第18話 超ベテランビギナー
最近、面白いJAZZの本を見つけました。
題して「サニーサイドジャズカフェが選ぶ超ビギナーのためのCDガイド」(朝日文庫)(※続編として「サニーサイドジャズカフェの逆襲」も同時発売中。)
著者の寺島靖国さんは、吉祥寺にあるJAZZ喫茶「メグ」のオーナーで、現在ではJAZZ専門誌などに独特の切り口でJAZZ論を載せている、自他とも認める「辛口」批評家です。(昔、私も「メグ」に何度か行きました。コーヒー1杯で3〜4時間ねばったものです。だから、JAZZ喫茶は経営がキビシイのですが。。。)
「自分の好きなCDから聴きましょう」と、今までの「まずは、パーカーやマイルスから」と言った歴史を変遷するような入門方法を否定し、JAZZボーカリストは「美男、美女に限る」とか、とにかく氏の嗜好を徹底的に中心にすえた寺島ワールドがこの本では展開されています。
で、この本の何が面白いかって。
この本、「超ビギナーの為」と易しくJAZZを語っているフリをしながら、実は他のJAZZ批評家やベテランのJAZZリスナーに思いっきり牽制球を投げているのです。
歩きタバコをしている大人の横で、子供に「いいかい、大人になったら歩きたばこなんて下品な事を絶対しちゃいけないよ」と大声で言っているような本なのですね。
この本の「はじめに」を読んで見ましょう。
「ジャズの本、あれはいけませんよ。世の中には、特にこの頃はジャズの本が散乱しておりますが、あれを読むと逆にジャズが好きでなくなってしまいます。医学の本を読むと病気になるのと同じです。」(P12)
どうです?のっけからキャッチャーミットになんか放ってないでしょ?これは絶対にバッターの頭を狙ってます。
更に、氏は「あれは好き」「これはキライ」でどんどん切り捨てて行きます。例えばギターの音色について、
「ウェス・モンゴメリーという人がおりますが、彼の音を私は好きではありません。ポクポクという音がするのです。いけませんね。」(P191)
私の大好きなウェス師匠もこんな有様です。でも、これはまだ良いほうで、
「最近の人で、ジョン・スコフィールド。最悪です。「ギョーン、ギョーン」バカか、オマエは。そうバトウしたくなります。」(P191)
あ〜、これじゃ、寺島さん、敵も多いでしょう。
私なんか、彼同様アマノジャクなので、氏がボロクソに言っているCDに対しては逆に「聴いてみよう」って気になりますが、そのうちに「アンチ寺島」同盟の間で焚書騒ぎが起こらないかと心配です。
でも逆に、「よくぞ言ってくれた!」と小心者の代弁者としての寺島ファンが多いのも確かなんですね。
え?私のコラムも寺島スタイルでどうかって?
いやいや、私がやったら確実にこのHPが潰れるでしょう。「庇を貸して、母屋をとられる」って言葉がありますが、「庇を借りて、母屋を潰す」事は避けたいです。ハイ。
文:
クリフォード・伊藤
ロシアン・ララバイ / ウラジミール・シャフラノフ (AS034)
上述の「帰ってきた JAZZ Cafe」にも紹介があったCD。
寺島さんは1曲目の「ESTE SEU OLHAR」がお気に入りらしいが、私は断然5曲目の「IF I SHOULD LOOSE YOU」。
手持ちのレコードやCDを調べてみたら、同じ曲をやっているアーティストが2、3人いたが、どれもピンとこなかった。寺島さんが言う「シャフラノフはピアノの音が泣いている」為なのか?それとも年をとって嗜好が変わったのか?
いずれにせよ、この「IF I SHOULD LOOSE YOU」、マイブームです。
澤野工房という、大阪の履物屋さんがはじめたレーベルから発売中。