伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】 2021年1月31日 第46代アメリカ大統領 T.G

 今年もはや1ヶ月が過ぎた。時間が経つのが早い。それなのに伝蔵荘日誌の筆がなかなか進まない。歳を取って世事に関心が向かなくなった故だろう。

 12年前のオバマ4年前のトランプなど、新しいアメリカ大統領誕生は必ず日誌に書いてきた。読み返してみて、オバマには辛辣に、トランプにはやや好意的に書いている。その後の時間の経過はその通りになった。口先だけで何もしなかったオバマ、乱暴で品はないが口にしたことは必ず実行に移したトランプ。大統領に限らず、人間の評価は第一印象で決まると言うことだろう。今回バイデンについて書かなかったら片手落ち(放送禁止用語で、ATOK変換も出来なかった)、伝蔵荘日誌のルール違反である。これではいけないと、さっそく以下に書く。

 世界的に著名なコンサルティング会社のユーラシア・グループが、今年の世界の10大リスクのトップに“46*”を選んだ。 意味するところはアメリカ第46代大統領バイデンが世界のリスクの第一位と言うことである。2位が「コロナ後遺症」、3位と4位が「気候変動」、「米中関係」といずれも世界を揺るがす大物リスクだから、46代アメリカ大統領がその中でも極めつけの一大リスクと見ているのだ。アメリカ大統領が世界のリスク1位とは世も末である。レポートの詳細は上記リンクを読んでもらうとして、要約すると次のようである。

 バイデンは8000万票獲得したが、トランプもそれに肉薄する7400万票という有権者の過半数に近い支持を受けている。選挙経過の混乱やいかがわしさから、その多くが選挙結果(バイデン)を拒否している。選挙そのものがアメリカの分断を助長しているのだ。リベラル左翼的傾向が強い民主党は、ラストベルトに代表される多くの保守的国民層の支持を受けていない。バイデンは“Not My President”(私の大統領ではない)、すなわち正当性を欠く大統領と見なされている。この結果、バイデンの国内統治はきわめて難しくなる。公約に掲げた大規模な景気刺激策も、医療制度の見直しも行えない。最優先課題に挙げているコロナ対策も、ワクチン投与の計画実施が難しく、好ましい結果を生まなかったら反対勢力は勢いを増すだろう。

 分裂した党派間の闘争は、国内政治の枠を越えて世界に悪影響を及ぼす。対中国問題を含め、バイデンアメリカは世界への影響力を失い、指導力を大いに低下させるだろうと言う。さらに続けて、「トランプの支持基盤の規模、および彼の政治連合の層の拡大を考えると、同盟国やその他の協力国は、4年後に「アメリカ・ファースト」を標榜する大統領が再び就任し、バイデン政権が作り出した重要な公約やコミットメントを反故にする可能性を考慮する必要がある。」と喝破している。4年後にバイデンは再選されるべきではなく、トランプ的な大統領が求められると言っているに等しい。きわめて否定的で辛辣な見方である。

 それにしてもいかがわしげで不可解な大統領選挙だった。終盤までトランプ優位に進んでいた選挙情勢が、ジョージア、ミシガン、ウィスコンシンなどの少数ラストベルト州で突如としてバイデン票が積み上がりだし、あっけなくひっくり返ってしまった。そのいかにも不自然な票の伸びがネットで全米に流れた。全米に不正選挙を糾弾する声が広がり、トランプも選挙後に提訴したが、州裁判所も、トランプが頼みの綱にしていた連邦裁判所も、証拠調べもせず門前払いしてしまった。おそらくこれ以上の混乱を恐れたアメリカのインテリ達が、緊急避難的な不作為を働いたのだろう。アメリカの民主主義は真実を追い求めず、臭いものに蓋をしてしまったのだ。そのため不正選挙の疑いはいまだに晴れていない。少なからぬ国民の不信感を生んでいる。この悪影響は後々まで及ぶだろう。もしかしてこれがアメリカ民主主義の終わりの始まりになるかもしれない。

 そのバイデン新政権である。気候温暖化対策のパリ協定復帰、原油パイプラインの建設許可撤回、WHO脱退の撤回、マスク着用義務化、国境の壁建設中止など、トランプが掲げた政策の全否定だけで、独自の政策は皆無である。日本を含め、世界が最も注目する対中国政策については今のところ曖昧なままだ。トランプの対中政策をとりあえず踏襲するとは言っているが、多くの人が信用していない。オバマの副大統領だった男がいかに親中国だったか憶えているからだ。息子のハンターが中国から10億ドルの投資資金で抱き込まれていることを知っているからだ。

 案の定バイデン政権のサキ報道官が「対中国に戦略的忍耐で臨みたい」 などとバカなことを言い出した。「戦略的忍耐」はオバマ時代から一貫した民主党の対中戦略で、「黙ってみているだけで何もしないこと」と同義である。オバマ時代はその戦略のもと、中国に対して何もせず見ているだけ、南シナ海で中国のやりたい放題を許し、知財権侵害もほったらかし。その結果、今の化け物のような中国を生んでしまった。バイデンの確信犯的な戦略的忍耐の踏襲は、はさらにそれに輪をかけるだろう。

 そもそも「戦略的忍耐」は、米ソ冷戦時代にジョージ・ケナンが言い出したソ連封じ込め政策で、ソ連の内側からの変化を忍耐強く待つ事を意味した。結果は狙いどおりになって、90年代の初めにソ連は崩壊した。人口減少と生産力低下に悩まされていた当時のソ連にはきわめて有効な戦略だったが、世界最大の14億の人口を有し、すでに世界第二の経済力を獲得している中国にはまるで当てはまらない。火に油を注ぐのと同じで、見当違いの戦略である。その愚をバイデン政権は意図的に繰り返そうとしている。習近平の独裁中国はますます増長するだろう。日本にとって悪夢である。

 バイデンは大統領就任式の直前、地元の集会で感極まって涙を流したという。いかにも情緒的で情けない大統領だ。こんな精神ひ弱な男に核のボタンを預けることになるのは、日本を含め、世界にとってまさに脅威の“46*”以外の何ものでもない。なぜアメリカ国民はこんな認知症気味の締まりがない男を大統領に選んだのか。トランプならずとも、もう少しましな男はいなかったのか。今さら愚痴を言っても仕方がないが、地政学的に米中の狭間で生き延びるしか道がない日本は、この悪しき現実から目をそらさず、粛々と立ち向かう準備を始めるべきだろう。我らがガースーに、そこんところがいまいち分かっていないのは大いに気がかりではあるが。

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