第5話 あるミュージシャンへの手紙
9月半ばの台風が去った後、いきなり秋になってしまいましたね。
お変わりありませんか?
この間、古いレコード(CDじゃないよ)を引っ張りだして久しぶりに埃を落としてあげました。レコードがなんと言っても良いのはジャケットの大きさで、表紙だけでも別の作品として楽しめるんですね。
なにしろセロニアス・モンクの「ミステリオーソ」のジャケットは、ジョルジオ・デ・キリコの絵を使っおり、絵葉書に勝ること数倍の迫力に負けてつい買ってしまったのは、すみません、私です。(もちろん中身も良いですよ)
さて、ちょっと強引な前フリでしたが今回はJAZZという「絵」を書く場合の「色使い」について語らして下さい。
西洋音楽一般で使える音は12音階(C,Db,D,Eb,E,F,Gb,G,Ab,A,Bb,B)です。これらを12色の絵の具と考えてください。(オクターブ違いは彩度とか明度と考えるとよいでしょう。)
あなたの場合、3原色を軸とした調和の取れた色使いが基本になっていますね。ハズレのない守りの堅い色使いですが、反面、どうしても明るく健康的な絵になりがちなのです。(ただし、曲によってはこれで良い事もあります。)
わざとコードとぶつかる色を使い、「暗く、濁った絵」に仕上げるのがJAZZの極意です。
3原色(トライアド)とは調和しない色〜〜西洋音楽理論では不協和音とされますが〜〜それがb5thとかb9thなど、テンションノートと言われるJAZZっぽさを演出する基なのです。
さらには、テンションにもならない、本当にコードを壊してしまう色も(avoid(避ける)
noteと言いいます)、JAZZではアクセントのつかない場所などに「こそっと」使われたり します。まさに隠し味感覚ですね。
これらの色は、今でこそ理論的な説明がされていますが、元々は黒人達のフィーリングから出てきたものです。単純に、使ってみたら「イカしていた(古っ)」だけの事なのですが、前回出てきた「グルーブ」も含めJAZZとは黒人達が発展させた音楽なんですね。
さて、これらの事が分かってくると手持ちの色が増えて、表現の幅も広がってきます。うれしくなってきましたね。でも今度は知っているからと言って全部使うのもいけません。
マイルス・ディビスなどは最小限の音でトランペットを吹きます。ツボを外さない色だけで絵を書いて行く事も必要なのです。それはJAZZを習っていくとだんだん分かってくるでしょう。
色々勝手な事を書いてきましたが、最後に。
あなたにはすばらしい「歌心」という優れた才能があることを忘れないで下さい。
JAZZではボーカルはもちろん、ピアノ、トランペット全てにおいて魂の入った良い演奏を「歌っている」と表現します。つまり「歌心」のない、歌わない演奏はどんなにJAZZらしい音を使っても何の感動ももたらさないのです。
また演奏を聞きに行きます。すばらしい「歌心」を是非聞かせて下さい。
朝晩もどんどん冷え込んできます。風邪などひかぬようご自愛を。
ではまた。
Sincerely yours
文:
クリフォード・伊藤
ミステリオーソ/セロニアスモンク VICJ−60353
☆「からっと小粋なスィング」が身上のカウント・ベイシー。その秘密はリズムの要であるギターのフレディー・グリーンに負う所が多い。彼は一時期ソロギターを取ろうとした事もあったが、彼がバッキングをしないとバンドが全然スィングしないので、仲間がアンプの電源を切ったりして無理やりリズム・ギターに専念させたとか。
このアルバムは小人数コンボでの演奏なので、その歯切れのよいリズム・ギターが十分堪能できる。またコンボなので「カウント・ベイシー?う〜ん、ビック・バンドはちょっと苦手。。。」という方にもお勧め。
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ミステリオーソ+2
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