今年6月3日に起きた佐世保米兵「共同逮捕」事件が初めて国会で議論となりました。7月15日、衆議院外務委員会で赤嶺政賢議員(日本共産党)が取り上げました。答弁は警察庁の矢代隆義交通局長で、実際に現場で起きた、主権を侵害する事実から目をそらし、あくまでも「共同逮捕」であると主張して米憲兵隊(MP)の行為をかばいました。
以下、速記録(議事速報)から
○赤嶺委員
それでは次に、日米地位協定に関しまして、佐世保市で起こりました日米共同逮捕問題、これについて伺っていきます。
6月3日に佐世保市で起こった米兵による追突事故、この事案について、その概要を説明していただけますか。
○矢代政府参考人
御説明いたします。
御指摘の事案でございますが、平成17年6月3日午前0時30分ころ、長崎県佐世保市におきまして、米軍人がその運転する普通乗用車を信号待ちのため停止中の普通貨物自動車に追突させ、加療一週間を要する傷害を負わせた交通事故に関しまして、日米両当局が、運転していた米軍人39歳、上等兵曹でございますが、を逮捕した事案でございます。
被疑者は、けがの治療のために一時的に米軍施設に搬送されまして、その後、治療が済んだ後の同日午後5時ころ、米軍当局者によりまして所轄警察署に連行され、警察署において所要の取り調べ等を行なった後、被疑者を釈放し、米軍当局に身柄を引き継ぎました。
その後、長崎県警察は、米側と連携しながら、被疑者の取り調べ、実況見分等、所要の捜査を行ない、道路交通法違反及び業務上過失致傷害を立件し、送検したという事案でございます。
○赤嶺委員
酒気帯び運転で追突事故を起こした米兵を日米両当局が逮捕した。こういう事案であるわけですが、日米両当局が逮捕したことをもって政府は共同逮捕という言葉をお使いですが、共同逮捕というのは何ですか。
○矢代政府参考人
御説明申し上げます。
いわゆる共同逮捕は実務上の用語でございまして、刑事裁判管轄権に関する事項についての日米合同委員会合意第八(一)の「日米両国の法律執行員が犯罪の現場にあって、犯人たる合衆国軍隊の構成員、軍属又はそれらの家族を逮捕する場合」における当該米国の法律執行員による逮捕を称するものと承知しております。
○赤嶺委員
これを、日米合同委員会合意の八の(一)に基づいて、日米両当局が現場にいたので共同で逮捕した、実務上の用語だ、このような御説明でしたけれども、現場はそんなものじゃないんですね。
現場では、米兵が酒気帯びで追突事故を起こした。日本の警察官が駆けつけた。事情聴取をしようとするけれども、米兵は車の中から出てこない。アルコール検査にも応じない。それで、日本側警察は、米側当局に連絡をし、通訳も来てもらってやった。いわば、取り調べそのものを一切犯人は拒否したわけですね。
そこに、通訳を通じてそれでも応じないので、日本側警察が米兵に手錠をかけた、手錠をかけてパトカーに乗せて連行しようとした。連行しようとしたら、それを米側当局が立ちはだかって、そして、犯人の腕をつかんで日本側警察から取り戻そうとした。日本側警察と米側当局との間にトラブルがあったわけです。トラブルどころじゃない。米側当局は、そのやり取りの中で、けん銃に手をかけて威嚇までしている。こういうような状態なんですね。共同で両方が逮捕したんじゃないんです。日本側が逮捕した米兵を米側が取り戻した。
ですから、日本側警察は、相浦署ですが、当初、米軍側による公務執行妨害だと言っているわけですよ。共同逮捕ですか。日本側の手錠がかけられた米兵を米側が連れていった。それで手錠だけ後で帰ってきた。基地の中に連れていって釈放しているようなものですよ。これが共同逮捕ですか。実務上の話だと言うけれども、こういうのを共同逮捕というんですか。いかがですか。
○矢代政府参考人
御説明いたします。
相浦警察署の警察官は、刑事訴訟法に基づきまして、これは現行犯逮捕をし、所要の手続を進めておるわけでございます。現場には、相浦警察署の署員のほか、米軍当局の法律執行員でありますMPが来ておりまして、本件の米軍人の逮捕、MPによります逮捕は、刑事裁判管轄権に関する事項についての日米合同委員会合意第八(一)に規定されている事案ということで、その措置がとられておるわけでございまして、現場におきましては、この同合意の趣旨に沿った対応がなされたものと承知しております。
○赤嶺委員
