第12話 JAZZ村アーティキュレーション

"Articulation"(アーティキュレーション)とは「明確な発音」、「音節」等の意味がありますが、JAZZの場合では”節まわし”の事と解釈して下さい。

さて、仮にJAZZという「村」があったとしましょう。ここにクラシックという発音・アクセントのきれいな都会の演奏家が「ぜひJAZZ村に住みたい!」とIターンして来たとします。

JAZZ村に溶け込んで一緒に暮そうと思ったら、その土地独自の文化・風習を身に付けなければなりませんね。特に「言い回し」・「節まわし」等、言葉は大切です。

それらをマスターしてはじめてJAZZ村で歌が歌える。演奏できる。そして共感してもらえる。逆に中途半端に歌おうものなら「あんた、この村のモンじゃねぇだろう!」と一喝です。なにしろ一般の村民(=JAZZファン)は、かなり保守的ですし、コアな村民ほどJAZZ村に住んでいるプライドがありますから。

あ、余談ですがJAZZ村でも演奏家は他の音楽に対して知識欲が旺盛なので、あまりこんな峻別はしないようです。(もちろん、拘りはありますが)まあ、ポップス、ブルース、ラテン、etc、何んでも飲み込んで自分のものにしていった融通性こそがJAZZと言えるんですが。

クラシック界も、ファンはJAZZに負けない位(いや、それ以上か)に保守的なんですが、やはり演奏家だけは意外と聞く耳や好奇心が広い人が多いようです。

例えば、バイオリンの大御所、メニューインがステファン・グラッペリとJAZZのCDを出したり、バーンスタインがJAZZについてオーケストラを使って説明したり、JAZZピアノの芸術家、アート・ティータムのライブにあのホロビッツが聞きに来てたり。

18歳でチャイコフスキー・コンクールに優勝したバイオリンの諏訪内晶子さんも、コンクールの練習の合間に、他の国の出場者とJAZZなど弾いて息抜きしてたと本に書いていましたが、ちょっと聞いてみたかったですね。

話を元に戻しましょう。

まず、正しいアーティキュレーションを身につける為には「リズム」と「アクセント」の二つがキーになります。

一番良い手本はホーン(トランペットやサックス)を真似することでしょう。人間の肉声と直結しているので、抑揚の付け方がより情感的な事もあります。歌手のヘレン・メリルは先輩歌手よりも、ホーン奏者に教えられるところが多かったと言いますし、また、JAZZでよく使われる方便として「ホーン・ライクな」という言葉があるように、やっぱり基本的なものだと思うのです。

最終的に、音階を使わず「リズム」と「アクセント」だけで"JAZZ"を感じさせるようになれば、それが正しいアーティキュレーションと言えます。

ジム・ホールは練習として、でたらめにチューニングさせたギターをリズムとアクセントだけで生徒に弾かせるそうですが、なるほどですね。

クラシック専門一筋(他ジャンルでもかまいませんが)でやってきて、超絶技巧派で曲の解釈もバッチリに歌い上げる事ができるエリート(注:誰のことでもありませんよ。例えです。)がJAZZを演奏した時「あれはクラッシクで、JAZZじゃない!」とコアなファンに一蹴されるのは、この「リズム&アクセント」に一つ大きな要因があると言えるでしょう。

と、ここまで書いて。。。

私は東北生まれですが、もう東京に来て20年以上経ちます。たまに田舎の友人宅に電話をすると「すっがり東京弁だなぁ」と言われますが、ウチの奥さん(東京生まれ)からは時々「アクセントが変」と看破されます。つまり、私もいまだ「アーティキュレーションに難あり」って事で、ちょっと心当たりのあるコラムだったりして。

そう考えると「潜入スパイ」って、ホント大変な職業なんですね。

文: クリフォード・伊藤

ユーディ・メニューイン&ステファン・グラッペリ

MENUHIN & GRAPPELLI PLAY BERLIN, KERN, PORTER and RODGER & HART
  / ユーディ・メニューイン&ステファン・グラッペリ(EMI CDM769219-2)

コラムでちょっと触れた、クラシック界とジャズ界のバイオリンの巨匠の競演。
しかし、いかにメニューインと言えども、彼にホットなスィングを求めるのはちょっと可哀相。それよりも、何の拘りもなくJAZZに挑戦するメニューインの懐の深さに大感服。



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