これは 苦しい!
問1は、いったい何を試したかったのでしょうか?


  問1の件 (選択肢に正解がない) について、いち早く(1/13)大阪大学に質問を 寄せた方が何度も催促した結果、最近(3/29)ようやく入試課から 回答 があったそうです。要するに、腕板が開ききったとき、音叉を囲む円は、波長より十分短い距離の周縁にある () とされているにもかかわらず、(※ 問題設定に、「円の半径が波長より十分小さい」 と書かれているから、当然、腕板と円の間隙も波長に比べてさらに十分短い。

     図1から、円は音叉の 有 意 に 外 側 であることが読み取れるから、
   円上の A、B、C、D では、一瞬静止する腕の直上のように疎密変化が
   厳密には 0 ではなく、疎か密のどちらかに決まるので、正解は ( f )
   (つまり A、Cで疎、 B、Dで密) で間違いはない

ということだそうです。(参考のため、板の振動で発生する粗密波の様子を描いた アニメ を掲載しておきました。)問4、5に関する1月の弁明に続き、更なる 詭弁 に脱帽です。 役員が深々と頭を下げて誰に何を謝まられたのか、学者・教育者としての反省の様子は全く見られません。

  これは単に世間の目を眩ますための論理のすりかえです。そもそも疎密を評価する今の場面で 有意 であるかどうかは、円の大きさを疎密変化の周期である 波長 と比較してこそ物理的に意味がある話であって、音叉の大きさ と比較しても何の意味もありません。問4、5についての例の 「解説」 にしてもそうですが、この検証結果は、学術論文を手がけたことのある学者が真摯な気持ちで書かれたものとは、とうてい思えないのです。学内から割り当てカンパに対する抗議はあっても、そういう学術的な批判の声が一つも上がらないのも、不思議な大学です。

  それはともかく、たとえ屁理屈にせよ、この見解を公表しておかないと、これからの高校生には 「速度が0の腕板の前面のB、Dでは密」 という間違った イメージ が刷り込まれてしまいます。頭を下げて謝られておきながら、そういう悪影響が残ることについては頬被り、教育者 としてそれはないでしょう。



  1月12日の 「 解説 」 に掲載されている問題の中の図1は、説明文を何度読み返しても、音叉が矢印の方向に動いている 途中 の様子 としか読み取れません。少なくとも点 B、D については、音叉が開ききった瞬間にもなお 「有意に外側」 かどうかは、実際に音叉を手にとって鳴らしたことがない人には、この図では必ずしも自明ではありません。(音叉の振動というなら、「解説」の3ページに出てくるような大振幅の振動のイラストを見慣れているでしょう。) したがって、もし本気で 有意に外側 の位置での疎密の様子を問うことが重要な出題の意図であったのであれば、せめて 「円の半径は音波の波長にくらべて十分小さ(い)が、音叉が開ききったときにも音叉の 十分に外側 である」 と設定しておかないと、 解答不能 です。

  「円の半径は波長にくらべて十分小さく」 と言われて、点A〜Dは 「音叉の近傍」 とみるか、「有意に離れている」 とみるか、そんな繊細な判断力を試すのが目的であれば、問題設定の表現に曖昧さがないか、あらゆる角度から慎重にチェックするのが普通です。その説明が解答するのに不十分であったことだけとっても、すでに 出 題 ミ ス であり、未解答を含めて全員を正解にすべきです。


  まあ、こういうのは趣味ではないので置いておくとして、私にはこちらの方が気になります。もしこの問が選択肢方式ではなく 記述式 だったとして、賢明な受験生が教科書どおり 「開ききった瞬間には速度が0だから、周辺のA、B、C、D点では疎密変化は 0 である」 と答えたら、どうなったでしょうか? ----- もちろん、この 「0」 は数学的な0ではなく、物理では 「ほぼ0」、今の場合 「ほぼ中立」 という意味での0です。例えば、1月12日の 「解説」 4ページに出てくる 「音叉が壁直上においても音波を発生することを許せば、d = 0 も可能であるため...」 の 「0」 がそうです。そういう意味での「0」、なめてはいけない、そんなことは高校生でもちゃんとわきまえています。

  音叉より有意に外側の位置であって 「厳密な意味での0ではない」 ことを問うのが出題の意図であれば、この賢しらな受験生の解答は、考察が不十分で 誤り となります。むしろ小学4年理科の 「空気は押したら縮む」 の感覚の答えが正解になります。実際、そのとおりに問1の解説をした問題集もあり、その程度の不正確な音叉の イラスト を掲載した教科書もあります ( ) 。ついでですが、 問4 で 「3つの正解の1つ」 ととして追加された 「d = 0」 を許した解答も、この屁理屈に従えば 「音叉は小さくて点音源とみなせるといっても、壁から(少なくとも音叉の大きさの分だけは)有意に離れているから、 d = 0 はあり得ない」 ので誤りとなり、問4の 「正解は3つ」 でなく、「2つ」 です。

