必要がある。しかしドラフタや定まったCADもないので、フリーハンドで描き方を教えた。CADの使い方を知らない制約もなく、大変スムーズだったのを覚えている。 (2007/7/17)
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