●令和6年~●

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 今年は、1504句から

 
令和6年

1月・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1月2日
*新年の季語少し
 初春、三が日、お年玉、賀状、門松、初笑、初電話(初メール)
 お降り(オサガリ、正月三が日に降る雨、雪)、七草、
 嫁が君(正月の間、鼠を大黒様の使いとしてもてなす風習)
 年酒、雑煮、


1504・愛でるもの皆芽出たしや年酒酌む
1505・郷帰り人の数ほどお年玉
1506・初春や深呼吸して職に入る
1507・三が日もたれる身体引きずられ
1508・お降りや途切れぬ人の参り道
1509・若水を沸かして入る湯舟かな

1月3日
1510・若水を沸かして入る薪を割る
1511・こそこそと施し貰ふ嫁が君
1512・初メール打てば答へる電子音

1月6日
1513・大晦日手締め一本けりを付け
1514・お猪口乗せお盆はゆらり柚子湯かな
1515・若水に浸かる湯舟に酒の盆
1516・餡入れた.お餅を崩し雑煮食ぶ
1517・行儀良く喰積愛でる箸迷ひ
1518・供華光る七日を置いて寒灯火
1519.二三人減って運座の十二月
1520・冬籠り遺品のボトル入れ替えて
1521・段取りを思ひ浮かべて三日かな
1522・手始めに目先のところ四日から
1523・初春や出会い新たに酒を酌む
1524・初春や酒瓶増える無礼講
1525・初電話スマホ覗いて1on1
1526・ジンギスカン喰うて人日堪能す
1527・人日や病院通ひ慣れ久し
1528・人日や待合室に名を呼ばれ
1529・卓袱台に歯には優しき七草粥
1530・文机ピー缶手元に冬籠

1月7日
1531・名を忘れ箸に絡みし七草粥
1532・黄昏れて月を見ている小正月
1533・スムーズに女正月迎へけり
1534・何となく女正月過ぎ去りし
1535・色々と片付け続く小正月
1536・この食感歯には力を海鼠かな
1537・小鉢には海底暮らす海鼠かな
1538・赤海鼠海の棺やシュトーレン
1539・野に出でて手締め一本年の空

1月9日
1540・一人寝の寝酒肴に艶夢かな
1541・参道の冷たき地べた一歩づつ
1542・老ひ重ね厚着する身は芯となり
1543・身を焦がす焼鳥煙る暖簾かな

1月11日
1544・釜清め銀舎利ほろり初炊ぎ
1545・鏡割り皆息災や汁粉喰う
1546・皆息災良き歳繋ぐ鏡割り
1547・初炊ぎ銀舎利揃ふ釜の中
1548・大いなる海より川へ柳葉魚焼く
1549・牡蠣フライころりと逃げる皿の上
1550・素を隠し寒紅引いたネオン街
1551・焼鳥の土産の鞄芳しく

1月12日
1552・縁側の冬の日向に雀いて
1553・取り外し煙突掃除雪の上
1554・手をかざす飯場ストーブやかん酒

1月15日
1555・冬ざるる唸る重機と現場人
1556・霙降る灯火現場に重機音
1557・蛇の目傘さして出勤夜時雨
1558・日向にはすだく雀の冬模様

1月16日
1559・掻きむしるおどろの髪に冬の雨
1560・地盤凍つ走る鶴嘴まだ浅く
1561・振りかざす鶴嘴一光冬灯火
1562・冬灯火重機を囲む現場人
1563・動かざる御身引き締め冬木立

1月19日
1564・文字起こし出来ぬ俳句に春を待つ
1565・燗酒を啜る先から染み渡る
1566・雨風に負けずすっぽり冬帽子
1567・箱破りマフラー一気に首ったけ
1568・ドアノブに絡めたマフラー掛かりおり
1569・化粧なく鏡を抜けてコート着る
1570・マフラーを絡めたままの奥座敷
1571・手を引かれジャケットすっぽり達磨さん

1月21日
1572・老残の名を忘るるや木瓜の花 春
1573.雨垂れを泉からぞと囁かれ 夏
1574・落し行く袋に入れた新小豆 秋
1575・燗酒は我が細胞の糧となす 冬

1月27日
1576・悴みて扉の鍵もままならず
1577・悴みて身体で開ける扉かな
1578・悴みて互ひを擦る掌
1579・悴みも擦れば燃ゆる骨の芯
1580・老ひの膳箸で摘まんで粥柱
1581・祝ひ箸老ひの歯固め粥柱
1582・正常値二十日正月過ぎたるや
1583・小盃燗酒注ぎ酔ひ直し
1584・凍蝶の動かぬ先の蒼い空
1585・凍蝶の風に寄り添ひ奮い立つ
1586・風揺らぎ凍蝶揺らぎままに立つ
1587・凍蝶を思ふがままに風の糸
1588・風の音に凍蝶しかと踏み留り
1589・彼此岸の何処に居るや冬の蝶
1590・人過り人の陣取る寒烏
1591・日溜りは福来雀の宿る所
1592・庭遊び弾めば逃げる寒雀
1593・冷たき空気吸う暖かき吐く
1594・風花やワンの鼻先来て止る
1595・(はまなす)の砂を払ひて実は甘く 夏

1月28日
1596・鉄板のシャトー人参うず高く
1597・店先に朝採り人参うず高く
1598・朝採れの人参シャトーグラッセに
1599・独り身の白菜半値腕を組む
1600・金柑にお茶は人肌甘煮かな 秋
1601・網焼きの味噌一文字は芳しく
1602・一文字を刻めば止る青さまで
1603・薄切の仄と紅染む蕪かな

2月・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2月4日
1604・豆撒きやものぐさどもは藪の中
1605・鬼は外生き物すべて寂しかり
1606・下界寒ぶゆるくなりしや鬼出づる
1607・追ひやられ冥い枯野に鬼いたり
1608・待ち人は枯野の宿に踵向け
1609・風荒ぶ衝立なきや枯野人
1610・吹き荒ぶ風に起き伏す枯芒
1611・吹きざらし0番ホーム冬の海
1612・姦しき二月礼者の甦り
1613・銀の竹溶けゆく水の流かな
1614・満る日や解けし滝の大氷柱
1615・背を屈め風に超された凍つる道
1616・窓越しの音なき音や銀の竹
1617・仏の手氷柱の雫受け流し
1618・off すれば長き口笛隙間風
1619・波形に風の悪戯凍つる雪
1620・襟を立て風に向いし街灯下
1621・鈍色の重く湧き立つ冬の波
1622・月光の音なく流る冬の滝
1623・真に見たるモノクロームの冬の海
1624・たたなづく砂を噛み来る冬の波
1625・砂を噛む北オホーツク冬の波 
1626・又忘る冬菜朝漬け食みながら
1627・合掌しポンと割れたる寒卵
1628・着ぶくれて又一段と鈍くなり
1629・分け入る前から絡む冬草
1630・吾此処に日陰の氷柱生き生きと
1631・足元に纏はりつきし枯る名草

2月5日
1632・打忍ぶ五穀豊穣春の雪
1633・操縦桿離れ飛立つ春の空
1634・陽に目覚め春芳しき畳立つ
1635・遠妻や出稼ぎ列車上野駅
1636・初物は新海苔一帖奮発す
1637・すが漏やくづほる貸家そこかしこ
1638・鬼いたり枯野布団に薪枕

2月7日
1639・新聞にコーヒー零す寒机
1640・目覚むれば一夜春雪名残なく
1641・春に雪重くベンチに降り積みぬ
1642・恵む手は春の零雨に濡れ細り
1643・春の雪消えて流るる水重く
1644・一夜にて移りし春の雪模様

2月8日
1645・悴みて紐解く手元息をかけ
1646・悴みて靴ひも結ぶ感はなく
1647・すが漏の末枯る飯場に飯を炊く
1648・冬寂びて綻びかける朝かな
1649・春立つや寂る古屋に細々と

