第21話 マルチ楽器使い
複数の楽器が操れると楽しいでしょうね。
JAZZでも結構、複数の楽器を操れる演奏家は少なくありません。中でも二番目の楽器として選択されるのは、ピアノが多い気がします。
まだ20歳前の初々しいマイルス・デイビスに、当時、BE-BOPの花形トランペッターであったディジー・ガレスピーがこうアドバイスしたそうです。
「(前略)わたしは「とにかくピアノを勉強しなきゃ駄目だよ」と言ってやった。吹きたいと思っている音の一音ずつではなく、全体が見えるようにするためには、ピアノの弾き方を覚えなきゃならない。」(マイルス・デイヴィスの真実/小川隆夫著/平凡社)
そんな訳で、特にトランペットとかサックスとか、単音での演奏が主なものは、ヴォイシングを覚える意味でも「教養としてのピアノ」が必須なようです。
しかし、中には「嗜み(たしなみ)」の域を越えて、レコーディングまでしてしまう人もいますね。
ご存知、JAZZバイオリンのステファン・グラッペリもピアノのCDを出していますし、前出のディジー・ガレスピーも、ピアニストが間に合わなかったとかで、2曲ばかりレコーディングしたアルバムもあります。
管楽器などでは、「持ち替え」で演奏するのも結構、常套手段です。
テナー・サックスのジョン・コルトレーンは、第1回目のコラムで紹介したあの有名な「My Favorite Things」を吹く時は、必ずソプラノ・サックスに持ち替えます。
アルト・サックスの奇才エリック・ドルフィーはフルートも吹くようですし、そしてあの偉人、チャーリー・パーカーに到っては、テナー・サックスはもちろん、トランペットまで吹けたそうです。マイルス・デイビス曰く
「(前略)あるとき、(パーカーが)オレのペットを吹かせろと言って吹いたんだが、その見事なことといったらなかった。オレ以上にうまいトランペットを吹いたんだ。」(前出)
管楽器ではありませんが、本来ピアニストであるエディ・コスタという人は、ヴィブラホンも演奏します。そう言えば、ヴィブラホンとピアノの鍵盤は音の並びが一緒なんですね。マレットを使うか指を使うかの違いだけで、これも一種の「持ち替え」と言えませんかねぇ。
あとは、「マルチ」とは呼べないかもしれませんが、楽器とボーカルの掛け持ち。
JAZZの場合、結構「トランペット」と「ボーカル」がセットになる人が多く、サッチモことルイ・アームストロングがこの分野では有名ですね。
他にチェット・ベイカーも、50年代にはあのマイルス・デイビスを凌ぐ程のトランペッターであり、しかもかなりアンニュイな不思議な魅力のある声域のボーカリストでもあります。
日本人でも最近、TOKUさんがトランペット&ボーカルで売りだし中ですね。
ギターやピアノの弾き語りもどのジャンルでも見られる組み合わせですが、JAZZではジョージ・ベンソンのようにギターは超絶技巧派、ボーカルと合わせてグラミー賞を8回も取っているようなスーパーな御仁もいます。
ピアノで言うと、ナット・キングコールも別格かもしれません。「ベルベット・ボイス」と呼ばれるボーカルの方が一般的に人気ですが、実は元々JAZZピアニストとしても一流で、かなり玄人受けするピアノを弾きます。
でもよく考えてみると、ジョージ・ベンソンやナット・キングコールは(サッチモも?)余興でたまたま歌ったら、本業を上回ってしまった羨ましい例なんですね。
やっぱり、「世の中に通用する余技の1つや2つは持っておけ」って事でしょうか?
いつリストラにあうか分からない、私のようなサラリーマンは見習う必要ありですな。
文:
クリフォード・伊藤
チェット・ベイカー・シングス / チェット・ベイカー (TOCJ-5951)
トランペットはクールでリリカル、しかもボーカルは女性的でアンニュイ。
同業者のサッチモとは全く対称的なのがチェット・ベイカー。
面白い事に容姿も対極。個性的な容姿の黒人のサッチモに対して、(若い頃の)チェットはジェームス・ディーンを彷彿とさせる白人の美男子。
御多分にもれず、かなり女性にはモテたらしい。そして、たぶん男にも。
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チェット・ベイカー・シングス
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