ここでは、秦野と近隣地域の食文化としての「カリントウ」について、
市史、町史など民俗資料の中の「食」記述を見てみます。


1民俗資料調査
地域で副食やおやつとして広く作られて食べられていたものならば民俗資料にも名前が挙がっているはずです。

秦野市、伊勢原市、中井町、二宮町、大井町、開成町、大磯町、平塚市、座間市、綾瀬市、厚木市、海老名市、寒川町、
山北町など、14の近隣市町村の市史、町史の民俗資料を調査しました。

█結果
  • 「かりんとう(カリントウ、花林糖)」という言葉が、秦野市、中井町、二宮町、大磯町、開成町の
     民俗資料で見られ、それ以外の処ではこの言葉はありませんでした。

  • 秦野市と峠を挟んだ伊勢原市の大山地区には「カリントウ」の名前は無く、
     地理的にも地勢的にも似ている伊勢原に「カリントウ」という名前が載っていないのは意外でした。
  • █結論
  • 秦野から二宮までの湘南馬車鉄道や軽便鉄道(大正2年から昭和12年まで存在した)沿いと、
     隣接する大磯、開成町などで作られていたようです。

  • 特に、秦野市、中井町、二宮町の多くの地区で「かりんとう」の言葉が挙がっていて、
     良く知られたものだった事がわかりました。

  • また、民俗資料における聞き取りの証言者は明治30年代の生まれの人が多く、明治から大正初期には
     すでに食べられていたようです。

  • 2 詳細調査結果

    秦野市関係     中井町関係     二宮町関係     大磯町関係     開成町関係     伊勢原市関係


    ▇秦野市関係
    「丹沢山麓の村」  昭和60年(1985)3月 秦野市発行 [秦野市史民族調査資料報告書4]
     ※記述の中の「オチョーハン」は三時のおやつのこと。
    横野村 衣・食・住 お菓子
    カリントウ
  • 夏場、特に盆時につくった。小麦粉を材料として作る。
  • 作り方は作り方は小麦粉に黒砂糖を入れ、こねてねってねじり、適当に切って油であげる。
  • 五−六升作って、ドーコに入れておき、オチョーハンの時などによく食べた。
  • 平沢村 衣・食・住 お菓子
    カリントウ
  • 盆時などに、小麦粉を材料として作る。
  • 作り方は小麦粉に黒砂糖を入れ、こねてねってねじり、五−六升作って、ドーコに入れて保存した。
  • 「盆地の村」  昭和61年(1986)3月 秦野市発行 [秦野市史民族調査資料報告書5]
    下大槻 衣・食・住 お菓子
    カリントウ
  • 盆時などに、小麦粉を材料として作る。
  • 作り方は小麦粉に黒砂糖を入れ、こねて、ねじり、適当の大きさに切って油であげた。
  • どこの家でも三升ほど作って、ドーコなどに入れ保存し、お茶うけなどに出していた。
  • 「秦野市史 別巻 民俗編」  昭和62年(1987)9月 秦野市発行
    第二章 衣・食・住 食生活
    カリントウ
  • 下大槻、横野、小原でカリントウの記載がある。内容は「丹沢山麓の村」「盆地の村」の記載と同じ。
  • 第六章 年中行事
    盆の行事
  • 嫁さんは実家からの帰りの土産は「カリントウ」とサツマ芋を油で揚げたものだった。
  • 「山ふところの民俗誌」 H4.3.27発行 秦野市管理部文書課
    上秦野村  ひとびとのくらし
    よなべ
  • 葉タバコ生産の「よなべ」について書かれたところがあり
    「娘のいる家には、若い衆が手伝いに来た。夜食にカリントウやノダヤキを作りお茶をごちそうした。
    現在70歳代のおおかたは経験している。」とある。
    これは昭和時代初期の話になるが、葉タバコ耕作と関係がありそうである。


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    ▇中井町関係
    「中井町誌」  平成2年10月1日発行 中井町誌編纂委員会
    第3章 中井町の生活(民俗) 二 食生活 (二) 間食
    「花林糖」
  • 小麦粉に砂糖を入れて固くこね、細い紐状にしてねじって適当に切り、油で揚げて「ドーコ」(蓋のあるブリキの入れ物)に入れて蓄えておいた。


