vol 4 : 夕刻 


古い壁掛け時計の時刻は、既に夕刻。
そろそろバイトに行かないと。

「さってと、バイトに行かなぁ~」

コタツで寝転がっていた俺は逆側で寝転がっている松吉に話しかける。

「おぉ、もうそんな時間か?」

そう言って松吉は体を起こし、俺もつられて体を起こす。

「動物病院だったか?」

「そうやで?まだ1週間やけどな。」

俺は今バイトをやっている。
普通の店員よりも好きなものを仕事にしたかった。
ペットショップ。
いや、ペットショップはお金で命を売られていく所や。
俺には合わへん。
その点、動物病院は命を助ける場所や。
俺にピッタリやと思った。

「ほな、そろそろ行くわ。」

「おう。頑張りも程々になぁ」

松吉は滅多に頑張れとは言わへん。
【頑張れ】時に励まされ、時に押さえられた言葉だからだそうだ。

立ち上がり、また来ると言って千代さんにも挨拶して織田家を出る。
自転車に跨り、制服のまま、いざ動物病院へ。

動物病院までは自転車で織田家から30分くらい走った山手の場所。
そこは病院だけでなく農業も掛けもちしているらしい。
俺の住んでいる地域は歴史街道が結構あり、昔の言い伝えや、
古墳などが、たくさんある場所。その道を自転車を走らせる。

動物病院での主な仕事内容は、掃除にカルテの整頓、手術に使った、
器具洗い、受付のみ。あとは入院していたゲージの掃除。

働き出して1週間。負に落ちないことがある。
ゲージの掃除や。
スノコの上にペットシーツが敷かれてある。
スノコの下には新聞紙の上にペットシーツ2枚。
普通の考えでは、スノコは洗浄で新聞紙、
ペットシーツは新しいのに取り換えるやろ?

「おい・・・」

「はい?」

「それ、汚れてないだろ。」

「・・・せやけど、さっきの猫が入ってたし」

「勿体ない。汚れてなかったらそのままでいいんだ。」

納得いかない。手術した動物が入るのにそれでいいはずがない。
そして、目の当たりにする。
ゲージに入っていた犬が感染したんや。
飼い主への説明は、

「手術前の状態が酷すぎなんですよ。あんなので助かりっこありません。」

飼い主の責任。
飼い主が帰った後の会話。

「縫い方が雑だったかな・・・。感染するとは思ってなかったな。」

なんやそれ・・・。
俺はその日付けで辞めた。
夜8時、帰る為に自転車を走らせる。
辺りは真っ暗やけど、俺の心境はムカツキでそれどころじゃない。

(たすけて)

声じゃない声が俺の体に入ってきた。
自転車を急ブレーキで停め、後ろを振り返る。
なんや・・・胸が苦しい。
胸の服を握りしめて目を閉じる。
霊か。

(たすけて、たすけて)

気付くと声は大きくなり、体中が重くなる。

「カン、いいか?霊にも事情があるんだ。まず聞いてやれ」

松吉の話が脳裏にこだまする。霊の事情・・・聞いてやれ。

(誰や?どないしたん?)

心で問いかけた瞬間、咄嗟に真横が気になり目を開いて見ると、
そこには細長い石が建ててあって、大和姫古墳と書かれている。
その奥には細い道が続いていて、回りは林に囲まれ真っ暗や。
俺はジッとその奥を凝視した。

(たすけて!)

その声と共に道の真っ暗闇から何かが俺めがけて飛んで来ると、
とても強い風が俺めがけて吹き抜ける。
怖い。
その状況に寒気がし、辺りの暗さがやけに怖さを感じさせて、
自転車を急いで走らせる。

「はぁはぁ・・・」

何か解らない。解らないけど何か居て何かが追っているように感じる。
急いで家に着くと、慌てて自室に駆け上がる。

「怖い・・・怖い怖い怖い!」

ベッドに突っ伏してダイブし、冷たい体が恐怖を覚まさせない。
やはり胸が苦しく気分も悪く吐き気に襲われ、恐怖との葛藤が始った。
自分の体が悪いわけではない為、薬を飲んでも効かへん。
吐きたくても、体が悪いわけと違うから吐かれへん。
どうなんこれ?俺の希望はこんなんちゃう。
俺は、こんなんがやりたいわけじゃない!
飲み込めない辛さの現実に泣きそうになる弱い人間の俺。
これを読んでるアンタはどう思う?




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