第14話 予測・推測・かちあい禁止
ドラムがビートを叩き、ベースがグルーヴし、トランペットがその一音を出した瞬間、ピアノがテンション・コードで入魂する。。。。
いいねぇ、この瞬間がJAZZの醍醐味。言わばビール一杯目の心境だね。
そしてアドリブ。そこはコード進行やアレンジ等の決め事以外、完全に個人の技量とインスピレーション、即興の世界。
え?コード進行は決まっているから、コードに即興はないだろうって?
いえいえ、コードも即興なんですよ。もちろんコード進行は決められているので、旋律をアドリブするよりも制約は多いですが。
1流のミュージシャンならば、ソロ奏者のメロディーを聞き分け、「あいつの今のソロの流れから、たぶん次の一音はこれだろう」と予測して、次の一音とかちあわないコードをその瞬間で弾き分けているのです。
簡単に言うと、ソロ奏者が「ミ」と弾いたらバックは「ミ」を抜いたコードを弾き(あるいは、「ミ」がテンションになるコードを弾く。ま、同じ様な事ですが)全体がサウンドするように演奏するのが、JAZZのお約束事なのです。
そこで、現在、実力・人気No1のJAZZピアニスト福田重男さんに、一体、どんな感覚で弾いているのかを期待のJAZZバイオリニスト、maikoさんを通じて質問してみました。
まず、
弾き分ける時の感覚(上述のように予測した音を抜いたコードを弾くのか、予測した音に重ねるようにコードを弾くのか)を聞いてみたところ「両方あり」なんだそうです。
更にもう一つ、ベースも加わった場合はベースの分も予測するのか?の問いに、ベースがウォーキングしている場合はそこまで予測はしないが、バッキングをベースが支配している場合は、ちゃんと音を聴いて弾いているのだそうです。
恐るべしプロ!!
では、単音(トランペット、サックス等)に対して予測コードを弾くのはなんとかなるにしても、コード(ギター等)に対して予測コードを弾くのは、かち合う可能性の音が多い分、やっかいですね。これはどうでしょう?
これも福田さんに聞いてみたところ、ギターが弾いている時はあまり自分(福田さん)は弾かないようにしているが、逆に自分が弾いているときは(ギターに)弾いて欲しくないのだそうです。(やっぱり、相手との相性があるので難しいそうです。)
そう言えば、オスカー・ピーターソン(ピアノ)とジョー・パス(ギター)の二人の名手がJATP(Jazz At The Philharmonic)の興行で来日した時、この彼らにしても時々音がかち合う事があって、そのたびにステージ上で互いにガン飛ばしにも似た「目配せ」をしたと雑誌には書いてありました。
1流と呼ばれる彼らでさえこうですから、もし、耳の良くない私のような「なんちゃってギターリスト」が恐ろしくもピアノと共演するハメになったらどうすれば良いか?
ありがたくも、ジョー・パスが書いたジャズ・ギター教本にこのように書かれています。
「初めてピアニストの伴奏に直面した場合は、彼がメロディーを弾いていようが、ソロをとっていようが、その邪魔にならないように十分注意する事が必要だ。ギタリストは伴奏の際、リズム的にも、ハーモニー的にも弾きすぎてしまうことがしばしばだからである。」
(ジョー・パス/ジャズ・ギター教本、日本音楽出版)
つまりですね、「むやみに弾くな」って事なんです。
「ピアニストは、君が最初のうち休んでいても気にかけないはずだ。そうすることによって、彼の演奏を聞く時間が得られる。」
そして、最後にこんな言葉で締めくくっています。
「最も大切なことは、他の奏者を聞くということだ。そうすれば音楽の方が、君にどんなハーモーニー、リズムを弾くべきか教えてくれるだろう。」
う〜ん、その境地にたどり着くまで、道のりは遠いなぁ。ねえ?
文:
クリフォード・伊藤
アンダー・カレント / ビル・エバンス&ジム・ホール (TOCJ-5354)
ピアノとギターのハーモニーが、かち合わないようにするには?
まず、福田さんの言うように、どちらかが弾かないか休むのが簡単な方法。
このアルバムの白眉「マイ・ファニー・バレンタイン」がその例。ピアノのビル・エバンスがソロを取る時は、ジム・ホールのバッキングとかち合わないように(コードを弾く)左手が休んでいるのに注目。
(ちなみに、クリフォード・伊藤が誕生してまだ6ヶ月位の出来事である。)
尚、取材に協力して頂いた、福田重男さん。ありがとうございました。
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