第6話 "即興"でなくともアドリブ
JAZZではインプロヴィゼーション(improvisation)と呼ばれますが、”アドリブ”の方が広く認知されていますし、私も(書くのが)楽なのでアドリブで通しましょう。
さて、プロのビッグバンド、「宮間利之とニューハード」に山木(やまき)幸三郎さんというJAZZギターリストがおりまして(今はアレンジャーとして有名です)過去2回ほど彼のギター・クリニックを受けた事があります。
アカデミックな講義というより、「どう(臨んで)演奏するか?」的な話題が中心の、小ネタも多い結構楽しいクリニックで、”アドリブ”に関してもこんな事を言っておられました。
「だいたい3パターン持っていればいいよ。ウェス(・モンゴメリー)にしたってレコード(原文ノママ)聞くと毎回毎回、そんなに違ってないよね。それから同じフレーズ弾くにしても、オクターブ変えてやれば違った様に聞こえるし。」
アドリブと言えば、JAZZピアノの巨匠キース・ジャレットの如く、演奏中に夢遊病者のように立ち上がり、うめき声と共にトランス状態になった脳裏から無意識にあふれ出てくる珠玉のようなフレーズ。。。。と思いきや、なーんだこれでいいのか。
でもジョージ・ベンソンのように「本番では、練習した事を全て忘れて弾くんだ」ってやり方もあるので、人それぞれって事でしょうか。
山木さんの話を続けましょう。
「フレーズもね、自分の「これだ!」ってのをしつこいくらい練習する。何回も何回も。ステージで弾く時はみんな初めて聞く訳だし、分かりゃしない。「またこのフレーズか」ってのはアンタのところの奥さんが知っていればいい訳で。」
おー、その通り。ウチの奥さん、ごめんなさい。
「ニューヨークに行った時にね、ジム・ホールのライブにロン・カーターがゲストで出るってので2人のリハーサルを見た事があるんだ。曲は確か「枯葉」だったな。
午前中からリハやってて、俺が昼飯食べに行こうとスタジオの前を通ったらまだ「枯葉」やってた。昼飯から戻ってきてもまだ「枯葉」やってた。一体何時までリハやってたか分からない。」
「で、いよいよ本番が始まってステージも終盤。ジム・ホールが本日のゲストとしてロン・カーターを迎え入れると、まるで生き別れた兄弟が再会した様に抱き合うんだ。「おー、久ぶり。元気か?」ってな具合で。昼間さんざんリハってたくせに、何言ってんだ。」
「その上、ステージ上で「何やろうか?」、「ん〜、そうだな「枯葉」なんかどう?」
「お、いいね!」だって。俺はもうコンチキショーってな感じだよ!」
ん〜、舞台裏はこうだったのか!!これを聞いて妙に感心してしまった私ですが、プロは「仕込み」ってものも必要なんですね。
でも。。。あのキース・ジャレットのパフォーマンスも、まさか「仕込み」じゃないよね?
(だったら怖いが)
文:
クリフォード・伊藤
アローン・トゥゲザー/ジム・ホール VICJ−60150
ジム・ホールとロン・カーターのデュオライブ。コラムで紹介したライブではないと思われるが、噂の”枯葉”が収録されている。
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