2月13日
1650・租界かrモノクロームの地虫出る
1651・風は凪ともし火消えて春に入る
1652・のったりと春を探しに舟に乗る
1653・手袋は左右ポケット一手づつ
1654・道逸(そ)れて轍のままに野水仙
1655・一輪の浄机に置かる黄水仙
     黄水仙花言葉・私のもとへ帰って 
     全般・うぬぼれ、自己愛(英語名narcissus)
1656・末枯るる深い轍は人里へ 秋
     末枯る(うらがる)・秋  (すがる)・衰える
1657・お先にと鉄路横切る春一番
1658・新幹線時空を越えて春に入る
1659・人里を抜けて疾風(はやて)は春野駆け
1660・開く毎待合室に春の風
1661・向うからほころぶ顔が春連れて
1662・足音は待人着たり春連れて
1663・瀬戸内の春の香誘ふ海の幸
1664・扉から入る春風電車行く
1665・駅毎に春風連れて扉から
1666・春の風呉線ゆらり風早し (呉線風早駅)
1667・通過待ち瀬戸内電車日向ぼこ
1668・帰路電車三両ゆるり春日染む
1669・帰途に就く一言ありし金盞花
     金盞花花言葉・別れの悲しみ
1670・東風吹かば電車三両鉄路鳴く
1671・菊菜茹で香りも味も満喫す
1672・LoveからLoveをバレンタインの日
1673・春立や花街烏二羽三羽
1674・しら梅の届かぬ先の下枝(しづえ)かな
     白梅(はくばい)  上枝(ほつえ) 中枝(なからえ)
1675・手水場に梅の香ありて窓少し
1676・雨誘ふ梅かんばせに紅染むる
1677・小箱からバレンタインのチョコハート

2月14日
1678・小箱からかそけき音色エリカ咲く
     エリカ・休息

2月23日
1679・サーファーの表裏一体波の中 夏
1680・彼岸まで此岸の部屋は懺悔室
1681・香立ちて仰ぐ切土に梅枝垂れ
1682・乗り越して帰りはしかと春電車
1683・浅き春今宵は主の腕の中
1684・夜にこめて句作三昧春の夢
1685・梅の月膳に凭れる大戸人  大戸(たいこ・超大酒のみ)
1686・夜一夜春の小話痺れけり 夜一夜(よっぴいて)
1687・雪汁や流るる先の潦 (にわたずみ・水たまり)
1688・春一番老残細く杭となり
1689・老残の杭打つ槌に春一番
1690・杭を持て老残此処に春一番
1691・油断して紐を解きし余寒かな
1692・春の雨電車冷たき水飛沫
1693・春の雨未だ冷たき電車来る
1694・春の雨冷たく落ちるマンホール
1695・仮縫ひの待ち針落ちし春の宵
1696・薄氷新橋界隈潦 (うすらい・うすごおり)
1697・春は春と言はれないと困る春

2月27日
1698・それぞれの余暇人暮し日向ぼこ
1699・筆止めしスノードロップ花言葉
1700・一束の菜花括りし輪ゴムかな
1701・冴返る握る馬券はほろほろと
1702・身を晒し馬券ほろりと春の風
1703・寒戻り帽子目深に競馬見る
1704・注文は鍋焼うどん寒戻り
1705・葱坊主右へ倣えと風が言ふ
1706・葱坊主風に晒されつんと佇ち
1707・ああ寒い嚏一発寒戻り

3月・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

3月1日
1708・裏戸開きかっぱと起きる春の夢
1709・文受けに春の雨さす女文字
1710・濡れしまま携帯電話春の雨
1711・春雨はスマホの文字も濡れ溶かす
1712・梅の香や訪ふ宿の伝ひ道 おとなう
1713・梅の香は主が為の道標
1714・埋火を火箸で選りて煙草吸ふ 冬
1715・所用済み傍に引き寄す春火鉢
1716・猫の恋子には喧嘩と言ひ含め
1717・岡惚れて纏はりつくや猫の恋
1718・桃の日や男所帯に金平糖
1719・橋の下猫の子入れた蜜柑箱
1720・連れ連れに望み白鳥春の空
1721・寒戻り癒へつ右足また疼く
1722・寒戻り雨にも負けて縮こまり

3月3日
1723・桃の日や男子禁制百話し
1724・風呂沸かす時間短縮水温む
1725・0番線鳴くや鶯片切符
1726・延びてなほ上枝に飾る梅の花 ほつえ
1727・手折りたく触れつ紅梅華やぎて
1728・何処より嘆く鶯恋の声
1729・ぽつねんと座る東屋風薫る 夏
1730・匠なす温む水切りしなやかに
1731・春の園春の笑顔に迎へられ
1732・道なりに春の園行く影を追ひ

3月6日
1733・淀もなく竹の秋風獣道
1734・寝ていてもアスパラガスはツンとして
1735・走り根を避けて雪解の影法師
1736・上がり根を避けて雪解の車椅子
1737・走り根に足蹴にされし雪解道
1738・走り根の掴む漆黒雪解虚
1739・荷を下ろし又荷を下ろす春時雨
1740・荷を解き探しに出づる春の雨
1741・凍て返り箪笥に乗せた衣着る

3月10日
1742・車窓打つ通勤快速春時雨
1743・消ゆるまで思ひ巡らす春の雪
1744・袋から春子取り出す厨かな 春子・春椎茸
 

1745・紅葉持て縷々と流るる竜田川
1746・竜田川紅葉筏の流るるを
1747・紅葉引き縷々と流るる川遊び
1748・降る紅葉筏となりて流れけり  
1749・大紅葉嵩む筏の留まりて 嵩む・かさむ

3月17日
1750・春寒く吐息に曇るスマホかな
1751・春の雨吐息に曇るスマホ打つ
1752・飛鳥山都電ゆらりと花見酒
1753・大いなる飛鳥山から香を聞く
1754・枯れ池に身を乗り出して亀が鳴く
1755・亀鳴くや映る
水面に身をさらし
1756・両の手で触れて確かむ木の芽かな
1757・鈴鳴いて蛇の目傘行く木の芽雨
1758・木の芽雨濡れた蹴出しの絡みつく
1759・街抜けて芽吹き柳に見送られ
1760・立札に念仏池と亀が鳴く
1761・小糠雨芽吹きの山にけぶるかな
1762・角を立て木の芽風吹く上枝まで
1763・賜りし一芽木の芽に被く雨 かづく
1764・木の芽雨街へと繋ぐ六本木
1765・置き去りのふらここ揺れて誰を待つ
1766・芽吹く花は童織りなす祈りの手
1767・花蕾仄と紅染む小糠雨
1768・樹皮といふ壁から出でし花蕾
1769・弾けんと花の蕾は梢まで
1770・常しへに花惜しげなく芽出たさよ
1771・喬木の小枝吐き出し木の芽出づ
1772・ふらここの風は前から後ろから
1773・垂る秋千コア迄繋ぐ糸ありや
1774・海に出て折り重なりし花の波

3月19日
1775・海に出で連なる波に花帰る
1776・八重波に寄せては帰る桜花
1777・波に乗り海境越へて帰り花 海境・うなさか
1778・春分の追分悩む旧街道
1779・彼岸前人目気にせず烏鳴く

3月20日
1780・空乱れ花の芽固く閉ざしけり
1781・降り暮らす逢瀬の宿の花の雨
1782・降り濡つ紅い蹴出しは桜雨 濡つ そぼつ
1783・花の雲早く散れよと天つ風

3月28日
1784・会ふ毎に身内少なく彼岸かな
1785・雨弛む彼岸参りの道すがら
1786・風優し彼岸参りの帰り道
1787・程々に交わす近況彼岸かな
1788・一車両トンネル抜けて花に入る
1789・山裾を動く電車は花に化し
1790・風惑ひ花の梢に止まり消え
1791・花零し電車はゆらり鉄路行く
1792・瀬戸内の見えぬ海面春の雨
1793・車窓から山の果てまで花曇り
1794・花曇り瀬戸内被ふ海の幸
1795・春眠や鉄路継ぎ目の音に覚む
1796・山烟る車窓流るる桜雨
1797・車窓から烟る山見ゆ春の雨

