『屋根裏の散歩者』['92]
監督 実相寺昭雄

 田中登監督による日活ロマンポルノの『屋根裏の散歩者['76]を観たばかりだったので、気になっていた実相寺監督作品を観てみた。こちらは原作どおりに明智小五郎(嶋田久作)が郷田三郎(三上博史)の犯行を暴くのだが、二人を似た者同士だと指摘する遠藤幹彦(六平直政)の人生に退屈してるところがだよという台詞は、原作にはないものながら、なかなか核心を突いた潤色だと思った。

 圧巻はやはり、遠藤の最期を演じた六平直政と、原作にはないエロとデカダンの部分を一手に担った感のある新庄菜々子を演じた加賀恵子だったように思う。六平による“死に向かう真っ赤に紅潮した顔面演技”と、実にエロティックに演じて三十五年前に第二劇場で観たっきりの『アリエッタ』['89]での強烈な印象を思い出した加賀による“ロマンポルノ以上に思える絡みの場面”に感心した。実相寺作品には欠かせない寺田農の演じる弁護士越塚恵蔵の耽る愛人と思しき魚谷和枝(清水ひとみ)をモデルに使った猟奇的あぶな絵遊びや、郷田と奈々子による電球を使った熱く危なっかしそうな性遊戯、和枝と東栄館の女中である崎村珠代(鈴木奈緒)のレズプレイなど、田中監督作品以上に“猟奇館”だったような気がする。和枝が施される蜘蛛の巣縛りや切腹図などフェチの領域のなかでもかなりマニアックな部類のはずだ。

 カタツムリに始まりカタツムリが這う姿で終えた本作のロゴやタイトルバックにも大正期を偲ばせるものがあって気に入ったのだが、宮崎ますみの演じるヴァイオリニスト志望のお嬢様秋月煕子の狂気というのが今一つ響いてこなかった。タイスの瞑想曲という選曲は好い感じだったのだけれど、勿体ない。目を惹いたのは、明智小五郎が嗜む煙草がマルコヴィッチだったことで、これはてっきり覗き穴の屋根裏と掛けて『マルコヴィッチの穴』をもじっているのかと思いきや、『マルコヴィッチの穴』は、'99年作品で本作が七年先駆けていた。だが、絶頂に達する直前に男から離れて窓からの放尿を始める菜々子が♪カチューシャの唄♪を歌うのは、赤い井戸水を汲みだしながら銀子(田島はるか)が歌っていた田中版『屋根裏の散歩者』のラストを踏まえたものに違いない。

 屋根裏づいているついでに、NHKBS録画でダークサイドミステリー『愛と哀しみの“現代のルパン”〜僕と彼女の屋根裏美術館〜を視聴した。ルパンと明智小五郎というのも縁のない話ではない。江戸川乱歩の美女シリーズ第6話『妖精の美女には、不二子さえも出てきた。他方で、同時代を生きているのに、ステファン・ブライトヴィーザー&アンヌ=カトリーヌのことは、まるで知らなかった。美術品専門の窃盗犯なのだが、何とも緩いというか、嘘のようなホントの話という感じだった。
by ヤマ

'25. 5.20. DVD観賞



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