  • ▇二宮町関係
    「二宮町民俗調査報告書」  (二宮町文化財調査報告書25号)
    第三章 衣食住 二 食生活の伝承
    (一)一色地区
  • オヤツまたはオチュウハンはナベヤキ、芋団子、カリントウ、乾燥芋、里芋など(明治33)
  • 小麦粉の菓子としてカリントを作る。小麦粉を練り、蕎麦機械で伸ばし2cmくらいの長さに切って、中央に包丁で切れ目を入れそこへ指をトウしてひっくり返すとネジリンボウのようになる。それをアラヌキトオシなどに並べ陰干しにして油であげるという。(p91)
  • (二)中里地区
  • 間食 カリントウは記載無し
  • (三)二宮地区
  • 粉食(p97)  自家製の菓子は、カリントウ、アンピン、芋団子などで、カリントウはウドン粉に砂糖を入れて練り、短冊型に切り油で揚げる(大正二)
  • (四)山西地区
  • 粉食   カリントウは天王サマと盆に作った。たくさん作って一斗缶に保存した。(明治四十二 男)
  • (五)川匂地区
  • 粉食   特に無し
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    ▇大磯町関係
    「大磯町史8 別編民俗」(平成15.6.30) 発行 大磯町(委員 和田正州)
    第四章 衣食住  第二節 食生活 間食
  • カリントウは小麦粉に砂糖を少し入れ、重曹を混ぜ水でこねたものを、薄く延ばし切って油であげる。
  • あるいは戦後の食料難で作ったともいう。
  • 小麦粉を練り蕎麦の機械で薄く延ばし、二センチメートルくらいの長さに切り、中央に包丁で切れ目を入れ、 そこへ指を入れ、ひっくり返してネジリンボウのようにし、アラヌキトーシに並べ陰干しにし、油であげたものという。
  • 「大磯町史8 民俗調査報告書(一)」  (平成5.3.25) 発行 大磯町
    国府の民俗(一) 虫窪、黒岩、西久保地区 第5章 衣食住二 食生活の伝承
  • カリントウなし
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    ▇開成町関係
    開成町史 民俗編」(平成6.11.30) 発行 開成町(編集委員 西海賢二 東京家政学院大助教授   調査; 石崎 敬子)
    第三章 衣食住  三、間食
  • オシンイコ(オシンコ)、カボチャ、ネジリ、ヤキモチ、アンビモチ、カリントウなどを食べた。
  •     
  • カリントウ 盆時によく小麦粉を材料にして作る。     作り方は小麦粉、黒砂糖を入れ、捏ねて練ってねじり、適当に切って油で揚げた。五、六升作って、ドーコに入れておいた。
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    ▇伊勢原市関係
    「伊勢原市史 別編 民俗」  平成9年3月31日 編集 伊勢原市史編集委員会 発行 伊勢原市
    第5章 衣・食・住生活第二節 食生活
    1.平常の食物と調理
  • カリントウおよび類似の菓子/保存食の記載は無い。
  • 「伊勢原市史民俗調査報告書2 伊勢原の民俗 伊勢原岡崎地区」 
    第5章 衣・食・住 2 食生活 (1)平常の食物と調理
    「主食/間食/保存食/調味料」
  • 保存食の項に「うどん粉を練って薄く伸ばして、2寸8分くらいに切って油で揚げ、黒砂糖を溶いてくるむと手伝いを頼んだときの上等のお茶菓子になった。」の記載があるがカリントウの名前は無い。
  •     
  • カリントウの名前は巻末の方言語彙集にも無い。
  • 「伊勢原市史民俗調査報告書6 伊勢原の民俗 大田地区」
    第5章 衣・食・住 (2)食制と食具 
    表5
  • オチュウハンとしてカリントの名前がある。
  • █伊勢原まとめ
        伊勢原ではカリントウは誰でも記憶に残る良く知られたお菓子では無いようです。
        秦野と峠を境にした大山地区では無いことは意外でした。




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    2、これらの町だけに特徴ある「カリントウ」が食べられていた原因は何なのでしょうか?
    「カリントウ」について記述のある最初の秦野市民俗資料は昭和60年(1985年)に報告されたもので、
    30年以上前になります。
    ところが、更に10年前に報告されている1975年発行の神奈川県民俗調査報告8 県央部の民俗(V) 秦野地区には、第3章 衣・食・住  第一節 食物と服飾粉食や間食、調味料、ハレの日の食物としてまとめられているものの、「カリントウ」の言葉は一切無く、菜種油についての記載も有りません。この調査は、明治32-38〜大正元年生まれの菩提、三廻部、今泉、渋沢などに在住の人たちに対する聞き取り結果で、「カリントウ」が作られていた地域に対するものです。

    1985,86の秦野市の民俗調査とは一部の委員は重複していますが、「カリントウ」に関する調査結果は異なっています。 このため、これらの資料で調査方法に違いがあるのかも知れないと考え、2004年より自分でも聞き取り調査を試みてみました。

    █かりんとうの証言:聞き取り調査2004-2009

    █秦野市の地勢と農業との関係


    参考資料
        「中地区民俗資料調査報告書 1973年 神奈川県教育委員会  伊勢原市日向 秦野市八沢
        「神奈川県風土記」風土と文化 昭和54年11月 かなと出版
        「丹沢山麓の村」  昭和60年(1985)3月 秦野市発行 [秦野市史民族調査資料報告書4]
        「盆地の村」  昭和61年(1986)3月 秦野市発行 [秦野市史民族調査資料報告書5]
        「秦野市史 別巻 民俗編」  昭和62年(1987)9月 秦野市発行 秦野市管理部文書課
        「山ふところの民俗誌」平成4年3月  秦野市発行 秦野市管理部文書課
        「中井町誌」  平成2年10月1日発行 中井町誌編纂委員会
        「二宮町民俗調査報告書」  (二宮町文化財調査報告書25号)
        「大磯町史8 別編民俗」    (平成15.6.30) 発行 大磯町
        「大磯町史 民俗調査報告書(1) 平成5年3月 大磯町発行
        「開成町史 民俗編」 (平成6.11.30) 発行 開成町
        「伊勢原市史 別編 民俗」  平成9年3月31日 編集 伊勢原市史編集委員会 発行 伊勢原市
        「伊勢原市史民俗調査報告書2 伊勢原の民俗 伊勢原岡崎地区」昭和63年1月 
        「伊勢原市史民俗調査報告書6 伊勢原の民俗 大田地区」昭和63年1月
        「厚木市文化財調査報告書第43集 厚木の民俗11」 平成17年3 厚木市教育委員会
        「綾瀬市史 8(下) 別編 民俗」 平成13 発行 綾瀬市
        「座間市史 6 民俗編」 平成5 座間市発行 座間市立図書館市史編纂係
        「海老名市史 9 別編 民俗」平成5年 発行 海老名市
        「寒川町史 12 別編 民俗」平成3年 発行 寒川町
        「平塚市史12 別編 民俗」平成5年11月 平塚市発行
        「山北町史 別編 民俗」平成13年3月 山北町発行
        「大井町史 別編 民俗」平成11年3月 発行 大井町


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