3月29日
1798・風迷ひ花の梢に来ては消え
1799・花衣梢に掛けた風土産
1800・花衣梢に掛けて風遊び

4月 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

4月1日
1801・風惑ひ花の梢に来て止る
1802・静かさや亀鳴く池と立札に
1803・この月は月も霞し桜かな
1804・思ふまま広がり尽くす桜かな
1805・外に出でよ花満開の風祭り とにいでよ
1806・一絞り由々しき雨に桜落つ

4月3日
1807・衣手に花を招きつつ風遊び  招き をきつつ
1808・花の雲踵を返す名残り道
1809・雨烟る互ひの花の溶け合ひし
1810・微睡は風の戯れ花の道
1811・袖触るるそぼるる蝶の香り立ち
1812・身辺りにそぼるる蝶を相手して
1813・目で追ひし届かぬ先の戯る蝶  戯る そぼる
1814・戯る蝶届かぬ先を目で追ひし
1815・小道から広がる先の野に遊ぶ

4月5日
1816・桜狩りだらだら坂の苦行から
1817・花の木に凭れて翳す江戸切子  翳す かざす
1818・草臥れて桜流しは傘重く
1819・花を愛で坂を下りつつ帰路につく
1820・奥座敷帯解くほどに花零る
1821・草臥れて電車乗り越す桜雨

4月6日
1822・花巡り足軽やかにワルツ聞く
1823・花人に目線を外し独り占め
1824・花人を横目に急くや伝言板
1825・大いなる花緞帳に身を沈め
1826・あえかなる紅染む花を夢に追ひ

4月10日
1827・月隠れ忍ぶ吐息や花の宿
1828・月ありて風も借景花の宿
1829・青饅を左党の小鉢たんと入れ あおぬた
1830・盛箸で揃ふ小鉢に青膾 あおなます
1831・ほつほつと膨らむ花の咲き初むる
1832・雨止んでかの地に染まる花の塵

4月13日
1833・青饅を揃ふ小鉢にたんと盛り
1834・塵といふ待合室の花を掃き
1835・花を連れ待合室の塵を掃く
1836・花の塵待合室に誰運ぶ
1837・何処より待合室に花の塵
1838・花巡りだらだら坂を休みつつ
1839・来し方を振り向き見れば花の塵
1840・留まりし梢の花の降り遅れ
1841・降り迷ふ梢の花に風誘ひ
1842・花消えて蕊降る路地の朝かな

4月17日
1843・抑へつつ帽子目深に春疾風
1844・高層に春の埃を巻き上げし
1845・
春疾風曲がらぬ先の留め石
1846・戯れに透かす目隠し風光る
1847・店先の座りの悪い栄螺買ふ
1848・栄螺持て残酷焼や気合い入れ
1849・壷焼きや覗く口元醤油まだ
1850・壷焼きや動かざること網の上
1851・磯の香や箸染み渡る栄螺焼
1852・散り収む弥生半ばの小糠雨
1853・永き日や物見遊山の疲れ道 ものみゆさん
1854・永き日や標の先の散歩道
1855・暮遅く電飾映ゆるは今少し
1856・たたなづく連山仰ぐ山葵沢
1857・踏み入るはたゆたふ水の山葵田へ
1858・ほろほろと水音に繋ぐ山葵沢
1859・土産屋に風を取り交ぜ山葵漬
1860・背を向けた喇叭水仙抜かれけり
1861・ミニ公園春の日影は通り過ぎ
1862・春愁や冷めた紅茶の紅の跡
1863・芽出度さは桜湯共に享受して
1864・春の宵暖簾を押して小半時
1865・春の宵連れ立つ輩祝い酒
1866・それぞれの足向く先の春灯

4月19日
1867・メール待つ冷めたコーヒー夜半の春
1868・春暁のコーヒーカップ乱れおり
1869・春灯火なぞるスマホの指の腹
1870・窓を向く喇叭水仙水を遣る やる
1871・日は東朝寝朝酒日は沈む
1872・馬群より出でて的を射る春の海
1873・春の暮風招く袖をつくろひて
1874・海胆動くそれが面と見つけたり
1875・芳しき真白ひ独活を切り揃へ
1876・山独活を切りては水に解き放ち
1877・しゃぼん玉大きな小さな虹を見せ
1878・鞦韆やここから見ゆる松の島
1879・てんてんとつけばシワ寄る紙風船

4月20日
1880・歯に優し少し多めに若布汁
1881・飯蛸や酒たっぷりの柔らか煮
1882・爪紅で慈姑煎餅香ばしく くわい

4月25日
1883・春の暮はじける猫の貌の傷
1884・暮の春猫ゆったりと猫の道
1885・歯に優し若布多めの朝餉かな
1886・飯蛸を酒をたっぷり柔らか煮
1887・香ばしき慈姑煎餅おやつどき くわい
1888・春の暮紫煙に癒す場を求め
1889・行く春や日向の酒も陰を追ふ

4月29日
1890・行く春や消えゆく雪の富士の山
1891・行く春や高嶺の雪を崩しつつ
1892・行く春や鎮座まします富士の山
1893・春風や木立を抜けて富士麓 ふもと
1894・雲上の富士の面に春日かな
1895・木立抜け春日を浴びし富士の山
1896・春雲のまつわりつきし富士の山
1897・富士仰ぎとんぼ返りの春一日
1898・春の風轍のままに富士向かふ

4月30日
1899・お湿りや芽吹き柳に風重く
1900・立濡れて千手の柳雫落つ

5月 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

5月3日
1901・恵みあれ若葉を伝ふ雨雫
1902・葉桜の重なる闇も日毎濃く
1903・葉桜の葉は重なりつ闇を増し
1904・見返りの黒髪そよと若葉風
1905・
頃合ひや湯がく筍竹の串
1906・おひつから筍飯や月の宿
1907・三つ四つ雨に濡れ落つ躑躅かな
1908・濡れ落ちて躑躅色褪む潦 にわたずみ
1909・姿見のショーウィンドウに街薄暑
1910・樹に凭れ襟元緩め街薄暑
1911・帯軽く古街通り夏に入る
1912・葉柳の古街通り下駄の音

5月4日
1913・月影の絡む素足に薄衣
1914・薄絹の素足に絡む灯火下
1915・糸柳ありなし風に触ればひて
1916・吹き戻し柳の触手肩に触る
1917・大海月月蒼くして柳かな
1918・街灯にふはりと浮かぶ柳かな
1919・下々の及ばぬ先の夏断ちかな げだち

5月5日
1920・長襦袢干されてなびく吹き流し
1921・蕗味噌を箸先絡め旨し酒
1922・小鉢には刻み蕗の葉甘辛煮
1923・両の手で枝垂れ柳の暖簾分け

5月9日
1924・虹鱒のしなりて掛かる竹の竿
1925・ぐんと引き踊る虹鱒釣り落し
1926・虹鱒を焼きし鉄板バター風
1927・水うねり掛かる虹鱒竿の先
1928・虹鱒や釣り針深くいかにせむ
1929・烏賊釣って入れる釣り箱酒醤油

5月12日
1930・当たり無きウグイ渦中に糸垂らし
1931.風薫る契りの社笙の笛
1932・お湿りや契り社に青時雨

5月22日
1933・翳す手に衣の風吹く夏の空 かざす
1934・夏そこにウインドショップ軽やかに
1935・深さ益すそぼふる雨の木下闇
1936・青時雨傘の参道杜深き
1937・夏浅き佇ちて参道風を聞く
1938・月忍び一人一枚夏蒲団
1939・抜け殻の今宵はいらぬ竹婦人
1940・月影に風の音を聞く夏館
1941・洗鯛ガラス器に弾けんと
1942・器まで冷たき鯉の洗ひかな
1943・隙間あり柳川鍋に牛蒡たし
1944・夏浅し鼻の湿りもほどほどに
1945・夏蒲団掛けてはみ出す両手足
1946・夏の灯の見えなくなりし隠れ宿
1947・姉妹の苺ミルクは等分に おとといの兄弟・姉妹
1948・大人にはレモンスカッシュジン少し
1949・顔隠るレモンスカッシュ子供椅子
1950・姿見にしばし身を置く更衣
1951・箸笑ふ小鉢に咲きし鯛膾
1952・沖膾クーラーボックス食台に
1953・母の日や老息背には力なし
1954・父の日や碁会所覗く愚息かな
1955・黒一条押麦飯の馳走かな
1956・麦飯の口に重たき喉に入る
1957・麦飯に白米少し口優し
1958・青時雨草道続く厠まで
1959・厠には柏落葉の箱にいて

