舞鶴ツアー2014その2(櫻湯アーヴー編)

2014.11.29



        と言う訳で初日の見どころを一通り見て回り、舞鶴から福知山市内へと移動。御霊神社横の立体駐車場
       に車を預け、櫻湯に向けて出発です。ここからは少し距離がありますが、福知山の街並みを眺めながらの
       んびり歩くのもいいもんです。
        殆どの店舗がシャッターを下ろしているのにやけに明るいアーケード商店街に入り、角を曲がると・・・お、
       右手の方に控えめな黒煙をたなびかせている煙突が見えてきました。きっとアレですね。って、いまどき薪
       でお湯を沸かしている
んでしょうか?


        すぐに櫻湯に到着。初日の締め括りの為に京都府下の銭湯を調べていて、たまたま見つけたこの櫻湯
       
ですが、いまどき珍しいいにしえの銭湯の香りが残った特別天然記念物級の銭湯らしく、凄く楽しみにして
       いたのでした。
        玄関の松の木の塩梅といいその佇まいといい、今年の春先に入った綾部市の松本湯によく似ています
       が、あちらが古い旅館風の木造日本家屋だったのに対し、こちらはコンクリ造りの古い病院風。暖簾と松
       という和風テイストに惑わされますが、建物自体は昔のビルヂングっぽい洋風建築なんですね。
        営業時間を知らせる看板の下には、専用駐車場の案内がありました。あ、駐車場あったのか。


        一呼吸置いてから、男湯のドアを開けます。おおお、予想を裏切らない実にレトロでアナクロな風情に満
       ち溢れた室内。扉一枚で、40年ぐらい前にタイムスリップした様な気分です。
        番台のある入口スペースは天井が異様に高く、2階の高さまでホール状の吹き抜けになっています。一
       方奥の脱衣所は普通の高さの天井になっており、どうやらその上が中2階状の住居になっている模様。
        吹き抜け部分は2階からの採光もよろしく、すごく古臭いのにちょっと洒落た雰囲気。ああこれはもう、
       当り間違いなしの超優良銭湯
の予感ですよ。


        先客がいないのは撮影上ありがたいのですが、ついでに番台にも誰もいません。勝手に入るのも憚られ
       たのでスミマセンと声をかけると、2階からおばちゃんがトコトコと降りてきました。開店してすぐにお客が来
       るとは思っていなかった様ですが、このあたりの程良い緩さもいい感じ。おばちゃんは愛想のいい人で、室
       内の写真撮影についてお願いすると、快くOKして頂きました。
        ついでに色々とお話を聞かせて貰ったのですが、この櫻湯、なんと明治37年の建築だそうです。なるほ
       ど。それ位の年月を経ないと、この深く静かな味わいは出ないんだろうなあ。まさに風格としか言いようが
       ない、古い建物が好きな私にとっては溜息が出る様な雰囲気に満ち溢れています。


        ちなみにこの櫻湯、銭湯関連のHPや雑誌等でも取り上げられていて、全国からマニアの人達がやって
       くる
との事。そりゃそうでしょうね。こんな銭湯、探したってそうそう見つかりません。
        また、スペイン人女性カメラマンが撮影に来た事もあったそうです。うーん、この櫻湯に目をつけるとは!
       流石にアントニ・ガウディを生んだお国柄。スペイン人お前もわかっとるやないけと、前田日明の様な事を
       思ってしまいました(笑)。


        いやあ、ほんと素晴らしい!この銭湯は呉の神原湯に匹敵しますよ!と感動にうち震えていると、おばち
       ゃんが
        「あ、でも男湯と女湯はちょっと違うんですよ。ん〜、今、人がいませんし、ちょっと見てみます?」
        え?それは願ったりかなったりです!っていうか、女湯に入るのはさすがに初めて(笑)。ちょっとドキドキ
       しつつ番台の脇を回って女湯に侵入すると、成程男湯では客用トイレになっているスペースが、小さな庭
       
