伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2017年1月22日: トランプ大統領就任 T.G.

 トランプ大統領の就任式が行われた。CNNやニューヨークタイムスなど、マスコミは盛んに批判を繰り返し、アメリカの危機と警鐘を鳴らす。ワシントンポストの世論調査では支持率40%、不支持率54%の、アメリカ始まって以来の最悪の不人気大統領だという。トランプ嫌いの彼らは、いまだに昨年の大統領選挙の時と同じことを言っている。ご本人のトランプには偽(フェイク)世論調査とあざ笑われたのに、懲りない連中である。

 大統領就任式の前から、アメリカ全土で反トランプデモが起きているという。テレビや新聞が、それをあたかも社会正義であるかのように報道する。アメリカは議会制民主主義の先進国と思っていたが、大いに見損なった。いくら気にくわなくても、選挙で選ばれた大統領である。少なくとも過半の国民の支持を受けているのだ。その大統領に敬意を払わず、人でなしの人非人のように口汚く罵る。政策ではなく大統領としての存在そのものを攻撃する。日本を含めた世界の先進民主主義国で、このような愚かで異様な光景を見たことがない。民主主義を標榜するアメリカの、民度の低さを見るようだ。

 8年前のオバマの時は大はしゃぎで提灯持ち記事を書いていた朝日新聞が、この世の終わりとでも言うような陰々滅々たる社説を書いている。それによると、「偉大な米国の復活は、国際秩序と一線を画す孤立主義への回帰なのか。大国としての責任を担い続ける覚悟はあるのか」、「あやうい取引政治は、米国が築き上げてきた国際秩序への自傷行為にほかならない」、「敵意や不安をあおる言葉の数々で社会を分断し、米国への信頼を傷つけてきた」、「国際合意や歴史的経緯への認識を欠く言葉は、すでに世界に混乱を広げている」などなど。同盟国の新大統領を、就任初日からこれだけクソミソに貶める神経が分からない。朝日が大好きなオバマだって、この8年間「国際秩序を毀損する自傷行為」を散々やったではないか。南沙諸島の危うさや、シリアやISISの惨状を忘れたのか。

 そもそもアメリカが世界の警察官を辞めて、アメリカ一国主義に立ち戻るのがそれほど悪いことなのだろうか。小生は大歓迎だ。ぜひそう願いたい。風が吹けば桶屋が儲かるではないが、これまでの世界の混迷の元は、ほとんど世界の警察官アメリカがもたらしたものだ。アメリカが世界の警察官気取りを始めたのは80年前である。そのアメリカがイギリスやフランスやドイツなどと同じように一国主義で振る舞っていたら、過去80年の世界ははるかに平和であったのではなかろうか。そう思えてならない。

 例を挙げれば戦後に起きた大紛争、朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラク戦争などである。アメリカはこれらすべてに世界の警察官として関わった。その結果、朝鮮半島は分断され、不安定化し、今もって極東アジアのお荷物になっている。アメリカが世界の警察官気取りをやめていたら、李承晩より金日成の方が指導者として優れていたから、朝鮮半島は共産化されながら統一され、結果としてあれほどの大量殺戮は起きなかっただろう。今ほどの不安定化は避けられただろう。アメリカがベトナム戦争を起こさなかったら、ベトナムは共産化されただろうが、悲劇的な大量殺戮は避けられた。どのみちベトナムは共産化されたのだ。アメリカが警察官気取りでフセインやカダフィやビンラディンを抹殺しなければ、9.11も起きなかったし、シリアの混乱もISISの誕生もなかった。中東は貧しく不安定ではあっても、今よりはるかに平和だっただろう。ヨーロッパを悩ます大量難民も発生しなかっただろう。

 さらに遡れば先の大戦である。単なるヨーロッパと東アジアの局地紛争に過ぎなかった争いに、時のルーズベルト大統領が世界の警察官気取りで余計な介入をした結果、地球規模の大戦争になってしまった。ヒットラーがスターリングラードを堕としてモスクワに迫っていたら、その後のヨーロッパの景色は別のものになっていただろうが、所詮は欧州の局地紛争である。日本が支那へ攻め込んで大陸を荒らし回ったとしても、所詮は小規模なアジアの小競り合いである。アメリカにとっていかほどの権益が冒されたというのか。にもかかわらず世界の警察官気取りのルーズベルトが、愚かな日本を挑発して真珠湾に殴り込ませ、それを奇貨としてアメリカ国民を扇動し、他国の戦争に巻き込んで欧州と太平洋に巨大な軍事力を展開した。その結果、単なる局地紛争を世界大戦にしてしまったのだ。もしあの時代にアメリカ一国主義のトランプが大統領になっていたら、第二次世界大戦は起こらなかったに違いない。

 さらに言えば、ルーズベルトが余計な手出しをせず、あのままヒトラーとスターリンを戦わせていたら、両者は共倒れになっただろう。ドイツはナポレオンと同じように疲弊し、ソ連は世界を二分するほどの強大国になれず、東西冷戦は起きなかったに違いない。あのまま日本軍と国民党軍を戦わせていたら、日本は東南アジアにまで手を広げず、毛沢東のいない中国大陸は共産化されず、アジアには別の秩序が生まれていたに違いない。第二次大戦と戦後の東西冷戦は共に地球規模の災厄をもたらしたが、すべてが世界の警察官アメリカが招いた災いと言って過言でない。

 そういうわけで、トランプのアメリカ一国主義は大歓迎である。彼の得意のディール外交で、日本も多少はいびられるだろうが、そのお陰で少しは独立国らしくなれるだろう。アメリカ一辺倒をやめ、独立独歩の気概を持てるようになるだろう。しかしながらそうなる前に、トランプ新大統領にお願いしたいことがある。前任者オバマが招いた中国の増長だけは押さえてもらいたい。南シナ海を普通の海に戻してもらいたい。我々はいい迷惑をしている。世界の警察官をやめて一国主義に戻る前に、前任者が撒いた種の尻ぬぐいをする。そういう責任と義務があなたの国にはあるはずだ。ぜひお願いする。トランプ大統領殿。

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