  受験生の裏をかいて、「ほら、少し離れているやろ?」忖度 を要求する、いくら選抜試験だと言っても、あまりにも悪趣味です。ここまで言うと、逆に 「開ききったとき腕板の直上では0」 というのも微妙です。有限の大きさで特定の形をした音叉の場合、速度波と圧力波の (有意な?) 位相のずれがあるかもしれないからです。こんなアクロバットな仕掛けをしなくても、音叉の中立位置を矢印の方向に通過する瞬間とか、曖昧性のない設定で問えばすむことです。どうもこの問題は、問4、5で 「ほら、同位相モードいうヤツもあるんやで」 と途中から秘かに前提を変えていたりと、無意味な捻りが利きすぎています。

  仮初めにも大阪大学を受験しようという学力を培ってきた学生であれば、この問で 「音叉が開ききったとき」 と言われれば、まずは 「あ、あれだ! 音波の変位・速度と圧力・疎密変化の関係が問われている」 と受け取るのが自然です。音波 (縦波) が難しいのはまさにそこで、高校の授業でも力を入れている箇所だと思います。 したがって、選択肢に自分の思考結果に相当する正解が見あたらず、首をかしげながら時間に追われて パスしてしまった受験生 (後回しにして残念ながら時間切れ)が必ずいたと考えるのが自然です。未解答まで含めれば、決して少なくないと思われる答案は救われません。

  音叉が開ききって腕板の 速度が0 となる状況で、「波長より十分短い距離内の腕板の周辺での密度変化は、ほぼ0」 が重要とみるか、「腕板の直上以外では厳密には0でないこと」 が重要とみるかは 物理的センス の問題でしょうが、物理をよく考えた受験生を切り捨てたというのは、教育者として罪が重いです。それを思うと、執行部がテレビカメラの前で深々と頭を下げられる場面が何とも白々しく映り、この大学はいったい どういう学生を育てるつもりなのか と、腹さえ立ってくるのです。


  本当に最初から 「音叉の有意に外側」 を問題にしていたのであれば一言 ですむものを、回答をするのに実に2ヶ月半もかかったとは! 疑いをもたれていた先生方は拍子抜けしておられることと察します。あるいは逆に何を騒いでいるのかと抗議してこられた方は、この問題に実はこんな繊細な仕掛け (姑息な落とし穴) があることを承知されていたでしょうか?ともかく、行きがかり上、皆さんの声を代弁して長々と書いてしまいましたが、高校教育のことを考えると、見過ごせないと思います。

  2月半もかかって検証された結論を入試課として回答された以上、この見解を覆されることは、まずないでしょう。私の先の記事を見た学生さんから、 責任ある立場の方 が 「バカな質問は山ほど来ている。年度末で忙しいが、近く説明が公表される 」 とおっしゃっていたと聞いていますが、その様子は見えません。この学生さん、実は私に 「首を洗って待っておれ」 と言いたいようですが(笑)。

  大学はこれで安泰かもしれませんが、高校教育・受験教育界では終りとはいきません。この問題を 過去問 として勉強していくであろう現役の高校生たちへの影響を考えていただく必要があります。彼らは、このままでは 「有意に外側」 という出題者の真意が伝わらないため、「開ききったとき、腕板の前面周辺で密」、 つまり 「変位最大 (速度0) の辺りでは密」 と 間違って理解)してしまう恐れは十分にあります。

  高校の先生向けに音波の 解説記事 を書いたために、すっかり私まで 「大学関係者」 として非難の対象にもなってきましたが、これを防ぐ手だてを尽くす責任は 出題者 の大阪大学が負っていると思うのですが、皆さん、いかがお考えでしょうか?まあ、問4、5でも高校教育にとって必要な誤りの真相を明らかにしない、深々と頭を下げるだけで 「高校教育への影響なんて知ったこっちゃない」 というところでしょうか?



この イラスト が、なぜ間違っているのかという質問が寄せられました。教科書の 「変位・速度と圧力・疎密変化の関係」 を図で表すなら、図の疎密の背景はそのままにして 音叉だけを、 4→1→2→3→4 と1つずつずらせば、 正しい絵 になります。教科書の著作者である10人以上の大学や高校の先生の目をすり抜けていたくらいですから、元の絵の方が直感的で分かりやすいかもしれません。しかし、定性的な理解を助けるためのイラストならいいのですが、ここまで時間変化を追って詳細に描くなら、話は正確にしておく必要があります。何も断りなく正解が (f) と言われると、こちらの絵 を思い浮かべるのが自然でしょう。

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