なっていました。本来は両方とも庭だったそうですが、男湯の方は途中からトイレにしてしまったとの事。


        さて、いつまでも感動に浸っていても仕方ありません。時刻は16時を回り、別のお客さんが来てもおかし
       くない
ので、その前に浴室内の撮影もさせて頂きましょう。
        しかしこの、古武術道場の様な板張りの床、その上に敷かれたゴザ柳行李の脱衣籠、冷蔵庫の裏みた
       いなクーラー、骨董品の様なマッサージチェア。小物の一つ一つまでいちいち素晴らしすぎます。
        すぱっと服を脱ぎ、脱衣棚に放り込みます。本当は福知山のご当地第7普通科連隊にあやかって、7番の
       棚
に入れたかったのですが、あいにく鍵が無くなったまま締めきられていたので、仕方なく8番の棚に収納。
       その代わりと言ってはなんですが、7番の柳行李を撮影させて頂きました。


        脱衣所の暖簾をくぐると、浴室入口の上には赤青緑黄の原色ステンドグラスがしつらえてありました。
       なんというか、江戸川乱歩チックでいい感じだなあ。引き戸のガラスの飛散防止のステッカーも、これまた
       実に時代がかったデザインでとてもステキ。ああ、もうたまンないなこれは。


        という訳で浴室へ。カメラのレンズがあっという間に曇るので、タオルで拭き拭きしながら撮影です。縦長
       の浴室内の右奥に湯船があり、それを囲むようにL字型に洗い場が並んでいます。
        水色ペンキで塗られたカマボコ倉庫状の天井は、女湯とイケイケになっていて、その形状といいペンキの
       剥げ加減といい、昔の米軍住宅っぽい雰囲気を醸し出しています。建物正面がレトロ洋風テイスト、室内は
       古武術道場風、浴室は米軍住宅風ともうごちゃごちゃですが、これが不思議と調和しているのは、明治期
       からずっと生き抜いてきたこの建物、そして福知山という歴史ある土地のなせる技かもしれません。


        ちなみに言うまでもありませんが、先程から感動に打ち震えている私、当然フルチンであります。
       各地のイベントで私と顔を合わせた事がある方は、是非その様子を思い浮かべて存分にお楽しみ下さい。
        腰かけケロリン桶を拝借し、洗い場の前に落ち着きます。壁に沿ってカランが沢山並んでいますが、こ
       れがプラスチック製の平べったい形だったり金属製のU字型だったりと、てんでバラバラ。さらに湯量を調
       節するツマミ部分
も、レバー型だったりドアノブ型だったりと、非常にバラエティに富んでいます。
        途中で修理したり入れ替えたりで、前と同じ部品が揃わなかったんでしょう。こんな所にも、長くて緩い年
       月の積み重ね
が伺えます。


        また、よく見ると足元に並んでいる桶用のカランのふたつにひとつの割合で、蛇口からぽたぽたと水漏れ
       が発生しています。パッキンを入れ替えればぴたっと止まるんでしょうけど、このいい塩梅のルーズさも、下
       町銭湯の味わいであります。
        全身を石鹸で洗い、湯船に入ります。湯船は左右に2つ並んでいて、左側の方が浅くなっています。右側
       に流れ込んだお湯が左右の仕切りの穴を通って左側に流れ込む仕組みになっていて、浅い方の左がぬる
       め、深い右がやや熱め
の湯加減。左が子供用、右は大人用という使い分けでしょうか。


        湯加減は丁度よく、熱さのストレスなくゆったりと入る事が出来ます。湯船の中には一段腰かけスペース
       
があり、そこに座ると胸の下あたり、中央部に立つと股関節あたりの喫水になりました。
        したがって肩までしっかりつかるには、中央部でしゃがみ込む後頭部を湯船の縁に引っ掛けて浴槽内
       で斜めになる
かですが、今日は私一人の貸し切り状態なので、遠慮なく斜めになります。アー、じつにいい
       お湯。塩素臭さは殆ど無く、今日一日の疲労がお湯の中へと溶けだして行くようです。ヴー
        朝から冷たい雨に打たれたり泥にはまり込んだりと、山の中で散々な目にあいましたが、それもこれも
       の櫻湯を心の底から味わうための試練だったのだ・・・と、納得させられるレベルの心地よさ。
        ふと見上げると、天井中央部には吹き抜けの天窓がありました。トタン板はすっかり茶色になって透明感
       はありませんが、これだけでもなんとなく開放的な気分になりますね。


