『新極道の妻たち 覚悟しいや』['93]
『新極道の妻たち 惚れたら地獄』['94]
『極道の妻たち 赫い絆』['95]
『極道の妻たち 危険な賭け』['96]
『極道の妻たち 決着』['98]
監督 山下耕作
監督 降旗康男
監督 関本郁夫
監督 中島貞夫
監督 中島貞夫

 脚本が高田宏治に戻ったシリーズ第六作『… 覚悟しいや』は、いわゆる暴対法暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律が施行されて後の抗争模様を極妻ふうに取り入れた作品だが、いきなり北大路欣也【殺し屋の花杜】や加賀まりこ【桑原組姐御】が登場し、いささか驚いた。岩下志麻の演じた野木安積には、露出は殆どないながらも長めの濡れ場まであって、草刈正雄演じる義弟の野木高明との対決場面が一つのハイライトになっていた。

 岩下志麻の北大路欣也とのベッドシーンは、かなり無理があったとの指摘が映友からあったが、二人とも揃って当時、既に五十歳前後だったから、第一作のかたせ梨乃と世良公則のアラサーカップルのようには、画面にできなかろうと思う。併せて、北大路欣也にかなり気遣いをしていたような気がしたとのコメントも寄せてくれた。これは僕も感じていたもので、要はヒットマンのはずなのだが、なんだかゴルゴ13張りの膳立てをしていて可笑しかった。もっとも段々と馬脚を現わし、終いには安積の加勢で息を吹き返す少々情けない殺し屋になっていた。

 また、本シリーズに欠かせぬ かたせ梨乃も高明の妻千尋の役で復帰し、もはや豊満な裸体を披露することもなく義姉妹対決を貫録とともに演じていた。安定感のあるエンタメぶりは発揮しているように思ったが、妙に素っ頓狂な話で、安積の矢鱈とドスを利かせた物言いぶりが些か芝居がかって耳についたようにも思う。

 それにしても、住民から立ち退き運動を起こされたことでヤクザ側が裁判に訴え出た事例など、本当にあったのだろうかと思って調べてみたら、'86年の浜松市で実際にあったようで驚いた。


 第五作に続き、かたせ梨乃が抜けたシリーズ第七作『… 惚れたら地獄』は第四作『… 最後の戦い』の芙有と同名の芙由(岩下志麻)に対抗するのが、夫(高島忠夫)が殺された後に継いだ村木組を潰しに係る、三代目侠和会会長の坂本重秋(中条きよし)の妻英子(あいはら友子)だったわけだが、あいはら友子では、かたせ梨乃には及ばない気がした。一方、かたせ梨乃の相手役として第一作で強い印象を残した世良公則が復帰して演じていた御蔵組幹部の権藤啓太の妻加奈代を演じた川島なお美は、第一作のかたせ梨乃に引けを取らない濡れ場を演じていたように思う。

 筋立てとしては、組を潰され、子飼いの幹部たちを夫ともども葬られた姐御の芙由が自らヒットマンとして個人的に敵討ちを果たすという他作にはない展開で、松田寛夫による脚本だった。岩下志麻の口調が前作ほどにはドスを利かせていない程の良さで気に入った。オープニングで見せていた身内に対する善き姐御ぶりといい、若頭と思しき新谷清二(山下真司)の妻斎子(斉藤慶子)のハンドバッグにパイナップル【手榴弾】を潜ませて女二人で侠和会に乗り込んだ場面の気迫といい、亡夫一筋の姐御姿の見せ場に事欠かない作品として、思いのほか面白く観た。


 前作に続き、かたせ梨乃が抜けた第八作『… 赫い絆』は、やはり岩下志麻の演じる姐御に対抗できる存在を欠いた物足りなさがあったように思う。堂本組先代組長(内田朝雄)の娘として、生粋の極道界育ちにして、堅気になっても心に彫り込まれた刺青の消えない堂本きわ(岩下志麻)に対抗して全身に刺青を施した眉子を、前年の愛の新世界で目を惹いた鈴木砂羽が体当たりで演じていたけれども、とうてい敵うものではなかったのは、役処どおりでもあるわけで、致し方ないのだろう。

