このルートは、とキャラがまだ付き合っていないという設定です。
忠実な学プリ設定ではありませんので、予めご了承ください。
それでも大丈夫な方のみ、スクロールでお進みください。
Happy Valentine's Day
*milk chocolate for Genichiro*
「よく、分からない…」
そう呟いた私に、がくれたアドバイスは、「それなら、スタンダードなものにしたら?」というものだった。
スタンダードなものはスタンダードになるだけの理由があるのだから、好みが分からず迷ったときにはそれにするのが一番だと。
そんなアドバイスを受け、私は彼にミルクチョコレートをあげることにした。
市販されているものはミルクチョコレートが多いので、チョコレートのスタンダードといえば、ミルクチョコレートかなという判断だった。
(…もらってくれますように)
以前、会話の中から知った彼の好きなグレーのリボンを結び終えると、私は祈りるようにそっとキスをした。
-バレンタイン当日・3年A組-
「おや。さん。どうかしましたか?」
放課後。
3年生の教室のある3階に降り、そっと後ろのドアから中の様子を窺ったところで、背後から声をかけられる。
「柳生先輩」
振り返ると、そこには柳生先輩の姿。
「珍しいですね。3年の教室に来るなんて。何か用事ですか?」
「あ、はい。あの…真田先輩に…少し」
「…ああ、なるほど。彼なら、先ほど担任に用事を頼まれて、職員室へ行きましたよ。ですが、すぐ戻ってくるでしょう」
なんだか気恥ずかしくて、手にしていた紙袋を見られないように急いで背後に隠したけれど、先輩は私の目的などすでにお見通しだという様子で笑った。
「うまくいくといいですね」
「…ありがとうございます」
かけてくれた応援の言葉にもやはり気恥ずかしさから顔が赤くなって、それを見られたくなくて少し俯き加減に返事をしたところで。
「?こんなところで何をしている?」
探していた当人の声が聞こえた。
「…真田先輩」
「真田くん。頼まれた用事は済んだのですか?」
同時に、真田先輩に視線を移す私と柳生先輩。
「ああ、今終わったところだ。それより、ふたりともこんなところで何をしている?」
教室の後ろのドアの脇で立ち話をしていた私たちに、真田先輩が不思議そうな顔をしている。
「それは…」
「彼女が、貴方に用事があるそうです」
いざとなると言い出す勇気がなくて、困ったように言葉を詰まらせた私の背を押すように、柳生先輩があっさりと言ってしまった。
「せ、先輩っ」
まだ覚悟ができていなかった私はひどく慌てたけれど、柳生先輩は無言の微笑みを浮かべてから、「私は用事があるので失礼します」と、早々にその場から立ち去ってしまった。
けれど、立ち去る寸前に見せてくれた微笑みは、明らかに「がんばってください」と言っていた。
「俺に?なんだ?」
「ええと…その…」
柳生先輩が立ち去ってしまうと、真田先輩の視線が私に集中する。
真田先輩に真っ直ぐ見据えられて、私は緊張でますます言葉を詰まらせてしまう。
でも今勇気を出さなければ、卒業を間近に控えている先輩に、私の気持ちを伝える機会はもうないかもしれない。
「先輩にお話があるので、一緒に…来てくれませんか?」
なけなしの勇気を必死でかき集め、震える声で辛うじて紡いだ一言。
先輩がそれに何と返事をしたのかは、緊張のあまり私の耳には届かなかった。
-バレンタイン当日・屋上-
人目のある教室前から誰もいない屋上に真田先輩と移動して、私は今、屋上一面に張られている防護用のネットを背にして先輩と向かい合っていた。
「それで、話とは一体なんだ?」
しばらくお互いに無言だったけれど、このままでは埒が明かないと判断したのだろうか、先輩が私より先に口を開いた。
緊張と不安で、手足が小刻みに震える。
夏に行われた合同学園祭以降、テニス部のマネージャーとして先輩とは親しくさせてもらってきているから、嫌われてはいないと思う。
けれど、それはあくまで先輩と後輩という関係上での話だ。
その関係から離れたとき、先輩が私にどんな感情を抱いているのかは分からない。
「これを…受け取ってくれません、か…?」
先輩の顔を見られなくて、俯きがちに差し出した紙袋。
ずっと、後ろ手で隠し持っていた紙袋を握り締めていた両手が、さらに震えだす。
「これは…?」
先輩のそのたった一言が返ってくるまでが、まるで永遠のように長く感じられた。
「――チョコレート、です…」
相変わらず先輩の顔を見られない私は、ずっと下を向いたまま。
今日はバレンタインなので。と付け加えた言葉も、まるで蚊の鳴くような小さな声しか出せなかった。
「………」
再び、永遠に続くかのように感じられる静寂。
やっぱり、断られてしまうんだろうか。
そんな不安が身体中を巡って、涙が零れ落ちそうになったとき。
差し出していた両手が、ふっと軽くなった。
その感触に、ずっと伏せていた顔を恐る恐る上げる。
「ありがとう」
目が合った瞬間に先輩が言って、私はそこでようやく、チョコレートを受け取ってもらえたのだと気が付く。
「――あ、いえ…こちらこそ…」
ありがとうございます。
まだどこか現実離れしているような感覚が私を支配していて、実感が湧かない。
「なぜ、が礼を言う?おかしな奴だな」
思わず呟いたお礼の言葉に、先輩が面白そうに笑った。
その笑顔に、私の心がドキっとする。
普段厳しい表情の多い先輩が、こうしてたまに見せる笑顔は私の心をドキドキさせるのに充分すぎる。
「…受け取ってもらえないかもしれないって、不安だったので」
正直に告げたら、先輩が短く息を吐いて少し眉間に皺を寄せた。
「先輩?」
何かいけないことを言ってしまったのだろうかと、途端に不安になる。
けれど、先輩は次の瞬間には顔を赤くして照れたような表情に変わっていて。
どうしたんですか?と問いかける直前、
「お前からのチョコレートならば、大歓迎だ」
いつもより早口な先輩の言葉が、耳に届いた。
それを聞いた私の胸は、トクンと淡い期待に高鳴って。
今なら、先輩と後輩の関係以外でも好かれていると自惚れても構わないんだろうかと考えながら、
「先輩。私…」
さっきまでの緊張と不安とは違う意味で震え始めた声で、これまでずっと秘めてきた私の想いをそっと紡ぎ始めた――。
2010.02.21
最後は真田でした。
そして、思いっきり遅くなってしまい申し訳ありませんでしたm(_ _)m
おまけに、まだが片想いだと思っている段階で、側の気持ちだけで書こうと思ったら、非常に難産に。。。
ちゃんと告白部分まで書かずに終わらせてしまったし(汗)
片想いの雰囲気が伝わっていれば、せめてもの救いです。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。