放送機音声増幅器に要求される基本性能
マイクロホンの種類により出力レベルも異なりますが、音声増幅器の入力レベルは音源によっても異なります。定格レベルに対し瞬間的に、15db〜20db高くなることもあります。
定格レベルと瞬時電力とのレベル差をピークファクターまたはヘッドルームといい、音声増幅器はこの瞬時電力を歪み無く伝送できるよう出力電力にマージンが無ければならない。
通常マイクロフォンのダイナミックレンジは、120db程度、ミキサーコンソール内の伝送系は、更に大きな値を持っている。
こうしたことから、パーカッションなどの楽器をオンマイクで収音した場合、ピークと平均レベルとの差は15〜18dbに達する。 この場合+4dbに基準レベルを設定した場合ピークレベルでの出力は+19〜+22dbに達する。
これがパルス性の入力の場合は最悪で、VU計あるいはピークメーターの時定数外のパルスでは正確に表示しなくなる。
通常送信機の入力は、0db入力にて運用出力で動作するように設定されているからこうなると、過変調あるいはオーバードライブとなってしまう。
感度
3,600オームの外部直列抵抗を通して1KHz、1.228V(rms)の正弦波を加えたとき0VU(100%)を示す。1KHZの正弦波を回路に加え、0VUを示した時3,600オームとなる
構造
1KHz,0VUを示す正弦波を0から突然加えたとき、指針が3秒で99%に達し、振れすぎは1〜1.5%以内となる。
挿入損失
VU計を接続することにより回路へ挿入損失を与え、VU計に0VUを指示させるレベルは1.228V(+4dbm)である。
VUメーターは、音声信号の大小の指示に重点を置いたメーターで、耳で聞いただけではでは分かりづらい音声信号の大きさを表示し、平均値を表示する。
実際のピーク値はVU計の指示よりも+8〜15dbあると言われる。
VUメーターは振れればいいという物でなく規格で定められている。
ダイナミックレンジとは、上記の事からノイズレベルと音声増幅器の最大無歪出力の差を言う。
最大電力の伝送
増幅器においては効率よく伝送するのにインピーダンスをあわせなければならない。
図にその例を示す。
音声回路の伝送にはご存知のとおり600オーム伝送が一般となった。これらの回路では、適正動作のため600オーム負荷が必要であった。
一方能動素子を用いた回路では、低出力インピーダンス、ハイ入力インピーダンスというシステムの考えがとられた。
このシステムでは、負荷が低インピーダンス出力にブリッジ出力され、入力インピーダンスは高くなる。
見かけ上は信号電力を伝送するのではなく、信号電位差を伝送している。
負荷適合の考え方と具体例
伝送回路における計測の単位はdbmで表し、1mwを基準にしており、600オームのシステムでは、1mwを伝送する電圧は0.775V(このとき表示はdbvになる)となる。
600オームのシステムでは、全システムの入出力インピーダンスを600オームに合わせますが、ある増幅器の入力側より見たインピーダンスが600オームより低かった場合、図に示すように、増幅器の入力側から見たインピーダンスが600オームになるように、付加抵抗を直列に接続してインピーダンス整合を行う。
また、600オームの入力インピーダンスを持つ増幅器に、さらに600オームのインピーダンスを持つ回路を接続した場合、図に示すように出力電圧は1/2に落ちてしまう。これは600オームの入力インピーダンスと負荷インピーダンスに2分されることからも分かると思う。
電力レベルを均等に伝送しようとすると、全ての回路は適正負荷を保たなければならない。
負荷を分散する場合は、図のように抵抗配分により調整する。この場合−6dbの電圧低下となる。
マイクロフォン増幅器
マイクロフォンからのの極めて低い信号レベルを扱いやすいレベルまで増幅し、それなりの工夫が凝らされている。ダイナミックマイク、べろシティマイクなどボイスコイルが可動するタイプでは、スピーカーと同じで出力インピーダンスが周波数によ
って変動する。
すなわち、低域周波数では共振周波数によりインピーダンスはピークを持ち、高域周波数ではインダクタンスの為、インピーダンスが高くなる。
出力インピーダンスの変動の影響を最小限抑える為、マイクロフォン増幅器の入力インピーダンスをマイクロフォンの出力インピーダンスに比べ十分に大きく(10倍くらい)する。
jまた、S/N比に関しては、信号源の抵抗分に相当する熱雑音がマイクロフォンの雑音となる。600オームラインでの熱雑音レベルは129.3db(20KHz帯域)ですから、-70dbの出力レベルを持つマクロフォンの理論的S/N値は59.3dbですが実際は増幅器の雑音が加わりさらに悪化する。
その他、注意点は何でもそうであるが、トランジェントに対するDC電源の応答性を良くする。
平衡回路
伝送回路が長くなる放送局等では、増幅器間の接続に平衡回路が使用され、外部からの雑音、アース間のポテンシャルの違いによる電位の変動の軽減される。
この平衡回路を使用するに当たって、補助的に使用されるものも平衡用のものが使用される増幅器間の接続で、レベル調整用に使用されるものに固定減衰器があり、一般的にパッド(PAD)と呼ばれ、使用目的により図のようなものがある。
また、レベル調整で可変したい場合は、H型音量調整器と呼ばれる入出力のインピーダンス600オームの整合性を保ち可変するが、構造的にステップ式のため定期的な保守が必要となる。、
音声帯域トランス
トランスの使用目的は、平衡・不平衡の変換またはインピーダンスの変換が主たる目的ですが、増幅器の出力レベルおよび通過帯域内の特性を重視し選択する。
マイクロフォン増幅器と送信機間のレベル管理
放送局等で、スタジオから送信機へ送られる音声信号の定格レベルは1KHz・0VUで送信機ではAM変調の場合100%変調として扱われる。
送信機の100%変調レベルはそれ以上高いレベルが入力されると過変調になる最大許容入力です。
ここで注意したいのは、スタジオ側のピークマージンは定格レベル0VUから+20db高い信号まで、歪み無く出力されるように設計してあるため、何らかの処理をしないと送信機に過大入力が入り、送信機の定格を瞬間的に越えることが予想される。
これを防止する目的で開発されたのがリミッターコンプレッサーであり、このピークマージンとの差20dbを吸収する。最新型のリミッターコンプレッサーではただ圧縮するだけでなくパルス性の非常に高いレベルの入力にも対応するピークリミッター
が設けられたものもあり、色んな入力レベルの変動に対処している。
リミッターコンプレッサーの正しい設定
リミッターコンプレッサーは、広範囲なダイナミックレンジを持つ入力信号を、限られたダイナミックレンジしか持たない伝送系に自動的に収めるために長年使用されてきた。
放送分野では、狭帯域のAM変調でレコード等の広帯域のダイナミックレンジの広い信号に対応させることや、一般家庭における平均聴取レベルを均一化させる目的があった。また同時に、重要な事だが送信機内部のオーバーロードや、過変調
による真空管の破損を予防するインターロック的な目的で使用された。
一般的にリミッターコンプレッサーは設定値までは出力レベルは入力レベルと同一レベルで出力され、スレッシュホールドレベルに達すると制御が開始される。仮に2対1の圧縮比が設定されていれば、入力が2db増加すると1dbの出力増となる。
アタックおよびリリースタイムに関しては、アタックは通常大変短く、100マイクロ秒〜1ミリ秒、リカバリータイムは0.1〜2.5秒といった値が設定されている。