5月24日
1960・杉落葉閑散として離れまで
1961・杉落葉足跡無きや仮の宿
1962・蝦蛄茹でて皿にはみ出す二三匹
1963・茹で上げの皿に溢れし蝦蛄踊り
1964・鋏持ち茹で蝦蛄端を切り落とし
1965・蝦蛄の爪此処が甘露と人の言ふ
1966・香ばしきお櫃豆飯緑散る
1967・豆飯や染み入る蓋の芳しく
1968・烏賊干して海の音聞く飯場かな
1969・海の音にラヂオ霞みし飯場かな
1970・海は凪鱚釣り舟の紫煙かな
1971・薔薇の香を袂に入れて手を振れば
1972・振り解く薔薇の棘には返しなく
1973・一二片薔薇の名残りを栞とし
1974・ほろほろと穴子一本穴子飯
1975・両の手に穴子弁

5月27日
1976・走り梅雨物干し竿は平行線
1977・ダービーに一喜一憂贔屓馬
1978・ダービーの歓喜落胆ゴール過ぐ
1979・古の新橋界隈流し聞く 古いにしへ
1980・身繕ふ流しの師匠ガード下
1981・流し聞き余韻に浸る微酔かな
1982・二階からお呼び掛かりし流しかな
1983・幾年や終の棲家に五月照る 幾年いくとせ
1984・道行かば人に越されて五月果つ
1985・髪を梳く梢に沿ひし恋ボート

1986・灼くる浜幾年閉じし番屋かな
1987・灼くる砂番屋を埋ずめ海向かふ
1988・落葉松の林を抜けて避暑の湖 落葉松からまつ 湖うみ
1989・不揃ひの靴の出で入るバンガロー 

5月28日
1990・降り止まぬ相模の海や虎が雨 旧5月28日
1991・西日さす開いた避暑地の管理室

5月30日
1992・水鳥の水尾重なりつ夏の湖
1993・心太箸に掛かかりし暖簾かな のれん ところてん
1994・冷奴艶ある物を崩す匙 さじ
1995・噴水や上がれば絞る水遊び
1996・噴水や上がり下がりの離れ業
1997・波紋無く止る噴水淋しかり
1998・噴水の連なる水を水が受け
1999・冷素麺箸に絡まる細き艶

 *御目出度うございます。2000句です。
2000・淡々と安寧繋ぐ夏の朝

6月 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


6月3日
2001・螢火を求め瀬音に近づきぬ
2002・枝折戸を開けて待ち侘ぶ走り梅雨
2003・あやかなる光を揺らし螢飛ぶ
2004・寄れば散る辞すれば集ふ螢かな
2005・月影に遊びし螢衣手に
2006・衣手に螢遊びし月が影
2007・月影に螢遊びしかくれんぼ
2008・月影に遊ぶ蛍は衣手に
2009・蛍の夜それは大人のかくれんぼ
2010・螢火の連れ連れなすやネオン管
2011・穴倉の酒場を辿り冷酒酌む
2012・染み入るや五臓六腑に冷し酒
2013・雨に濡れ日毎粧ふ七変化
2014・長雨に色絶え絶えの四葩かな
2015・風薫る野辺に置かれし長き椅子
2016・喬木の影に長椅子昼寝かな

6月8日
2017・足鈍く先行く肩に青時雨
2018・鳥居から青葉時雨の社ksな
2019・短夜や遊ぶ句作はスマホから 遊ぶ・すさぶ 日永・短夜・夜長・短日
2020・額の花風の揺らぎを真に受けて
2021・ぽんぽんと弾む小路や手毬花
2022・手毬花日毎夜毎に萎みゆく
2023・もう六月まだ六月と独居言 ひとりごと
2024・六月やままに生きても風に問ふ

6月10日
2025・蝶らしき花弁補ふ額の花
2026・ざわめきは千々に乱れるる青嵐
2027・火事に急く火消し輩は汗を切る
2028・明け易し思考回路は定まらず

6月17日
2029・赤錆の鎌で草刈る石も刈る
2030・草刈れば重き日影に草へたれ
2031・朝草刈るる斑小庭の小市民 まだら
2032・栓抜いて海に乾杯コカコーラ
2033・気分良く回り道してコーラ飲む
2034・茗荷の子刻む包丁香を弾く
2035・茗荷汁掬ふお玉の古されて
2036・茗荷の子一夜味噌漬け朝餉かな
2037・茗荷の子ほろり籠から滑り落つ

6月19日
2038・閂を抜きし吉報走り梅雨
2039・夏時雨開かぬ閂濡れそぼつ
2040・間垣打つ恵の音や走り梅雨
2041・さみだるるだらだら坂をとろとろと
2042・濁り文字五月雨髪の置き場無く
2043・物憂げに衣引き張る五月雨
2044・五月雨やレインチェーンは大雫
2045・沁み入るや喬木伝ふ青時雨

6月23日
2046・ながし吹くホームベンチに紙袋
2047・山路来て足跡無きや竹落葉
2048・竹落葉掃く事も無き仮の宿
2049・敷き詰める山路は竹の落葉かなお
2050・箱電車曇る眼鏡や梅雨寒し
2051・仕事路をビルを伝ひてながし吹く
2052・ながし吹く景帝姉妹事後の事
2053・ながし吹くプラットホームは通過駅
2054・軒先に青唐辛括られて
2055・梅雨の夜やレインチェーンは水を吐露し
2056・茎摘まみ御手に紅染むさくらんぼ 御手おて
2057・店先の紅宝石やプチトマト
2058・空梅雨やなすべき事の遅遅として
2059・葉を揃へ紫蘇置く労に感謝しつ
2060・桜桃の遠慮一粒寂しかり
2061・紫蘇の葉の千切り香る厨かな
2062・食細く小鉢にそっと胡瓜もみ
2063・梅雨晴れやユトリロの壁白深し

6月24日
2064・青梅を後生大事にシロップ煮
2065・空梅雨や走れば軋む箱電車
2066・梅雨晴れやミニ旅誘ふ箱電車
2067・高架下片蔭掛かる箱電車

6月28日
2068・梅雨空や時速一里の縄電車
2069・梅雨曇りだらだら坂に分け入りぬ
2070・停車中一人片蔭縄電車
2071・たぷたぷの木耳膳にひそ話し
2072・梅雨晴れて傘満開の日に照らし
2073・非力なる放つ草矢の届かざる
2074・飛び翔ける行方定めし草矢選る
2075・釣堀の縁無し釣果黄昏れて
2076・乱衣に紅爪先の素足伸ぶ
2077・泥水を拉く素足は何探す
2078・籐椅子の揺れて微睡む風誘ふ
2079・金魚玉三畳一間を大きくす
2080・富士揺れて潮のアロマや船料理
2081・街の灯も月も華やぐ夏衣
2082・葉柳の揺れて葉先はあちこちに

6月29日
2083・雨音に消えし囁き夏の暮
2084・夏衣歩くこのまま雨しとど
2085・風誘ひ夏の衣をすり抜けて
2086・垂れ髪のまとはり付くや夏衣
2087・垂れ髪を触れてなつぎぬ風巡り
2088・手遊びに絡める髪や夏落葉
2089・鬢批を指に絡める秋の暮 鬢批びんそぎ 髪削ぎ かみそぎ

6月30日
2090・青時雨消えて囁き褥かな 褥しとね
2091・古池や架かる月橋若葉吹く
2092・若葉吹く記憶の箱の散歩道
2093・新樹蔭手探り道に分け入りぬ
2094・夏落葉届かぬ先のガラス塀
2095・若葉揺る迷へる道に道標
2096・建具引き瀬戸の風入る夏座敷
2097・風明かり奥まで入るや夏座敷
2098・郷の文字したため共に枇杷つぶて
2099・ショーケース老舗パーラーバナナ買ふ
2100・引きずりし買い物キャリー鳳梨買ふ

