大阪大学 2017年度入試の音叉を用いた音速決定の問題の 出題ミス に関して、いまだに「どういう誤りだったのか、よくわからない」 という質問が寄せられるので、勝手に推察しておきます。単純なミスを、音叉の 「同位相振動モード」 なるものを持ち出して、あたかも学術的根拠があったかのように装ったため、みんな眼を眩まされてしまったのです。 逆のケース を想定すれば、ごまかし (詭弁) が分かりやすくなります。

  ----- 最初から順当に、問4では正しい条件式 2d=nλ (または 2d=(n - 1)λ ) が正解とされ、問5ではそれに合致する数値が設定されていたとしよう。先ず、音叉の実態を知らない受験生のため、問1で「音叉が音を発するときは,このように2本の腕は互いに逆向きに振動し」と説明し、音叉の普通の(逆位相)振動モードで発生する粗密波の様子を理解させてから始まる設問の流れは、懇切丁寧で無理がなく、まさに 良 問 であった。これに対して、もし仮に誰かが 「音叉には複数の振動モードがある。問4,5では振動モードが特定されていないから解答できないではないか」 と難癖をつけたとしたら、「確かに音叉には同位相振動モードもあるという論文が見つかったので、問4は 2d=(n - 1/2)λ も正解とする。また、問5は複数の振動モードがあることと整合しないので出題ミスである。全員に点を与える。」 となっただろうか? 冒頭で「使った音叉は500Hz の音を出す」と同一の振動モードを扱っていることを断っておき、問1の振動モードの特定から始まる設問の流れからして、 絶 対 に そ れ は な い !-----

クレームはまともに相手にもされなかったでしょう。以下で見るように、それくらい 荒唐無稽な弁明総長のリーダーシップ (3月23日 「事案検証委員会報告書」で絶賛)のもとで行われたのです。


問1: 音叉が開ききった瞬間には、直観的に このように なると考えて作問していたため、何らの曖昧さもなく 「音叉の外側(B,D)では密、内側(A,C)では疎」 の対称性をもつ組み合わせ (f) を正解としていた。外部からの再三の指摘により正しくは こうである ことがわかり、用意した選択肢に適切な正解 (A〜Dとも疎密変化ゼロ) がなくなってしまった。
  そこで、問題の設定では 「(点A〜Dを含む円の) 半径は波長にくらべて十分小さい」 としてあったにもかかわらず、要するに 「点A〜Dは音叉の腕板の 直上ではない ので厳密に言えば疎密変化ゼロではなく、たとえ僅かでも疎密のいずれかに決まる。正解は (f) でよい」 と、物理的に 無理な解釈 をせざるを得なくなった。曰く 「 『粗』 『密』 というのは密度が最高または最低の状態のみを指すのではありません。」 疑問を寄せた人に対してこの旨の 回答 があったが、この未練がましい言い訳はさすがに公表されていない。意図的にこの理屈で出題したのであれば、問4も「強め合うというのは、合成波の 振幅が最高 になる関係のみを指しているのではない」とせざるを得ない。高校物理の波ではそういう扱いはしていない。

問4: 音叉と言えば、普通の叩き方をすれば決まった振動数の純音を出せる道具である。問1で説明してあるように、普通は2本の腕が逆向きに振動する 逆位相振動モード を前提にしており、それ以外の振動モードをわざわざ考えることはない。当たり前のことであるが、そもそも問題を通して決まった振動数のモードを想定しておかないと「音速を決める」 という問題設定そのものが怪しくなる。問1で普通の逆位相振動の場合の疎密の分布の対称性を考えさせたのは、この 問4でそれが必要となる からである。
  この場合、音叉の前と後ろで疎密は同位相であるから、マイクの方向へ伝わる音が強められるためには、壁から返ってくる疎密波が音叉の位置で 「強め合う条件」 (腹) を求めればよかった。ところが壁での反射条件を 固定端、つまり 「位相が反転し壁の位置が定常波の になる」 を疎密波にも適用してしまったため(※)、誤った条件式 2d=(n - 1/2)λ を正解とした解答ミス である。正しくは 2d=nλ (または 2d=(n - 1)λ )。 [ ※ 問3で圧力変動の腹の位置を考察させているにもかかわらずである。あるいはここだけ変位で考えて「強め合う」 条件を求めたか? 変位や速度の場合、波の進行方向との関係で 混乱 を起こしやすい。]

問5: 上と同じ誤った条件式に合致する実験データを提示していたため、このままでは正しい解答ができない 出題ミス である。振動数は500ヘルツのままとして、あとは何も気にせずに波長を求めて解答することは可能であったが、全員に満点を与えた。しかし、問5の数値を見て問4の条件式を考え直した受験生もあった可能性があるため、問4では元の誤った条件式も正解として扱った。

