第17話 ドーピングJAZZ
ミュージシャンと麻薬の切っても切れない関係は、JAZZに限ったことではありません。
ただ、JAZZはその一瞬のインスピレーションが必要とされる即興演奏主体であるが故に、より多くの有名麻薬常習者を輩出しました。その実績を考えると非常に「伝統」のあるジャンルと言えるでしょう。
まず、マリファナ。
マグルズ、ムタ、ゲイジ、ティー、リーファー、メアリー、ワーナー、メアリー・ジェーン、ローザ・マリア、ウィード、、、ミュージシャン同士での隠語でこう呼ばれるメキシコからもたらされたこの植物は、古くからのJAZZミュージシャンの人気者で した。(ちなみに、有名な「Tea for Two」はドラッグを歌った曲です。)
なかでも、ミルトン・メズローと言うJAZZミュージシャンは愛好者として広く有名でおかげで彼の通称:メッズはマリファナの代名詞となりました。
次に有名なのは”サッチモ”ことルイ・アームストロング。
「マグルズ」という曲をレコードに残すくらい、彼もマリファナの熱烈な愛好者で、1931年にはマリファナ不法所持(カリフォルニア)で逮捕されています。しかし、当時はまだ、メキシコ人の通り名である「マリファナ」が世間には知られておらず、メキシコでの未成年の女子を指す言葉だと思われてたそうです。
そして、最大のドラッグ・スターは何と言ってもチャーリー・パーカーでしょう。
カンザス・シティにいた15才の頃にドラッグを覚えて以来、ヘロインがサックスを 吹いていたと言っても過言ではないほど、その生涯はヤク浸りの日々でした。
なにしろ、自分のお気に入りのキャディラック売ってまでヤクにつぎ込んでいた為、「血管のなかに5台以上のキャディラックを打っていた」と彼自身が言ってます。
そんな素行とは裏腹に「ドラッグが効いていれば、良い演奏ができるなんていうミュージシャンは全くの嘘つきだ。」などと、”政治倫理審査委員会”なるものが自民党にあるのと同じくらい説得力がない発言もしていましたが、それほど当時多くのJAZZミュージシャンが「ヘロインをキメるとパーカーになれる」と信じていたのでした。
しかも、パーカーのコラムでも御紹介した通り、夜中にヤクが欲しかったら、売人の家の前で「パーカーズ・ムード」の最初の3音符を歌うのが合言葉、と言いますからある意味で「一般に広く認知されたJAZZミュージシャン」でもあったのですね。
結局、ドイツ語で「少量で大きな力を持つ」という意味のヘロインがパーカーにもたらした大きな力は34歳での突然死でした。
まぁ、彼の偉業が「伝説」とされる為にも、長生きしなかった事がかえってよかったのかもしれませんが。
さて、現代においてはJAZZも様変わりして、50年代頃までのドラッグ・フィーバーはもう見られません。
菜食主義や健康維持の為にジョキング、フィジカルトレーニングを日課にするミュージシャンもおり、世の中の流れも禁酒禁煙、生活改善化、健康増進法などと1人1人がWHOみたいな時代になっていますね。
逆に肉体作りに凝りすぎて、ドラックでなくドーピングに走るJAZZミュージシャンがそろそろ出ても良い頃かも。
「キース・ジャレット、今日も鍵盤を10本叩き折る!!アナボリック・ステロイド(筋肉増強剤)の使いすぎか!!」なーんてね。
文:
クリフォード・伊藤
スマック・アップ / アート・ペッパー (OJCCD-176-2)
アルト・サックスの名手、アート・ペッパーも有名なジャンキー。
スマック(smack)とは、50年代の隠語で「ヘロイン」のこと。元々の意味では"smack down"で「激しく叱責する」の意味があるが、"smack up"はそれに引っ掛けているらしい。「一発キメてイイ気分」くらいの意味か。
'60年の録音で、2曲目の「マリオ・クエバス」は、これまた仲の良いメキシコ人のヤクの売人との事で、なかなかのドラッグ・アルバム。しかし、ペッパーのサックスは艶やかで味があり全く遜色なし。これもヘロインの賜物か?
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