佐世保米兵「共同逮捕」その後

 今年6月3日に起きた佐世保米兵「共同逮捕」事件はその後も新聞各紙が取り上げています。

 外務省日米地位協定室は「地位協定に共同逮捕という言葉はない」とした上で、「1953年ごろの合意事項を警察当局が独自に解釈して、共同逮捕と呼んでいる」と説明する。その合意事項では「米軍関係者が容疑者となる現場に日米双方の捜査当局者が居合わせた場合、米側の逮捕を原則とし、警察署に容疑者を連行して警察当局の取り調べを行うものの、身柄は米側が拘束し続ける」ことになっているという。(西日本新聞)
 しかし、日米双方が居合わせて逮捕したわけではなく、日本側が逮捕した後に米軍事警察がやってきたわけで、今回の件が該当するとはとうてい思えません。
 米軍は「出血がひどく、緊急に治療を受けさせる必要があった」と説明するが、相浦署によると「鼻血を出した程度」という(朝日新聞)。その後出頭するまでに16時間近くかかっている。もちろん治療にそれほどかかるわけでなく、口裏合わせが行われたと見るべきでしょう。警察庁は「日ごろ『共同逮捕』という呼び名を使ってないだけで、珍しいものではない」(西日本新聞)と説明しているようですが、そうだとすればこれは異常なことです。しかもこの合意事項は、日本の独立直後、地位協定の前身の「行政協定」時代のものです。いまだにこのようなものに拘束されていること自体が問題なのではないでしょうか?

 6月9日、衆議院議員の照屋寛徳さんがこの問題に対して質問主意書を提出、答弁書は17日に閣議案件で了承され、公表されています。以下、各質問と答弁を紹介します。基本的に詳細は答弁拒否、「共同逮捕」については警察の主張そのままです。

長崎県佐世保市で発生した米軍人による業務上
過失傷害被疑事件に関する質問主意書及び答弁書
 去る6月3日午前零時半ごろ、長崎県佐世保市の県道11号線路上で発生した米軍人による業務上過失傷害事件の被疑者名及び階級、被害者の負傷の部位程度、被疑者の当該犯罪は公務中か公務外か、過失の内容等その犯行態様を含めて事実関係を詳細に明らかにされたい。
   御指摘の事件は、平成17年6月3日午前零時30分ころ、長崎県に駐留するアメリカ合衆国海軍(以下「米海軍」という。)に所属する上等兵曹テリー・リン・ペイスが運転する普通乗用自動車が、長崎県佐世保市内の路上において、普通貨物自動車に追突し、同車の運転者が加療約一週間を要する傷害を負ったものであると承知している。また、事件発生時、同上等兵曹は公務執行中ではなかったと承知している。その他の事実関係の詳細については、捜査の具体的内容にかかわる事柄であることから、答弁を差し控えたい。
 同事故による被疑者の米軍人は飲酒運転の疑いが濃厚であったようだが、検知管による検査には応じたのか。また、相浦警察署が現行犯逮捕したようだが、現行犯逮捕をしなければいけなかった諸事情を明らかにした上、一連の逮捕行為について政府はいかなる見解を持っているのか示されたい。
 