7月 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

7月3日

2101・梅雨空や三点歩行傘を突く
2102・天つ水流に拾ふ夏落葉

7月7日
2103・押せば開く傘さす梅雨の重さかな
2104・押し開き傘をかしげる夏の雨
2105・梅雨曇り見直す壁の時刻表
2106・卓の上に絡み素麺夫婦箸
2107・柔らかき礫を掬ふ冷奴 礫つぶて
2108・酒脇に今日の主役は冷奴
2109・冷酒酌む蛇の目の紺は二回り
2110・五月雨を摘まんでみるや竜田川
2111・見上げ坂歩幅は狭く汗あつく
2112・見上げれば茂る大樹は坂の上
2113・一歩づつ滴る汗の歪み坂 歪み ゆがみ
2114・地に染みる滴る汗の弛み坂 弛み たるみ
2115・岩肌に顔を付け滴りを受く
2116・草むらに置いてきぼりの赤い靴
2117・草むらや人無き所地べた這ふ
2118・風運ぶ種の置き所草萌ゆる 春
2119・無宿草風にさらされ夏日射す
2120・かささぎの届かぬ背なに雨しきり 秋

7月8日
2121・雷に叩かれ心棒揺らぎけり
2122・神鳴りや大蛇の舌を奉る 大蛇おろち 奉る たてまつる
2123・雷土や雲上人の道標 いかづち
2124・一絞り雨を落として送り梅雨
2125・雷落ちて時空を壊す悉く 悉くことごとく
2126・重層の雲から出づる御雷光

7月12日
2127・送り梅雨木蔭に忘る傘袋
2128・どっと降る勝鬨負けじ送り梅雨
2129・街巡りレインカーテンいと涼し
2130・風押して百合の香絡むこてふかな
2131・静かさや涼む夕べの独り言

7月13日
2132・岩が根に立つ一本松の涼し
2133・天地人曇天深く夏の息
2134・寝ねがての窓に手を遣る夏の夜話  遣る やる
2135・らしき人揺らぎ近づく涼み傘
2136・紅唇を少し抑へて涼み傘
2137・一人芸垂水の汗や弾けんと
2138・悪戯に止める指先走馬灯

7月17日
2139・夏の湖月見る月を波が消し
2140・滝の音の遠くになりて寝ねにけり
2141・頑張らない汗やじっとり背なに追ふ
2142・汗拭きつ二足歩行や老散歩
2143・網戸抜け繋ぎし風は奥座敷
2144・老散歩ハンケチ二枚ポケットに
2145・ほろ酔ひのハンカチ咥へ探す鍵

7月20日
2146・日は天に猫も杓子も夏は来ぬ
2147・訪ひの先ずは挨拶暑いから
2148・梅雨明けて何気に探す傘袋
2149・炎昼やだらだら坂は湯気が立つ
2150・干草や天日に溶ける老ひの骨
2151・炎ゆる日を払いのけたし庭箒
2152・待ち人はネオンに映ゆる夏衣
2153・体揺らぎだらだら坂は灼くる土
2154・たまゆらの風に遊びし夏衣
2155・まどろみは鼻をくすぐる夏衣
2156・暑さ増すビルの間の室外機

7月24日
2157・ゼラチンの空気に惑ふ大暑かな
2158・背は暑く座席そのまま逃げ場なく
2159・高原のミントジュレップテラスにて
2160・涼み傘香りを残し通り過ぐ
2161・道なりに片蔭探し傘を追ふ
2162・近づきぬ見えぬ顔涼み傘 顔かんばせ
2163・木立から木立へ繋ぐ日傘かな
2164・通り過ぐ日傘の影を目に追ひし
2165・暑き日や籠る三畳小市民
2166・草臥れて肩から抜ける白き服 草臥れ くたびれ
2167・にき肌に切れし糸玉夏の雨
2168・交叉点人影揺らぐ極暑かな
2169・ショーウィンドウに映る夏の日が射す
2170・非力なる両手でもたげビール飲む
2171・楊枝立て泡美しきビールかな
2172・上り詰め擂鉢球場ビール飲む 擂鉢すりばち

7月27日
2173・はれものに触れるもの皆極暑かな
2174・ゼラチンの空気に止まる夏の蝶
2175・草臥れし花に如雨露の雨を遣る
2176・草臥れた如雨露から不揃ひの雨
2177・古道来て憑くもの捨つるシャワーかな
2178・冷蔵庫開けて清水がぶ飲みす 清水せいすい
2179・爪先の素足パンプスティータイム
2180・夏衣梢に掛けて風を読む
2181・花衣梢に掛けて風を聞く 春
2182・滾々と溢るる噴井クリスタル 噴井ふくい
2183・とっぷりと暮れて月見る隠し事 秋
2184・草むらの草を結びし草は今

7月30日
2185・路地裏の熱風溜まり夏の月
2186・驟雨去り置いてきぼりの女傘
2187・日盛りや忘れ去られし女傘
2188・箱電車降りた傍から夏の空
2189・街中を極暑にゆれる箱電車
2190・通り雨香水の街シェークする
2191・店はねて香水溶ける雨ざんざん
2192・くすぐりし香水女の風衣
2193・夏の夜の月を追ひやる
風衣
2194・寄れば寄る土塀に映る夏の影
2195・通り雨去って虹見るガード下
2196・グレープフルーツ切りほとばしる果汁
2197・爪立てて剥く芳しき夏蜜柑
2198・人ゆるむ三伏の街逆光にあり
2199・ふり絞り大暑の朝餉箸を取る
2200・一区画草いきれの前を歩く

8月・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

8月3日
2201・瀬戸内の風に委ねし端居かな
2202・足許に猫の戯る夕端居 戯れる たわむれる
2203・足許を湖面に濡らし涼みをり

2204・足許を湖水に沈め夏の星
2205・一時の気休めならん水を打つ ならん・だろふ
2206・縁側に咥え煙草の夕涼み
2207・水撒きや曇る眼鏡に空の桶
2208・夏帽子スマホを覗くお下げ髪
2209・照り返す力も無きや夏の草
2210・追ひ遣られビルの外れの夏の草
2211・忘らるる鉄柵囲む夏の草
2212・夏草を囲む鉄柵錆匂ふ

8月7日
2213・欄干に凭れ人待つ夕涼み  
2214・ホーム過ぐ快速電車油照り
2215・製氷の角も取れ七月が去る
2216・製氷機の音一段と八月
2217・素麺のたれ落つ箸袋に
2218.箸絡め素麺伸びる話し事
2219・香止めて使ひしままの扇置く
2220・風薫る隣の女の扇から
2221・そろそろと開く絵模様扇子かな
2222・御大臣人の風呼ぶ団扇かな
2223・団扇もて楊枝槍にて戦わん 酔狂
2224・思ひ馳せ眠れぬ夜や走馬灯
2225・雨に濡れ落つる病葉上枝から 上枝ほつえ
2226・人知れず病葉落つる梢から
2227・店はねて酒香の街や夜半の夏

8月9日
2228・日は天に未だ居座る今日の秋
2229・夏の夕足向くままの軽きこと
2230・雨引いて誘ふ風来る夜の秋
2231・音に和す鉄道信号夜の秋
2232・竹に結びし願の糸が解け
2233・背を向けて願の糸を固結び
  蝉で六句
2234・垣根から轟く蝉の見えぬ声
2235・死に際の蝉一頭や地べた背に
2236・死に際の声轟くや蝉一頭
2237・腹を上に蝉一頭の軽さかな
2238・風運ぶ腹を上にし蝉一頭
2239・身を宿し永遠へ連なる蝉閑か

8月11日
2240・軒先の遣らずの雨の女郎花 おみなえし
2241・坂辿り白い夏の海を臨む
2242・夏の海波穏やか砂を洗ふ
2243・風衣に誘われ開く秋の窓
2244・窓掛けの少し膨らむ秋の風
2245・窓掛けの揺れて秋の香訪れし
2246,風衣に押され秋の扉が開く

8月14日
2247・祝酒老々介護生身魂
2248・付添ひも残暑厳しき老介護
2249・盆礼やこの世の人の在所まで
2250・迎火や今年は永く灯さぬと
2251・迎火や彷徨人の道標 彷徨う・さまよう 
2252・作りつつ何時かは通る盆の路
2253・草臥れて盆路作りままで待つ

