Happy Valentine's Day
*プロローグ*
この時季になると、街中に甘い香りが立ち込めて。
女の子たちも、どこか浮き足立ったようにソワソワし始める。
誰にあげる?とか、手作りするの?とか、休み時間のたびにコソコソ展開される内緒話。
毎年、2月の恒例行事。
好きな人がいる女の子にとっては、特別な一日。
昨年までの私なら、その日に向けて楽しそうに準備をする友人達を少し羨ましく思いながらも、どこか他人事のように話を聞いているだけだったけれど。
今年は違う。
今年は、私にもチョコレートを贈りたい人ができたから。
初めて他人事ではなく、自分の事だという感覚を持って、バレンタインの話に加わっている。
「は、絶対手作りでしょ?」
「うん。今のところ、そうしようかなとは思ってるけど」
「そこは迷わず決定事項でしょ!お菓子作り得意なんだから、こういうときこそ手作りしないでどうするのよ」
「…じゃあ、手作りにする」
「となると、次はどんなチョコを作るかだよね」
「それが一番迷うんだよね。チョコって、たくさん種類あるし…」
「でも、好きな人の好みを考えれば、結構絞れてくるよ?」
「好みかあ」
「甘いほうが好きそうとか、少しほろ苦いほうが喜んでくれるかも、とか」
「………」
「ちなみに、の好きな人の好みは?」
「私の好きな人は――」
甘いのが好き。
ほろ苦いほうが喜んでくれそう。
う〜ん。分からない。
2010.02.07