 長崎県警察においては、被疑者が事情聴取に応じず、逃走のおそれがあったことから、被疑者を業務上過失傷害の疑いで現行犯逮捕したものであると承知しているが、逮捕に至る状況の詳細については、捜査の具体的内容にかかわる事柄であることから、答弁を差し控えたい。
 また、本件逮捕については、個別具体的な事件における捜査機関の活動内容にかかわる事柄であることから、政府としての見解を示すことは差し控えたい。
 米憲兵隊員は、当該被疑者米兵を基地内に連れ帰ったようだが、これら米憲兵隊員の行為は、わが国警察の正当な逮捕権、捜査権を妨害するものであり公務執行妨害罪に該当すると思われるが政府の見解を示されたい。
   個別の事案に関する犯罪の成否については、捜査機関が収集した証拠に基づき個々に判断すべきものであるので、答弁を差し控えたいが、本件では、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(昭和35年条約第七号。以下「日米地位協定」という。)第十七条10(b)により、米海軍の当局において被疑者の逮捕等の措置を講じたものと理解している。
 長崎県警はその後米軍と協議の上「日米地位協定の合意事項に基づく共同逮捕だった」と発表しているが、日米地位協定に基づく共同逮捕の具体的な根拠及び共同逮捕の要件、共同逮捕の場合の捜査権、裁判権について日米地位協定や合意事項においてどのように定めているのか明らかにされたい。また、長崎県警と米軍の協議機関ないし協議にあたった者の氏名等を明らかにされたい。
   お尋ねの「共同逮捕」とは、実務上、刑事裁判管轄権に関する事項についての日米合同委員会合意第8(1)の「日米両国の法律執行員が犯罪の現場にあって、犯人たる合衆国軍隊の構成員、軍属又はそれらの家族を逮捕する場合」における当該逮捕を指称するものと承知している。同合意第8(1)では、そのような場合には、「合衆国軍隊の法律執行員が逮捕するのを原則とし、この被疑者の身柄はもよりの日本国の警察官公署に連行される。日本国の当局による一応の取調の後、当該被疑者の身柄は原則として引続き合衆国の当局に委ねられるが、当該事件が日本国の当局が裁判権を行使する第一次の権利を有する犯罪に係るものである場合には、日米の共同捜査のためいつでも取調の対象となる。日本国の当局が特に当該被疑者の身柄を確保する必要があると認めて要請した場合には、その者の身柄は日本国の当局に引き渡される。」とされており、我が国及びアメリカ合衆国軍隊の当局は、日米地位協定、日米地位協定についての合意された議事録及び日米合同委員会合意に従って、捜査を行い、裁判権を行使することとなる。
 また、長崎県警察本部及び長崎県相浦警察署が米海軍佐世保基地法務部と協議に当たったと承知しているが、協議に当たった者の氏名等を明らかにすることは、業務遂行に支障が生じるため、答弁を差し控えたい。
 今回の事件処理は長崎県警による捜査権の放棄に等しいと思われる。これら長崎県警による捜査権の放棄は、不平等、不公正な日米地位協定を容認するものであり、とうてい承服できないと考えるが政府の見解を明らかにされたい。
   長崎県警察においては、米海軍の当局の協力を得ながら、所要の捜査を行っているところであると承知しており、捜査権の放棄との御指摘は当たらないと考えている。

 米軍が容疑者の「飲酒検査用の血液」を提出してきたのは事件発生から10日以上が過ぎた6月14日のことでした。「血液はいつ、どこで、どうやって採られたのか。強制的だったとすれば証拠にならない」(伊志嶺善三弁護士・朝日新聞)「いつのものか確かめようのない」(相浦署幹部・西日本新聞)ものでしたが、県警本部科学捜査研究所で鑑定した結果、アルコール分が検出されました。容疑者は13日業務上過失傷害容疑で書類送検され、15日に道交法違反容疑(酒気帯び運転)で追送検されました。その後、6月23日、佐世保簡易裁判所は罰金40万円の略式命令を出しています。

 一方、この問題は佐世保市議会でも取り上げられました。市は事件後、相浦署に情報提供を二度要請しましたが、同署は「捜査段階のためコメントできない」と回答したといいます。光武市長は「事実関係が確認でき次第、判断を決めたい」と述べ、現時点での判断を避けています。また原口優秀基地対策室長は、外務省が市の照会に対し、「日米地位協定上に『共同逮捕』という言葉はなく、答えられない」と回答したと説明しました。そして日米合同委員会の合意事項についても市独自で調べたが、「共同逮捕という文言はうかがえない」と答えました。
 韓国、中国やロシアに対しては「主権侵害」を高らかに言う政府は、米軍に対しては口をつぐんでいます。主権回復には安保条約廃棄しかありません。