8月16日
2254・魂祭風の苛めに間に合わず たままつり、いじめ
2255・腰を手に盆路払ふ古箒
2256・生き止まり病葉散るや梢から 夏
2257・一筆の風の悪戯落葉道 冬
2258・梢から切れて流離ふ枯葉かな 冬 さすらう
2259・乾き果て揺れて巻き文落葉かな 冬
2260・立濡れてだらだら坂に枯葉降る 冬
2261・濡れ落葉滑る坂道千鳥足 冬 滑る ぬめる
2262・空棚の位牌の跡をなぞりけり
2263・出でたるも颱風に負け暖簾置く
2264・じり暑や電線掴む枯雀

8月20日
2265・盆帰り郷への土産たんと持ち
2266・新盆やお土産たんと鞄中
2267・盆路や身罷る人の散歩道 身罷る みまかる
2268・病葉のただただ散るや昨日より
2269・新盆や二人の遺影睦まじく むつまじく
2270・盆棚は仲睦まじき夫婦棚
2271・唱経の呼べば答える盆の風
2272・新盆や長押の遺影二枚増え 長押なげし
2273・瀬戸内の風の音擦れ末枯木
2274・末枯の枝に触れ行く電車路
2275・盆帰り時速200で遠ざかる

8月24日
2276・夢枕音無き滝の水くくる 夏
2277・枕絵の音無き滝の水括る 無季
2278・襖絵の音無き滝の水括る 冬
2279・秋の夜の模索にふける以後の事
2280・耳鳴りや虫の音色に聞きたがふ

8月28日
2281・振り払ふ入れし袂の虫の声
2282・潦避けて近づく虫の声  にわたずみ
2283・歩むほど声七変化虫の道
2284・風遊び忘れ去られし花衣 ・春
2285・衣はだけ虫の声聞く灯火下
2286・打ち捨てし衣の波に虫宿る
2287・虫の音やみちのくなまり藪の中
2288・何処からこぼるる虫の寝音聞く
2289・薄窓は零れる虫の寝音かな
2290・二百十日を目指して来る雨風
2291・二百十日の曇天の空を見上ぐ

8月29日
2292・押し広げ虫の音包む袖を振る
2293・芳しき打ち振る袖の扇かな
2294・一時の風に乱れし虫の声
2295・衣擦れの虫の音閉ざす奥座敷
2296・帯解き閉ざす虫の音奥座敷

8月30日
2297・押し分けて濁水動く颶風かな ぐふう
2298・雨樋の溢れし滝の秋出水  あまどい
2299・重き引く野分居座る雨戸打つ
2300・秋出水だらだら坂に川流る

9月 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

9月2日
2301・末枯れの行き先定む夕間暮

2302・虫の音に今居る所気付かされ
2303・終活や模索にふける夜半の秋

2304・末枯れの行き着くところ目に追ひし
2305・濁水に押され喬木野分後
2306・文机雨夜初月灯火下
2307・雨戸から零れし灯火月の雨
2308・松のこゑ天のほころび二日月

9月10日
2309・待宵や濡れた袂を一絞り
2310・拭き清む十四夜月の姿見を
2311・待宵や吐息に曇る窓なぞり
2312・十日月吐息に曇る鏡拭く
2313・上り月湯舟にけむる隙間から
2314・秋の灯の隠る窓掛け揺れ遊び
2315・射る獲物兎や鼠月の弓
2316・何を獲ん弓張月の矢の行方
2317・風運ぶ月の桂をくぐり抜け
2318・捨てちまへ片割月の破れ鏡

9月18日
2319・名月やうから集ひて背影踏む うから・親族、身内
2320・名月や映る破鏡に崩れけり
2321・この日差し秋半ばと言ふは暦
2322・秋半ばといふ日差しに干されて
2323・夜の秋襟の疲れに風誘ふ
2324・ビル風を爽やかと思ふこのごろ
2325・廂間の先行く所月の面 面・おも
2326・不安げに事無き問ふや末枯るる
2327・こと切れて降る病葉や上枝から 上枝・ほずえ
2328・末枯れてだらだら坂は雨に濡る
2329・末枯るる庭を清めし庭帚 庭帚・にわぼうき
2330・末枯れを擦り減る皺で見上ぐれば
2331・月の雲仄と灯りを窓辺から
2332・願わくば月の明かりを雲間より
2334・くぐり抜け夏越の祓吉結ぶ 6月30日
2335・秋の風だらだら坂は逆流す
2336・伸び伸びと柳の枝先地に触るる
2337・月白や瀬戸の波の音分かるほど
2338・廂間を抜けて寄り道秋の風 廂間・ひあはい
2339・秋の風穴倉酒場辿り着き
2340・欄干に凭れし兎月を恋ふ
2341・古池や月見る月の雲に消え
2342・月今宵兎隠るる擬宝珠かな 擬宝珠・ぎぼし

9月19日
2343・濡れそぼる雨月の宵の街を抜け
2344・潦映る電飾雨月かな
2345・本命は何処に見える月の雨
2346・見えぬとも良き人募る雨月かな
2347・ほろほろと人の消え行く月の雨
2348・名月や非常扉をそっと開け
2349・主役抜け宴に興ず月の雨
2350・月の雨だらだら坂は変わり無く
2351・月の雨溢るる酒は微動だに
2352・月の雨レインチェーンは水を結ぶ
2353・月の雨レインチェーンは水音飛ぶ
2354・秋湿り路傍の草の根元まで

9月21日
2355・十六夜の濛雨に煙る木立かな
2356・十六夜や濛雨は軽く髪まとふ
2357・包まれし酒場の隅の女郎花  女郎花花言葉・約束を守る
2358・引き寄せて今宵十六夜影掃ふ 掃う・はらう
2359・此岸舟ためらひ月の霜渡す
2360・見上げれば今宵十六夜遠かりし
2361・居待月路傍の石の影移し
2362・影を追ふ立待月の交叉点
2363・三ノ輪まで月に魅入られ箱電車
2364・立ち隠る月ほろほろと木漏れけり
2365・繊繊の雲に隠れし寝待月 繊繊・せんせん
2366・プレゼント鞄忍ばせ居待月
2367・チェイサーの氷も溶けて居待月
2368・スマホ撮る立待月の揺らぎかな
2369・メール打つ冷めたコーヒー居待月
2370・スマホ鳴るグラスの水面居待月
2371・時刻む立待月の停車駅
2372・絞られてゆるりと開く雨後の月

9月23日
2373・微睡は兎鳴くまで寝待月 微睡・まどろみ
2374・衣手に光降るまで寝待月
2375・秋彼岸富士の高嶺に近づきぬ
2376・秋彼岸上るこの坂余命道
2377・灯す火の少し短く寝待月
2378・北窓の三畳一間臥待月 ・ふしまづき
2379・鶴を折る更待月の手慰み ・てなぐさみ
2380・手遊びに鶴折る秋の灯火下 ・てすさび

9月28日

2381・都会まで郷のの土産に稲穂刈る
2382・程合ひは仄と青みの稲を刈る
2383・豊穣の箱から出でし稲穂かな
2384・
豊穣の刈穂の箱を賜りぬ
2385・豊穣の倒れび稲穂波を打つ
2386・風抜けて撓る稲架掛け夕間暮れ 撓る・しなる
2387・豊穣の浅間の麓稲架を組む 麓・ふもと
2388・下り酒下弦の月もゆり揺られ
2389・風に月セカンドワルツ踊る宵
2390・広げ鈍く未だ働く秋扇 鈍く・にぶく
2391・乳母車靴っくは揺れる秋の風
2392・秋雨や帽子に隠す乱れ髪
2393・秋湿りエスカレーターベルトまで
2394・秋湿り来客座布団均しつつ 均す・ならす
2395・それぞれの木立に纏ふ秋の雨
2396・秋入梅肩にも馴染むランドセル 秋入梅・あきついり 馴染む・なじむ
2397・老木に此岸の水や秋入梅
2398・手水舎に風の悪戯秋の雨 手水舎・てみずや
2399・竹林の風ざわめいて月出でし
2400・大地から出でし風波竹の春