陳腐な話ですよ。日本側警察は、刑事訴訟法に基づいて現行犯逮捕をしました。アメリカは、地位協定の合同委員会合意に基づいて逮捕しました。何か手錠を一人の犯人に二つかけるようなものですよ。
しかも、現場には最初から同時にいたわけじゃないんですよ。現行犯逮捕で日本の警察官が駆けつけた。取り調べに応じないから、通訳の必要もあり、米側に通報して、米側のMPも来た。通訳官も来た。そういう中で日本側警察は逮捕したんです。
逮捕した上に、ですから、当初の相浦署の発表では、報道発表ですよ、MPが米兵を強引に基地に連れていったと米側の対応を批判しているわけです。捜査員の一人も、MP数人で抱えるようにして連れていった、公務執行妨害に当たる、このように言っているわけです。しかも、MPが犯人を連行しようとするのを日本側警察官は必死にとめようとしているんです。もみ合いになっているんです。現場で。
それが、日本側は刑事訴訟法です、そして米側は日米合同委員会合意に基づくものです。こんなものが、そういう犯罪から日本の社会の秩序を保つ上で、どれが優先されるべきですか。この場合、日本側の警察であることは当然じゃないですか。日本の主権ですよ。
何でそれが、共同逮捕なんて言えば聞こえはいいですよ。共同逮捕と言えば、日本側とアメリカ側が協力して一人の犯人を捕まえたという印象を持ちがちなんですが、皆さん、現場の逐一についてちゃんと押さえていらっしゃるんですか。押さえた上で共同逮捕という言葉を使っているんですか。
○矢代政府参考人
御説明申し上げます。
この日米合同委員会の合意でございますが、その第八の(一)に
- 日米両国の法律執行員が犯罪の現場にあって、犯人たる合衆国軍隊の構成員、軍属又はそれらの家族を逮捕する場合には合衆国軍隊の法律執行員が逮捕するのを原則とし、この被疑者の身柄はもよりの日本側の警察官公署に連行される。日本国の当局による一応の取調の後、当該被疑者の身柄は原則として引続き合衆国の当局に委ねられるが、当該事件が日本国の当局が裁判権を行使する第一次の権利を有する犯罪に係るものである場合には、日米の共同捜査のためいつでも取調の対象となる。
こういうことでございまして、現場には米軍当局の法律執行員もおりました。したがいまして、この合意に沿いまして措置されたということでございます。
○赤嶺委員
今読み上げた文にも違反する行為が行なわれていたんですよ。現場には両当局がいた。米側が来たのは、MPが来たのは、日本側警察の通報である。そのときには現行犯逮捕していた。そして、そういう場合に、現場にMPがいた場合には「合衆国軍隊の法律執行員が逮捕するのを原則とし、」と今読み上げられましたが、「この被疑者の身柄はもよりの日本の警察官公署に連行される。」とあります。
最寄りの日本側警察署に連行したんですか。米兵が身柄を奪って基地の中に連れていったじゃないですか。合意にも反するじゃないですか。皆さん、そういう現場で起こっている一つ一つについて検証しているんですか。これは、その事故現場で目撃者がたくさんいますから、ごまかしようがないんです。市民がたくさん目撃しております。いかがですか。言われているように、最寄りの日本側の官公署に連行したんですか。それだけ答えてください。
○矢代政府参考人
御説明いたします。
この米軍人、上等兵曹でございますが、事故の当事者でございましたので、けがをいたしておりました。したがいまして、被疑者は、けがの治療のために一時的に米軍の施設に搬送されまして、その治療が終わりました後、所轄警察署に連行され、警察署において所要の取り調べを行なったということでございます。
○赤嶺委員
現場で何が起こったか説明できるかといえば、それは説明しないで、米兵がけがをしていたので基地の中で治療をさせたんだと。
日本の警察は、犯人がけがをしていた場合、治療をしないんですか。こんなばかな話がありますか。日本側警察の判断にそれまでをゆだねるべきじゃないですか。アメリカをかばうために、こんな現場の警察官は泣いてますよ。自分たちが犯罪を防ぐために一生懸命やった、それを、政府の方から圧力がかかって、共同逮捕だと言って説明してきている。実際、公務執行妨害だ。
こんな主権が侵害されても、なお共同逮捕というような言葉をつくり出して、アメリカをかばうようなことはぜひやめてくださいよ。そういう特権的な地位を米兵に与えているから、事件、事故が繰り返されるんです。
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