第16話 「呼んだ」ら「応えろ」 コール&レスポンス

アメリカの黒人達が奴隷だった時代、彼らの中から発生した音楽は当初、「Slave Song (スレイヴ(奴隷)・ソング)」とか「Plantation Song(プランテーション・ソング)」 と呼ばれていました。

これらの歌が歌われる時は、最初の数行はリーダーによって歌われ、後の行はグループがそれに応答する形でコーラスなどを付けていましたが、この応答形式=コール&レスポンスこそが彼らのルーツであるアフリカの伝統文化がもたらしたものなのです。

現在では、ゴスペルなどでボーカリストの歌に信者達が呼応する形式などを「コール&レスポンス」と呼んでいますが、もちろん、同じ黒人音楽をルーツとするJAZZにもこの特徴は受け継がれています。

JAZZの「コール&レスポンス」は、JAZZという演奏がミュージシャン同士の楽器による会話だとすると、「会話のキャッチボールをしようよ」って事なんです。

つまり、ソロが盛り上がろうとしたら、バックも盛り立てる。あるいはバック同士が結託して煽り立てたら、ソロもそれに応える。こんな大まかな事から、ほんの細かい音、時には静寂のニュアンスまでフォローする。ここまでくると、ほとんど「以心伝心」の境地で すね。

しかし、機微を探るようなあまりにも些細な反応は、我々一般リスナーには分かりにくいので、もっと分かりやすい「コール&レスポンス」の例をご紹介しましょう。

曲の中で、各演奏者のソロが終わり、テーマに戻る前に4小節(あるいは8小節)のソロの交換がよく行われますね?ここが「コール&レスポンス」が美味しく味わえる場所なのです。

まず、最初の4小節のフレーズが「お題」と考えてください。それに対してもう一人が4小節のソロで「返す」、もしくは「つなげる」ってのがこのソロ交換の原則です。

返し方やつなげ方は色々あり、相手のリズムを真似したりメロディーをフェイクしたりする簡単な応え方もあります。でも、やっぱり「会話」なんですから「ああ言えば」−−> 「こう言う」で切り替えしてくれないと、キャッチボールにはならないですね。

こんな「会話」という観点で、勝手な想像力を働かせてJAZZを聞いてみると、案外楽む事が出来ますよ。「このトランペッター、サックスと仲悪いのかな〜」とか「このフレーズ、 ピアニスト(女性)を口説いてない?」とかね。

さて、前回コラムではJAZZに必要な要素として「コラボレーション」とか「インタープレイ」とかを取り上げましたが、私が思うに、これらの小難しい言葉はミュージシャン自身よりも評論家や製作者側によって作り上げられ、流行り出したものと思われます。

しかし、「コール&レスポンス」は最初に話したように、黒人達の伝統であり、そう言う意味ではJAZZの「基本中の基本」であると申せましょう。

そもそも、会話が成り立ってこその共同作業(コラボレーション)であり、お互いの高め合い(インタープレイ)でしょ?

もっとも、あなたの会社にも一方的にしゃべりまくって、それでコミュニケーションが取れたと勘違いしている上司がいませんか?

挙句は、自分で自分の言葉に酔って「自己インタープレイ」になってしまうシアワセな方も、たまにいたりしますがね。

文: クリフォード・伊藤

Do that make you mad?

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ブライアン・リンチ&原朋直クインテット (ZT-20021)

日米正当派トランペッター同士の共演CD。考えてみるとワン・コーラス(32小節)のソロ交換ってのもありで、しかも同じ楽器同士の場合は使う音域や奏法が同じな為、より2人の「会話」の細かい違いが読み取れる。
ただし、同じ音域でバトルされると、焼肉屋で延々カルビを食べ続けるのと同様に ちょっと飽きてくるかも。故に、入門としては多少内容が濃いかもしれないが、ま、私の愛聴盤って事で。(ちなみに私はカルビ大好きです。)


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