10月・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

10月5日
2401・
横町や浅草六区秋の雨
2402・爽やかに泡はビロード吾妻橋
2403・笹面の秋の村雨耐へ忍ぶ
2404・秋時雨打たれしままに笹の面
2405・笹むらの月の雫をたくはへし
2406・笹むらの秋雨かむり葉を繋ぐ
2407・梨剥いて坊んさんつむり出でにけり
2408・梨剥きつナイフを渡り落つる水
2409・剥く梨や転げて座る非力なり
2410・づっしりと梨の土産や二つ三つ
2411・梨剥けば皮に滴る甘き水
2412・濡れそぼつ風のざわめき竹の春
2413・凭れたき齢を宿す冬木立 冬
2414・虫の音やマナーモードをポケットに
2415・豊穣や温め酒を振る舞ひて
2416・今生のをみなに抱かるぬくめ酒
2417・文字追へば窓掛け忘る秋灯火
2418・ものぐさに灯火親しやメール打つ
2419・端濡れて秋の村雨二人傘
2420・天つ水秋の村雨衣打つ
2421・叶はざる百夜通ひの秋時雨
2422・頼り灯や釣瓶落しの迷ひ道
2423・湯おもてに笹舟浮かべぬくめ酒


10月13日
2424・湯おもてに浮かぶ笹舟うつる月
2425・とりとめもなきメール打つ長き夜
2426・メール打つ今日の偽り秋灯火
2427・無口なる雀は海に蛤に
2428・山沢の天使のはしご秋日差す 天使のはしご・光芒
2429・秋澄める木立輪郭梢まで
2430・冷やかや古木の梢葉のさすり
2431・秋気満喫格子戸に指を掛ける
2432・スマホから身に沁む憂き身話しかな
2433・秋晴れの電線すがる雀居て
2434・階下より秋の声聞く破れ簾 すだれ
2435・物憂げに見放す雲の秋の暮
2436・山路来て紅葉の橋を踏み渡る
2437・文箱に沙汰の便りや秋日差す
2438・文箱の秋の声なく下思ひ  下思い・秘かに待つ
2439・秋の声夕べに募る風仄か
2440・忘れ文字開くスマホや秋灯火
2441・風通ふ紅葉の路や踏み染むる
2442・風渡る紅葉の波を踏みしだく
2443・風通ふ紅葉の橋を通り過ぐ かよう

10月20日
2444・独り言指で文字追ふ秋灯火
2445・霞立つこの世見納め星流る
2446・息づけがようやく寒し道半ば
2447・時刻むあひなき音やうすら寒 あいなき・気に食わない
2448・散り散りの捨つる恋文十三夜
2449・窓が影訪ふ先の十三夜
2450・階下から届かぬ先の十三夜
2451・後の月卯立に隠る商家町
2452・衣擦れの付かず離れぬ十三夜
2453・欄干の影を織りなす十三夜
2454・うそ寒や暖簾に募る寂しがり
2455・隠し事スーパームーンさらけ出し
2456・乾杯やスーパームーンディスティラリー
2457・秋湿り枝垂れ柳は地に触るる
2458・秋雨を纏ひ枝垂るる柳かな
2459・濡れ纏ふ枝垂るる柳秋の暮
2460・天つ水枝垂れ柳に雨を遣る・・春
2461・秋の暮銀舎利二杯今日も生く
2462・長き夜の灯るそれぞれ窓明かり
2463・穴倉の暖簾に届く秋の風 
2464・ベクトルは秋風届く縄暖簾
2465・他愛なきメールに返す秋の暮
2466・姿見に選ぶ帯締め秋の暮

10月26日
2467・忍び事心置きなく神無月
2468・灯は線に釣瓶落しのコマ送り
2469・コマ送り釣瓶落しの車窓景
2470・秋の灯を消して外見る片面鏡
2471・秋灯消え片面鏡の窓が開く
2472・古の吾は山の子通草もぐ 通草・あけび
2473・径それて友の背を追ふ通草取り
2474・身は割れて取れたて通草かぶりつく
2475・俯瞰して細石なる神無月
2476・玉砂利の参道深く神無月
2477・秋日差す車窓の景が滑り出す
2478・ありなしや釣瓶落しに景忘る
2479・車窓から秋灯零し終着す
2480・車窓から零る秋灯風映す
2481・箱電車秋灯照らし鉄路踏む
2482・相席やそれもまた良しそぞろ寒

10月30日
2483・先ず一献今宵味はう今年酒
2484・選ぶ人選ばれる人暮の秋
2485・もう一枚掛け遣る寝具夜寒かな
2486・後を追ふ探す術無く秋の暮
2487・この日来て俄かに夜寒術も無し  俄に・にはかに
2488・速やかに人に紛れし秋の暮
2489・車窓には秋の夕べの吾がいて
2490・秋の暮人翻る顔がいて 翻る・ひるがえる
2491・花街や衣手招く秋の暮
2492・秋時雨だらだら坂を上りあぐ
2493・降りしきる猛し雨音長雨月  ながめづき
2494・開け入れる開かずの窓に秋の風
2495・ドアノブの開けば身に沁む風ころも 

10月31日
2496・柳散り向かふに見ゆる人合はせ
2497・塀の外月に隠れて柳散る
2498・背なに聞く野面揺らす降る木の実
2499・野面に見え無き風や木の実降る
2500・木の実降るおどろに乱る草の面に
     :御芽出度うございます。やっと、2500まで。

11月・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

11月4日
2501・天つ水風に召されて秋の雨
2502・天つ水風にさらはれ秋時雨
2503・雨がさす柳通りに柳散る
2504・踏みしだく雨の坂道柳散る
2505・濡れ細る雨の長月無縁坂
2506・水面までしなふ木末の柳散る  木末・こぬれ

11月5日
2507・やはらかき櫛欠け捨つる枯柳 冬
2508・梳り櫛欠けて捨つるや枯柳  けづりぐし
2509・ちぢれ散る柳微かに糸を引く 微かに・かすかに 
2510・風煽る右行く左枯柳
2511・枯柳スレて風無しあおり無し
2512・堆く柳散りおき風に散る
2513・身辺りに柳散る散る堆く

11月10日
2514・ごそこそと背中丸めてちゃんちゃんこ
2515・彩りに柿の白和へ酒肴
2516・柿なます一箸つけて又盃に
2517・奴さん遠目に見ゆる布子かな
2518・宅急便賑はひ柿の躍り出で
2519・箪笥から記憶の隅のちゃんちゃんこ
2520・柿食へば甘さの中に種がある
2521・刃を入れて種に掛かりし柿づくし
2522・仕事灯を残し高層冬立ちぬ
2523・古き家に撓む柿の木二三本  撓む・たわむ
2524・仕事灯の真夜忽然と影動き
2525・一人には広き古家に冬日さす
2526・枝振りは振る舞ひ柿の撓みかな
2527・地方紙に包まれ出でし柿を食ぶ

11月15日
2528・秋暮れて此岸見る目も今宵まで
2529・冬立や此岸見る目は新たなる
2530・病床のカーテンレール冬の音
2531・冬隣個々の寝息は静かなる
2531・踏みしだく冬の足音近づきぬ
2532・病床に一点照らす冬灯火
2533・マスクして病床六尺灯火下
2534・大いなる濁世が見ゆる今朝の冬
2535・三日見ぬ娑婆の灯りや枯柳
2536・冬木立病床六尺出でて佇つ
2537・カーテン囲む病床に咳こもる
2538・病床の眠れぬ宵や隙間風

11月17日
2539・柳散り浮世の灯り見え隠る
2540・一条の路に触れつつ枯柳
2541・枯柳枝末は揺れて定めなく  しまつ、うれ
2542・枯柳枝末はしばし定め無し
2543・枯柳人無き所枝末伸ぶ
2544・一条のたゆたう柳冬守る
2545・踏みしだく風にも紛れ柳散る
2546・風遊び枝末のの字の枯柳
2547・枯柳向かうの灯り人に消え
2548・誘はれて風行くところ柳散る
2549・雨宿り待ち人未だ枯柳
2550・悪戯に結び目一つ枯柳

