この大学では、間違ったときの世間の目の眩ませ方を教えている!

  3月23日付で大阪大学の「事案検証委員会」の検証結果が公表されました。いったい何を検証されたのか、すでに報じられている事実経過を羅列しただけで、1月12日の人を食った 「 解説 」 は不問に付されたままです。 これでは役員がいくら深々と頭を下げられても、白々しく映ってしまいます。

  なお、総長・理事等の執行部は、1月に役員報酬の一部を 自主返納 --- 平たく言えば、その後の一般教職員と同じ 割り当てカンパ --- されただけで、今回の検証では 監督責任 は一切問われていません。逆に 「 (それまでの対応に比べれば) 理事に一報が入ってから(要するに、それまで 「役員は知らなかった」 )の対応は、総長のリーダーシップ のもとで迅速かつ適切であった」 と褒めそやされています。

  しかしながら、少なくとも1月12日の報告・解説は、入試担当理事の責任で行われた、大学としての組織的対応であることは経過的に明らかです。検証委員会は、出題ミスそのものではなく、「総長のリーダーシップ」 のもとで作成され公表された 「解説」 の方が、大阪大学の学術的信用を失墜させ、高校教育界に混乱を引き起こしていることに気づいていらっしゃらないらしい。人の運命をさほど左右するとは思えない学術論文でも、こんな事実の改竄をやった場合は、最近では 懲戒解雇 の対象です。自主カンパではすまされません。

  1月12日の訳の分からない弁解を要約すると、以下のようになります:

   音叉には主として 2つの振動モード ( 「逆位相振動」 と 「同位相振動」 )がある。問1では、実験的に観測されやすいと 思われる 「逆位相モード」 を問い、問5は、ある学術論文で 観測が確認されている 「同位相モード」 を 前提にして 問題が作られていた。問4は、 複数の解答が存在していた にもかかわらず特定の (「同位相モード」 の場合の?) 干渉条件 のみ を正解として採点していたが (注1)、振動モードを特定していなかったため、問1の 「逆位相モード」 で考えた受験生も いたと思われる ので、今回、その場合の条件式も 誤答 から 正答 へと変更した。問5は、与えた数値データが問4で複数の条件式を正解にしたことと不整合となったため、全員を正解とした。(注2) ...
注1. つまり問4は正解を誤ったのではなく 「特定の解答のみ正解とした 採点誤り 」 ということです。このことは 「解説」 ではなく最初の 資料 p.3 (1/6)に書かれています。複数の解答として 「逆位相モード」 と 「同位相モード」 の場合の条件が正答とされています。
注2.この部分は意図不明: 問1では 「振動数500ヘルツ」 は使っていないから、あとの問はすべて問4の 「複数の解答」 の一つに対応する特定モード (同位相モード) で実験していると思えば筋が通っており、問2、3と同様に解答可能?


  実際は、わざわざ音叉についての学術論文まで引っ張り出し、数式を駆使しての7ページにもわたる解説で、「ちゃんと同位相モードもあるよ」と、白を黒と言いくるめるための苦しい演出が行われています。これでは何が誤りだったのか、さっぱり分からなくなります。なんとか読み通せば、普通は 「そうか、問4、5は問1とは違って 同位相モード を前提にしていたのに、その説明が欠けていたのか。そりゃあ、 うっかりミス だな」 となるでしょう。世間だけでなく、大学の理工系の先生でさえ、かなりの方はそうかもしれません。

  いかにも問題作成の当初から 「学術的根拠」 に基づいていたかのように装った、この狡猾きわまりない、それでいて矛盾だらけの 奇怪な 弁解は、誤謬を詭弁で糊塗するという二重の過ちにより、学術的・教育的良識からはほど遠い非科学的なものになってしまっています。本当に 「問4、5では規格外の同位相モードを前提にしている」 という確信(あるいは 「自信」 ?)のもとに問題を作成されていたのであれば、外部からの最初の指摘に対して、 「あ、ここで問題の設定 (振動モード) が変わっていたんですよ」 となり、説明不足があったことにお気づきにならなかったはずはありません。

  ひとまずは世間の目を眩ますことは出来ても、これは、論理性も何もない荒唐無稽な筋書きの改竄(いま流行の事後の書き換え)です。 大学が絶対に手を染めてはいけない究極の組織的 カンニング! 学生に対して、「間違ったら、こうやって誤魔化せばいいんだよ」 と身をもって教えているようなものです。「盗人を捕らえてみれば我が師なり」、こうして様々な産業分野や官公庁でのミスの隠蔽工作が再生産されていくのかもしれません。

  究極的には出題ミスは不可避で、時には10人以上の出題委員の目をすり抜けてしまうことさえあります。問題は、誤りが明らかとなったとき、いかに対処するかです。この弁解からは、誤りをおかしたときの学者・教育者としての良心というものが微塵も感じ取れないのです。学術論文なら 「異なる条件での実験データを使ってしまっていた」 と弁解した場合、苦笑を誘うだけですむこともありますが、今回は笑って済ませるにはあまりにも犠牲が大きすぎました。

  被害を被った学生の 心の痛み を真摯に受け止める気が本当にあるのなら、慰謝料いかほどうんぬんの前に、今後の 高校教育 のためにせめて真相を明らかにする誠意を示されるべきです。今どきは営利企業の工程ミスでさえ、頭を下げる前にもっと真剣な究明が行われています。もちろん、たとえ部下に責任があった場合でも、その責任が追及される一方で、役員は 関知していなかった ので免責どころか処理の手際のよさが褒めそやされる、被害者の神経を逆なでするような、そんな みっともない 事故検証報告は聞いたことがありません。いかにも旧国立大学らしいと思われるでしょう。

  この弁解(1/12)が出題委員の了解のもとに作成されたものであり、これに異を唱える物理学者・工学者が学内に一人もいないとしたら、こんなこと言いたくはありませんが、この大学における入試問題作成、ひいては物理教育そのものの資質さえ思いやられようというものです。このような理不尽な見解を再検証し、 誤りの真相 を明らかにして今後に生かされない限り、いくら役員が頭を下げ、カンパされても、どんな防止体制を整えられても、出題ミスを防ぐことはできないのではないでしょうか。

  これで 幕引き となることがないように、上の記事で書いた 問1の選択肢に正解がない という私の無鉄砲な主張も、話題性を維持するために恥と無礼を承知で、あとしばらくは残すことにします。

Back to