以上が本当のところでしょう。ところが.....
誤り判明後の大阪大学の対応
 ----- 3月23日の 「事案検証委員会報告書」 では、 「誤り判明後の大学としての対応 は、総長のリーダーシップのもと、迅速で特段の問題点や課題はなかった」 と高評価を受けた。しかしながら、出題ミスは不可避 --- イエローカードとしても、この対応が本当に大学の管理運営組織としての対応であったのなら、高等教育に携わる 国立大学法人として失格 であると言わざるをえない。これでは 「再発防止」 どころか、出題ミスより深刻な故意の学術的ミス(実際の誤りの隠蔽と虚偽の弁明)を冒しており、教育的効果としては、こちらの方が格段に悪質 --- レッドカード である。

  音叉は弾性体の成型物であるから、もちろん振動数の異なる他の型の振動モードも可能である。2本の腕が同方向に揃って振動する 同位相振動モード の場合には、(どう叩けばこのモードの純音が出るのか、台に振動が伝わりエネルギーが吸収されるため、はたしてこの実験時間に耐えられるだけの持続性があるのかどうかも分からないが、) ともかく音叉の前と後ろで疎密の位相は逆になり、条件式 2d=(n - 1/2)λ が正しくなる。 幸い、同位相モードも 「実際に観測される」 という論文があったので、(振動数のことは知らぬ顔で、)問5は 「同位相モードを前提にして問題が作られていた」 と 正当化 し、その意味で問4の元の誤った 「正解」 は 正解のまま とした。しかし、問4ではモードを特定していなかったため、これ以外に 「問1を踏まえて 逆位相振動モード で考えた受験生もいたと思われる」 、つまり、再三の指摘でよく考えてみたら 「複数の正解があった」 ことが分かったので、解答ミスではなく 採点ミス ということにし、 入試課 が 「経過説明」 や 「解説」 を公表した。

  要するに、同位相振動 を前提にした問4の最初の 「正解」 と問5の数値設定は正しいという 「自信があった」 (=「検証報告書」) ため、順当に問1の通常の振動モードで考えた受験生もいたことが1年近く理解できなかったという、信じられない言い訳である。

参考資料
(1月6日付け発表・説明資料の一部分)
1. 誤りの内容
  理科(物理)の問題〔3〕において、問4 に採点の誤り及び問5 に出題の誤りがあることが判明した。
問4 には 複数の解答が存在 したが、採点時において特定の解答(下記「当初の正答」)のみを正解として扱ってしまった(採点誤り)。また、問5 については問4 の 特定の解答のみを前提とした出題 であったため、問4 の 複数の解答と整合しない(※) こととなった(出題誤り)。(※ 「検証報告書」 でも、この通りに追認されているが、これは支離滅裂で全く意味不明。複数の解答のいずれかに対応するモードで実験した、で問題ないはず。)
問4:当初の正答 2d=(n-1/2)λ → 検討後の正答 2d=nλ ,2d=(n - 1)λ ,2d=(n - 1/2)λのうちのいずれか一つ (※ 2d=(n - 1)λ は、n=1,2,3,... としていたため、「d=0 も可能」 と考える場合にはこの形に書いておく必要があると説明されている。)
問5:問題の数値設定に不整合 → 全員に4 点を付与

(1月12日の「解説」の最後の部分)
3. 再採点における考え方
  音叉には 複数の振動モード がある(※1)。逆位相振動モードのときの正答は、2d = nλ または2d = (n - 1)λ、同位相振動モードのときの正答は、2d =(n - 1/2)λ である。A-I. では逆位相振動モードを設定していた。A-III. の問4では振動モードを特定していなかった。しかし、問5においては 同位相振動モードで振動していることを前提 として問題が作られていた。A-I. を踏まえて問4を逆位相振動モードで考える受験生もいれば、問5の設問内容から問4を 同位相振動モードで考える受験生もいた と思われる。(※2) よって、三つの解答に対しいずれも満点(3 点) を与えた。

※1 もし、「複数のモードがある」 というのが出題者の意図だったのであれば、振動モードを特定していなかった以上、2d = nλ (または 2d=(n - 1)λ )と 2d =(n - 1/2)λ の 「いずれか一つ」 ではなく、両方を答えないと完全な正解ではない ことになり、採点方針と矛盾する。
※2 いくつかの予備校の解答速報でもそうなっていたように、問4で 2d=(n - 1/2)λ と答えた受験生はかなりあったと思われるが、これは単に疎密波の反射条件を間違っただけである。問1で逆位相モードのことが図入りで丁寧に説明が行われているにもかかわらず、わざわざ問4,5で 「同位相振動モード」 に頭を切り替えて考えた受験生など、絶対に 一人もいなかった と断言していい。問1がなければ、音叉の通常の逆位相振動モードのことさえ知らなかった受験生が多かったはずだ。

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