第10話 神様・仏様・パーカー様

訓し、数ヶ月後に山から降りたら、素手で石を割る事が出来た・・・ではなく、もう誰もかなうものはいない「天才」になっていたのでした。

伝説のブルースマン、ロバート・ジョンスンは「四辻(クロスロード)で悪魔に魂を売った」為に、比類なきミュージシャンになれたといいますが、実はパーカーも山の中で悪魔に「魂」を売ったのではないかと私は見ています。いや、そうに違いない。

「つい数ヶ月前、俺達がジャムセッションから放り出した、あの若造と同じ奴か?」

ミュージシャンの中でパーカーは噂の人物となり、その後、シカゴ、ニューヨークと出て行って、数多い伝説を作っていく事になります。例えば

・「All the things you are」を演奏すると言っておきながら、「Just friends」のコード進行でパーカーがソロを始めた。バックは困ったが「All the〜」のコード進行のまま演奏を続けた。ソロが終わると、パーカーは平然と「All the〜」でエンディングし、何事もなかったように曲を終えた。

・麻薬でヘロヘロになりながら「Lover Man」をレコーディングした。その後ホテルの部屋に戻ったパーカーは素っ裸でロビーへ降りた。彼は部屋に連れ戻されたが、今度は部屋で火事騒ぎを起こし、結局その後、麻薬更正施設に送られた。

・とにかく麻薬は欠かせなかったらしい。彼の曲"Moose The Mooche"は彼がひいきにしていた麻薬の売人の名前からとっている。また、ヤク中毒者の仲間内でも有名人で、夜中にヤクが欲しかったら "Parker's Mood"の最初の数小節を口ずさむと、売人がやってくるとか。

などなど、彼の奇行や言動はとても興味深く、多くの書物等で紹介されていますので是非一読してみてください。
(音楽的にもっと詳しく知りたい方は、辻バードさんという方が”日本チャーリー・パーカー協会”を主催しております。そちらのHPなどはかなり参考になると思います。http://tsujib.com/_CPSJ.htm

パーカーは1955年に35歳の若さで急死しましたが、今でもModern Jazzの演奏家にとっては出発点であり、バイブルでもあります。

しかし、JAZZを聞く側にとっては必ずしも「聞きやすい」演奏ではありません。なにしろ、もう50年前の録音ですからノイズは多い、状態は悪い、かつ概ね「難解」。JAZZ評論家の寺島靖国氏も「確かに上手いのは分かるが、なんだか大型ペンチで心臓をつかまれるような演奏のどこがいいのだろう。」と。アイタタタ。。。

しかし、ですよ

パーカー嫌い。とても理解できない。聞けたもんではない。その通りです。しかし、JAZZを聞く人は「絶対におさえるべき」コアな人物である事だけは知っておくべきです。例えせっかく買ったパーカーのCDが今はお蔵入りになったにしても。

でも、「全く知らない」じゃね。特にパーカーくらいの人物になると。。。

ちあきなおみの古い映像を見た高校生が「あ!コロッケそっくり!」と言ったらしいですが、渡辺貞夫しか聞かないファンが、たまたまパーカーのCDを聞いて「あ!ナベサダそっくり!」って言うのは、やっぱりおかしいなぁ。

文: クリフォード・伊藤

Parker's Mood

Parker's Mood/渡辺貞夫 (WPB6-90018)

今回はDVDの御紹介。内容的にはパーカーの曲ばかりを演奏したもので、1985年の収録。珍しく全編モノクロだが、聞きやすいし雰囲気があってそれなりに良い。

コラムでもチラッと言ったが、ナベサダはスタンダードを演奏させるとかなりのパーカーさん。

昔、私はこの映像をあるJAZZ喫茶で初めて見たのだが、レーザーディスクが当時発売されていたので、貧乏人の私はJAZZ好きの友人をそそのかして購入させ、よく見に行ったものである。

しかし、この友人が実は大のナベサダ嫌いである事を知ったのは、かなり後になってからで、しかも、嫌いなものはハッキリ”キライ”と譲らない友人だっただけに、なぜああもアッサリ購入してしまったのか未だに分からない。

その友人も6年前に癌で急逝しまい、当時の真意を聞く事もできなくなったが、少なくともこの出来事が彼の死期を早めたのではないのを祈るばかり。

そんな訳で、このDVDは未だ購入していない。ナベサダの後ろに友人が映っていたら怖いので。。。(しかもモノクロだし)


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Parker's Mood

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