第9話 ビ・バップ 2

今回はBe-Bopを理論的な側面から紹介して行きましょう。

第1に、コードの細分化とそれによるフレーズの変化が挙げられます。

スィングまでのJAZZは「コードの切れ目=フレーズの切れ目」が一般的でした。

例えば、1小節目がCのコード、2小節目がDのコードであったら、一小節目にCのフレーズを、2小節目にDのフレーズを当てはめた訳です。(とても大雑把に言えばですよ。)

ところが、Be-Bopは1小節目Cのコードがもっと細分化できると考えました。極端な話、一小節に4分音符が4つあったら、4つのコードに細分化可能としたのです。

同様に、2小節目Dのコードを4つに細分化、3小節目を。。としていくと、小節の区切りの意味が薄くなってきます。結果としてフレーズの明確な区切れも無くなり、より連続した自由な表現が可能になると同時に、コードが増えた分だけアドリブに使用できる音の数も増えていきました。

また、細分化によりCというコードが4つの違うコードに置き換わる訳ですから、このやり方をスタンダード曲のコード進行に当てはめると、別な曲が出来あがりますね。Be-Bopはそのように「下敷き」がある曲が多く、以下はその一例です。

   元になったスタンダード曲            Be-Bopの曲

     Whispering              >  Groovin' High
     How High The Moon        >  Ornithology
     Indiana                >  Donna Lee
     What is this thing called love  >  Hot House
     Honysuckle Rose           >  Scrapple from the apple
     Cherokee                >  Ko Ko

更にチャーリー・パーカーを始めとするビバッパー達は、それまであまり使われていなかった♭5thなどをハーモニーに取り入れ、置き換えた和音=代理和音のなどの理論を確立していきました。

第2にリズムの違いです。

実際にBe-Bopの曲を聞いてみると、「ジェットコースターのような」と表現される起伏の多い、うねるようなテーマが目立ちます。このように音数が多く、特にミディアム・テンポ以上の場合は、音符が8分音符中心の均等(イーブン)なリズムで演奏されるようになりました。

もっと簡単に言うと、スィングJAZZにあるような3連符(タタタ・タタタ)っぽい、いわゆる「ハネた」リズムではなく、ほとんどレガートで演奏されるのがBe-Bop以降のJAZZなのです。(と言っても、全くアクセントが無い訳ではありませんが。)

以上、細かい所を挙げるとまだ沢山ありますが、私はこの2つが大きな革新的部分ではないかと考えます。

"Modern Jazz"言われる今日のJAZZは、全てここから出発している訳で、その立役者のチャーリー・パーカーはやっぱり偉いもんです。うん。

しかし、革新的な事はいつの時代もすんなり受け入れられないもので、保守的な連中からBe-Bopは批評を浴びました。

とりわけルイ・アームストロングは「若い奴等は不気味なコードを演奏する。」とか「音の間違い−これがバップのすべてなのだ」等々、痛烈な批判を展開。

反対にテナー・サックスのベン・ウェブスターは「時代は進む。音楽家も変わらなくてはならない。」とBe-Bopの援護射撃をしたり、あのナット・キング・コールでさえもBe-Bopの批判家に対して「奴はスィングで稼いでいた。バップが儲かり始めたら、俺はきっとそうなると思うが、奴だってバップをあおりたてる連中の一人になるに決まっている。」と発言しました。

もっとも、ナット・コールの場合は「Be-Bopが主流になろうが俺は関係ないぜ」って余裕の発言に聞こえますが。。。

さて、次回はもう少しBe-Bopにお付き合い下さい。
世紀のJAZZ天才児、チャーリー・パーカーについて語ってみたいと思います。

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−おまけー

「ビーバップ・ハイスクール」って映画がありましたね。

「Bop」とは、もともと1930年頃のスラングで「拳固で殴りつける」という意味で、その後、さらに転化してティーン・エージャーが街中で喧嘩する意味に使われるようになりました。(ちなみにJAZZの「Be-Bop」は、前回のコラムの通りスキャットのリズムからきていますので、両者の間には全く関連はありません。)

従って本来なら「Bopハイスクール」や「Boppingハイスクール」となるべきですが、それでは音のおさまりが悪いので、映画の原作者がどこかの音楽雑誌で聞きかじった「Be-Bop」の語呂を拝借したのではないでしょうか?
と、これはあくまでも私の想像ですが。。。

文: クリフォード・伊藤

Master Takes

The Savoy Recordings -Master Takes- / Charlie Parker (KING 246E 6802)

パーカーの録音は、Dial、Savoy、Verveの3つのレーベルが有名だが、多くの CDはボツになったテイクもつめ込んでいるので、初めて聞く人にはかなり切ない。

私が持っているレコード(CDじゃないよ!)は"Donna Lee"が4曲入っている 「どな・りー強化盤」なのだ。)

そんな訳で、今回紹介したこのSavoy盤は全てマスターテイクなので、余計な ボツテイクはなし。安心なされ。


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