11月25日
2551・三日見ぬ娑婆の明りや枯芒
2552・三日見ぬ浮世の灯り柳散る
2553・微睡はマスクに曇る眼鏡から 微睡・まどろみ
2554・コート着る千切れた釦握りしめ
2555・脱ぎ伏せて廻る布子は猫らしき
2556・脱ぎしまま綿入の上猫じゃらし
2557・一条の柳地に触る小春かな
2558・小春日の風行くところ遠柳
2559・病床の小春借景窓に伏す
2560・荷崩れの晒されままに冬の暮
2561・星月夜長靴の中猫宿る
2562・星月夜ヘッドライトは星に向く
2563・星月夜麓一軒カラオケ屋
2564・星月夜長靴乱る一軒家
2565・破芭蕉隠れし影は河童かな
2566・破芭蕉河童もじもじかくれんぼ
2567・星屑を木杓で掬ひ宙に打つ
2568・手水場の窓に影打つ破芭蕉
2569・星鎮め月を帝に愛でにけり
2570・星の桶木杓で掬ひ宙に打つ

11月27日
2571・走り根に足詰まらせて落葉踏む
2572・雲をおき星は鎮まり月となす
2573・神門から星を鎮めし月を見る
2574・シャッターを押せばまた降る枯葉かな
2575・気は震へ枯葉降る降る鴉鳴く
2576・瞬きは枯葉降りきるキャビネ版
2577・視界には一片毎の枯葉かな
2578・晒された落葉小舟は難破船
2579・翻へる枯葉降る降る日を受けて
2580・日を受けて枯葉降る降るあちこちに
2581・走り根に守られ落葉形残し
2582・古池の水面を隠す落葉かな
2583・古池や落葉時雨は水面打つ
2584・風に発つ池岸に寄せる落葉屑  池岸・ちがん
2585・意思ありや定めしところ落葉して
2586・茶屋を抜け紅葉巡りは風衣
2587・風凪し名も無き所枯葉落つ
2588・締め了へて菰巻き新た薫を残し
2589・星鎮め月への使者を目に追ひし
2590・次降りますくっさめ一つ席を立ち
2591・くさめして見送るバスの残り香や
2592・眠れなき深夜病棟咳廻る
2593・停車場のバス待つ人に枯葉降る
2594・停車場に踏み拉かれた落葉かな  拉く・しだく
2595・人知れず落葉拾ひは風まかせ

11月27日
2596・冬日差す窓の反射に手を翳す
2597・敷き詰める雨後の落葉は微動だに
2598・踏みしだく落葉は何時ぞ地に返す
2599・落葉に埋もる長椅子の独り言
2600・堆く落葉ざわめき風に散る

12月・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

12月1日
2601・ドアノブの冷たさ一段と一人
2602・枯葉踏む誰に知らせる軽き音
2603・冬籠り暗き鍵穴風通ふ
2604・風抜けて暗き鍵穴冬籠
2605・枯葉踏む己が軽さに驚きぬ
2606・径半ば雨後の落葉に足取らる

12月4日
2607・枯葉踏む軽き葉音の散り散りに
2608・閑さや枯葉舞ひ降る何処へと
2609・梢から解けて離る枯葉かな
2610・梢から解けて枯葉解き放つ
2611・蝶結び風に解かれて枯葉舞ふ  解かれ・とかれ
2612・蝶結び風に解けた枯葉呼ぶ  解けた・ほどけた
2613・堆く黄葉かつ散る校舎裏
2614・掻き寄せて又掻き寄せて落葉降る
2615・鈍色の冬空に電線が鳴る
2616・梢から振り切る枯葉風に乗る
2617・真に受けて黄葉時雨を佇めば
2618・唯一無二神経衰弱落葉踏

12月10日
2619・木枯や大海原の波が受け
2620・海の波木枯受けて崩れけり
2621・連なりつ木枯返す波の音
2622・廂あはひを抜けて木枯容赦なく
2623・木枯やイルミネーション窓叩く
2624・ひかがみに掌差し文打つ冬灯下
2625・凩の来た道辿る烏鳴く
2626・夜なべして膝に手を擦り茶をすする 夜なべ・晩秋
2627・メール打つバックライトは冬灯り
2628・冬灯すバックライトにメール打つ
2629・夜半の冬灯す明りの芯固く
2630・夜半の冬キャンドル固く燃へる火よ
2631・凩や弛む電線縄遊び 弛む・たるむ
2632・古池や水面を閉ざす枯葉降る
2633・古池や落葉時雨を受け留めし
2634・木立からビーナスベルト冬の空
2635・背なに負ふビーナスベルト冬の空
2636・堆く落葉降り積む風未だ
2637・風に舞ひ飾る葉衣盆の松
2638・身辺りに枯葉舞ひ来る風連れて

12月18日
2639・恙無く喜綱を渡る独楽廻し
2640・初烏鳴いて人里俯瞰する
2641・初烏声鳴き渡る水面かな
2642・初烏鳴く方見るや雪見窓
2643・初烏鳴いて古池渡り来る
2644・福袋雀のお宿戒めに
2645・もっきりの初湯に浸かり吉となす
2646・もっきりの初湯に浸かりきすを引く
2647・ささ浮かべもっきり湯舟初湯かな
2648・もったりとささ舟浮かべ身を沈む
2649・家族皆無病息災屠蘇を注ぐ
2650・屠蘇注いで一家団欒末永く
2651.大いなる袋擡げて福となす
2652・湯面にささ舟浮かべ去年今年
2653・亭主持つ土産たんと福袋

2654・すっきりと剪定されて枯柳
2655・塵取の零れしままに落葉かな
2656・石の路端に寄せらる落葉かな
2657・雪吊りの一本歪む雨模様
2658・時刻表待つ凩や定時発
2659・古池の風に召されて寄る落葉
2660・古池に向かう小路の落葉踏む
2661・黄昏の裏木戸抜ける落葉路
2662・街灯の傘に弾みし枯葉かな
2663・古池を廻る小路の落葉鳴く
2664・心向き落葉踏み鳴く廻り道

12月19日
2665・一仕事了へて杖なす熊手かな
2666・一仕事了へて熊手は杖と代す
2667・堆く歪む塵取り落葉屑
2668・風誘ひ何を言いやる落葉して
2669・黄昏の落葉隠れの石の路
2670・福袋両手抱えて亭主帰す
2671・竹垣に凭れて落ちる椿かな 春
2672・竹垣の枠に外れし冬の空
2673・冬空や垣根の枠に収まらず

12月20日
2674・花街の隠れ社に冬帽子
2675・凩や唸る重機は熱を帯び
2676・吹き荒ぶ現場砂山一輪車
2677・木枯や工事現場の匂ひ飛ぶ

12月23日

2678・沈む身は形定まらぬ柚子湯かな
2679・並木路にフォーリングリーフ幕が開く
2680・柚子の香風呂に入る
2681・冬空やかくも競馬を包み込む
2682・冬空を曇りガラスから見る深き
2683・風小僧閉されても隙間風

12月27日

2684・笛の音は隙間風吹く通り道
2685・一ト日毎光を重ね夏に入る  夏
2686・一ト日毎光を望む冬至来る
2687・しんしんと寒しが溜まる盆の窪
2688・冬の自動掃除機カーテン揺らす
2689・街路樹の寒き蔭に隠る梢
2690・女坂風にまろがる落葉かな
2691・老ひも子も言葉遊びの歌留多かな
2692・塵取りに落葉静かに収まりぬ
2693・口笛を吹けば答へる虎落笛
2694・心地よき暖房座席終電車
2695.心向く石橋渉る落葉踏み
2696・白杖音人群る冬の駅ホーム

12月29日
2697・細る身は日毎夜毎に散る銀杏
2698・黄を崩し広ぐ空見ゆ銀杏散る
2699・銀杏敷く並木通りの朝一景
2700・御破算で願いましては初算盤

12月30日
2701.梵鐘の音に触れ改た去年今年
2702・去年今年張ったラップにナイフ刺す
2703・こつこつと足音過ぎて去年今年
2704・気の抜けた麦酒卓布に去年今年
2705・初手水跳ねる玉水光射す





         

平成18年迄

俳句平成23年~令和5年