        ゆったりと温まった後は水シャワーで体を冷まし、もう一度じっくりと温まってしまいました。ああもう、文句
       のつけ様がない素晴らしいレトロ銭湯
でありました。こんな銭湯が近所にあれば、毎日でも入りに来るのに
       なあ・・・。
        実にさっぱりした気分で浴室を出ます。ふと見ると、番台の前には小さな冷蔵庫があり、細缶のポカリスエ
       ット
オロナミンCがぽつんと入っていました。ここは締めにオロナミンCをいっときたかったのですが、この
       後の車中泊のビールを盛り上げる為に、ここはぐっと我慢して喉の渇きを大切にします(笑)。
        玄関脇には色とりどりの桶が並んでいて、これは常連さんのキープなのかと思いきや、以前よく来ていた
       けどいつの間にか来なくなった人のものを残してある
との事。
        時代の風雪に晒されながらも形を変えずに生き残っている櫻湯と、否が応にも変わらざるを得ない人の
       営みと世相
を対比しているようで、少ししんみりとさせられました。昔この桶をキープしていた常連さん、この
       櫻湯を思い出して、また入りに来てほしいなあ。


        最後はこの、富士自動マッサージ機製のマッサージチェアを味わいます。ひじ掛け部分に10円玉を入れ
       る様ですが、これ動くのかな?まあそれならそれで、この櫻湯にお賽銭をあげたと思えばいいか。
        と言う訳で、10円玉をON。すると長年の眠りから目覚めた大魔神のごとく、背部の揉み毬がぐいんぐい
       んと動き始めました!おおおおおおお、結構来るなコレ。こどもパンチを背中で受け止めている様です。
        しかしこのマッサージチェア、全然止まりません。10円ポッチでどこまで働く気なんだ。もうベテランもいい
       ところなんですから、あまり無理はしないでほしいなあ。なんというか、現役最後の試合で若い相手に滅多
       打ちにあいながらも、完全燃焼し尽くそうとするロートルボクサー
を見ている様です。もういい、やめろ、お
       前はここまでよく頑張った。もう倒れてもいいんだ・・・


        その後もマッサージチェアは涙ぐむ私の背中を延々と叩き続け、やがて力尽きたかのように停止。10円
       玉をもう10枚位追加してあげたいぐらいの働きっぷりでしたが、また動き始めたらすごく気の毒なので、自
       粛しました。
        最後はマッサージチェアに男の生きざまを見せつけられた気分でしたが、実にいい気分で櫻湯を出ます。
       いやー、次も絶対来たい場所が、またひとつ増えてしまいました。見送ってくれたおばちゃんは、
        「この銭湯もいつまであるか・・・。次来る時は無いかもしれませんから、一度電話して確認してから来て
       下さいね(笑)」

        と、寂しい事を仰っておられました。いや、確認の電話なんかするもんか。そうならない事を祈るのみです。


        日が暮れかけてきた福知山の街。ほこほこに温まった体に、夕暮れの冷え込みが心地いいなあ。その後
       は駐車場に戻り、福知山を出発。舞鶴若狭自動車道の綾部PAにて車中泊です。悲惨な山歩き遺跡探訪
       の満足感
最高の銭湯の後ということで、気絶するぐらいビールが美味かったです
        明日は0500起床、ドライブインダルマにて朝食をとったあとは、いよいよ金岬砲台跡の探索です。けっこう
       難易度の高い遺跡との事ですが、消耗した体にエネルギーがどんどん満ちてくるのを実感しつつ、寝袋にく
       るまって眠りに落ちました。




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