伝蔵荘日誌

2008年11月6日: アメリカ大統領選挙終わる T.G.

 やっとアメリカ大統領選挙が終わった。初の黒人大統領誕生でアメリカは大いに盛り上がっている。当事者であるアメリカのお祭り騒ぎはよいとしても、日本のマスコミまで妙に浮かれているのはおかしな話だ。特にリベラル系のテレビや新聞のはしゃぎ振りを見ていると、いったい何を考えているのかと首をかしげたくなる。

「新時代待望 『オバマ!』7万人歓喜の渦。オバマ氏が勝利宣言すると、七万人の聴衆が「イエス・ウイ・キャン(私たちはできる)」と大合唱。感極まって泣きだす人たちもいた。」(6日付東京新聞)

「この日が来ると、だれが1年前に予測できただろう。米国史の転換点を私たちは目撃している。米国民の2008年の投票行動が「賢明な判断だった」と世界史に刻まれることを期待したい。」(6日付毎日新聞社説)

「オバマ氏当選―米国刷新への熱い期待。米国を変えたい。刷新したい。米国民のこうした思いが、一気に噴き出したような選挙だった。 」(6日付朝日新聞社説)

 バッカじゃなかろか。 脳天気もいい加減にせい! 少し考えれば分かることだが、日本の国益にとっては控えめに見ても共和党マケインの方が“ベター”に決まっている。オバマになってがっかりすることはあっても、躍り上がって喜ぶことではない。

 歴代民主党政権は実に日本に冷たかった。クリントンの8年間、経済摩擦や日本バッシングでさんざん虐められてことを日本人は忘れたのだろうか。確かにブッシュは無能でいい加減な大統領ではあったが、それはアメリカ国民にとっての話。日本にとっては間違いなく“良い大統領”だった。クリントンのような陰湿な日本虐めはしなかった。アメリカ国民はともかく、日本にとってブッシュ時代の日米関係は、総じて幸いな8年間だったと言ってよい。民主党リベラル極左派のオバマはより中国寄りに傾いて、日本に冷たくなるだろう。

 自分を含めほとんどの日本人はオバマがどういう男か、何を考えているのか、よく知らない。もしかすると日本人だけでなく当のアメリカ人も知らないのかもしれない。アメリカ在住のアメリカウォッチャー古森義久氏は、「オバマとはどんな人物か、どんな政策を信奉し、実践するのかを考えると、“思わず身のすくむほど未知な部分”が多いことに気付く。」(6日付産経新聞)と書いている。

 現時点でのアメリカ最大の問題は金融大混乱だが、この人物がマクロ経済的な観点からこの大問題を取りさばく見識があるとは思えない。役人任せにしたら前政権と同じ失敗をする。選挙公約を見ると、減税とか大企業優遇税制の廃止とか、耳障りはいいが、百年に一度の金融危機にはさしあたり屁の突っ張りにもならない。安全保障政策にしても、イラクから撤兵してアフガンと言うが、単にアメリカ国民のイラクアレルギーに便乗しているだけではないのか。この混迷した国をどう料理するかノーアイデアなのではないか。アフガンはイラクと違い石油も資源もない。イラクに比べてはるかに貧しく民度も低い国だ。かって大英帝国やソ連でさえ手を焼いたあげくに撤退した。その歴史がまったく分かっていない。イラクで駄目ならアフガンでなんて、思いつきとしか思えない。おそらく手を焼いて、イラク以上にひどい状況になるに違いない。日本にもあれやこれやもたれかかって来るだろう。インド洋での給油なんて手軽な話で済まなくなる可能性大。戦闘部隊派遣を要求してくる可能性もある。このあたりを、脳天気リベラル大新聞はどう考えているのだろうか。

 知らないついでに無責任に言うと、大いに気懸かりな点が二つある。口のうまさと黒人大統領という点だ。政治的実績も経験もはるかに豊富なヒラリー、マケインに勝てた唯一、最大の要因は弁舌の巧みさである。彼をよく知らない聴衆でも、彼の演説を聴いただけで魅了されてしまうと言う。もう天才と言って良い。演説の上手さは十分に計算されたものではあろうが、舌先三寸というか、口舌に天賦の才があるのだろう。 テレビで見ていてもいやらしいほどだ。演説上手という点ではかのヒットラーに似ている。ヒットラーの天才的で計算し尽くされた演説にドイツ国民は酔いしれ、その結果、20世紀のもっとも進んだ民主憲法、ワイマール憲法の下でナチスが生まれた。オーストリア生まれの伍長の政治手腕など誰も知らなかったのに。人となりは別として、それに似ている。 聴衆は “Yes we can.” などとうわごとのように言わされているが、何が We can. なのかまるで分かっていない。口だけが上手い大統領なんてゾッとしない。

 誰も口にしないが、黒人であることはもっと現実的な問題だろう。リンカーン以来アメリカは大統領暗殺の歴史である。戦後だけでも3回も起きている。レーガンは一命を取り留めたが、ケネディ家はそれで根絶やしにされた。ヒラリーは選挙戦の最中、たびたびそのことを口にして顰蹙を買った。「1992年の時は、6月半ばのカリフォルニア州予備選に勝利するまで、私の夫は党推薦を獲得できなかったんですよ。ボビー・ケネディがカリフォルニア州で6月に暗殺されたのは誰でも憶えてますよ。」などとあからさまに。「どちらが勝っても私が大統領よ」、と言うわけだ。実にえげつないオバサンである。それがあってか、オバマはヒラリーではなくバイデンを副大統領に選んだ。

 1964年、ダラス遊説中にJ.F.ケネディ大統領は暗殺された。アメリカの奥の院、石油産業などユダヤ資本の権益を侵したからだと噂されている。彼らによって送り込まれた(とされる)副大統領のジョンソンが大統領に昇格し、ベトナム戦争を取り仕切って戦争特需を作った。アフリカ系黒人が大統領になることは、WASPの奥の院を大いに刺激しているに違いない。はたしてジョセフ・バイデンが第二のジョンソンになるのだろうか。大統領就任式前にことが起きたら、誰が大統領になるのかという議論もあるという。そうならないことを願いたいものだが。

  

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