第11話 黒人のノスタルジア テンション

JAZZは同じ黒人音楽であるブルースと親密な関係があり、演奏の一部としてもブルースを取り入れているのはご存知だと思います。

ブルースは、理論書には「ミ」と「シ」が半音下がる(時には「ソ」も)、いわゆるブルーノートで演奏されるとありますが、あくまで西洋12音階に当てはめるとそれに「近い」だけで、本来はもっと微妙な音階であるハズなのです。

その”微妙さ”を表現する為に、ブルース・ギターには「泣き」=チョーキングがあり、さらに酒瓶の首(ボトルネック)を指にはめて弦上をスライドさせるボトルネック奏法なんてのもあります。管楽器(=トランペット、サックス)なら唇や息の吹き込み方の調整、フレットレス(=ベース、ヴァイオリン)なら指の位置によりその”微妙さ”を作り出す事が可能なのですが、

ピアノは?

そう、ピアノは困りましたね。ピアノは鍵盤と鍵盤の間が”半音”と決まっている、上記より融通の利かない楽器です。「半音階」のブルーノートは出せても、クォーター・トーン(1/4音)とか、その手の”微妙さ”はお手上げです。

ピアノがブルースのような「黒人らしい音」を出すのには、どうしたらよいのか?

そこで考えられたのが”テンション・コード”、つまり、ぶつかり合うような音をワザと重ねて、濁ったサウンドにしてしまうテクニックなのです。

西洋音楽理論では”不協和音”と一言で片付けられていますが、これは黒人のルーツであるアフリカ音楽から辿っていかなければ理解されないでしょう。

「ヨーロッパやアメリカからアフリカを訪れた人々は、アフリカ人達が全く混ざりもののないサウンドを、好んで濁らせる事に驚いた。」とあるように、音と音がぶつかり合う濁ったサウンドこそが、自分達のアイデンティティが溶け込んだ表現なのです。(一説によると、音をぶつけ合う事で、そこに微妙な音階を見出しているとも言われています。)

過去のコラムで、「わざとコードとぶつかる色(音)を使い「暗く、濁った絵(曲)」に仕上げるのがJAZZの極意」と書きましたが、そのルーツは実はここなのですね。

もちろん、テンション=不協音であれば何でもよい訳ではなく、そこには理論があります。ある決まったコード進行の中で、そのコードの役割によって使って良い/悪い「不協音」があり、それを間違えると不協どころか不快な演奏になってしまいます。

もっとも、クラシック至上主義の人にとっては「不協和音」は何を聞いても「不快和音」で、そこに理論があるなんて屁理屈だとしか思わないでしょうが、そう言う我々もこの響きが尋常じゃないと感じているから「テンション」(=緊張、不安)だなんてネーミングした訳で、う〜ん、あまり他人を責められませんね。

だってさ、ルーツであるアフリカではこれが”ナチュラル・コード”なんだから。

文: クリフォード・伊藤

アイドル・モーメンツ/グラント・グリーン

アイドル・モーメンツ/グラント・グリーン (CJ28-5090)

このCDは本題の内容とは全く逆。いかに「テンション」に頼らずに、「黒人らしさ」が出せるかの見本のような演奏。(と言ってもチョーキングギンギンのブルース・ギターではない。)このノリ、このグルーブ感こそがまさに”JAZZ”。


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