 筋立て的には、きわへの対抗意識に囚われた存在として、そんな眉子を後妻に迎える夫の久村修一郎(宅麻伸)の屈託を置きつつ、二人の間には惚れ合った想いに心変わりがないままに、通すべき筋と柵によって互いに素直には臨めなくなっている姿を描くことで、いわゆる“義理と人情に引き裂かれる任侠もの”の本分を投影させているように感じられるところが目を惹いた。

 対抗組織である三東会の後藤会長(萩原流行)はチンピラ感の漂うろくでなしで、解散した堂本組幹部の兵頭(長谷川初範)に妻の美佐(佳那晃子)を差し出させ、見物しているよう命じる趣味の悪さだったが、堂本組の解散自体は、三東会との抗争に敗れてではなく、先代組長が銀行に踊らされていると指摘していたとおりの自滅だったわけで、辛抱に辛抱を重ねながら堪忍袋の緒の切れた堂本きわが最後に機銃掃射する見せ場のための敵役でしかなかったような気がした。

 シリーズを重ねるといろいろ趣向も凝らさざるを得ず、かなり苦し紛れの感もあったが、捏ねくった夫婦物語をヤクザの柵のなかに盛り込み、身体を張った暴力抗争より遥かに不義理極まりない政治絡みの利権抗争を背景にしていた脚本における塙五郎の意欲は、買ってやりたい気もした。シリーズ中の異色作には違いないように思う。


 脚本が高田宏治に戻った第九作『… 危険な賭け』は、折角かたせ梨乃を神鳥組姐御として復帰させながら、充分な役回りを設えられず、“北陸の女帝”たる洲崎組組長(岩下志麻)の娘香織を演じた工藤静香には、第三作の吉川十和子や前作の川島なお美、鈴木砂羽ほどの見せ場も施せず、余り見どころのない凡作だったような気がする。

 筋立てや運びが釈然としないのは、今に始まった話ではないから、さておいても、気迫の籠った見せ場が感じられなくては、本シリーズの肝心を欠くことになると思った。


 岩下志麻が極妻を演じたシリーズの最終作『… 決着』は、彼女が決着(けじめ)をつける相手に最早、女優では担える役者が見当たらないことが判明したからか、傘下の野心家組長名越(中条きよし)になっていて、女同士の張り合いはなく、同じく傘下の番水組組長(大杉漣)の妻彩子(かたせ梨乃)は、夫と袂を分かってでも井出組本家姐御の井出春日(岩下志麻)の側に付いており、女対男の構図を明確にするようになっていた。

 そのうえで色欲より何より金欲に目が眩むようになったヤクザの野郎幹部たちに比し、情を重んじ筋を通すのは専ら女たち極妻であることを浮かび上がらせていたように思う。名越の謀略によって殺された秋葉組長(竹内力)の遺族に資金を渡すべく春日が企画した花会に彩子と揃って乗り込み、名越を破産させるばかりか死ねやと引導を渡して成敗する場面が、何だか『ビバ!マリア』['65]テルマ&ルイーズ['91]に連なる系譜を想起させるようにも感じられた。

 目を惹いたのは、今や国会議員になっている役者が二人も出演していたことで、一人は三十五年間の年金未納が問題になった参議院議員で、強欲な敵役を演じていた中条きよしであり、もう一人は、れいわ新選組の代表を務める衆議院議員の山本太郎だ。不義理な親分殺しを行なった若頭(金山一彦)に鉄槌を下す昔気質の構成員の役だった。そして、第四作『… 最後の戦い』で川越会会長の田所を演じていた中尾彬が前作に続いて出演し、シリーズ初期作品で成田三樹夫が果していた“エンタメ映画作品として画面を引き締める役割”を担っているように感じた。




参照テクスト:「極妻」シリーズ1~5作 観賞日誌
by ヤマ

'24. 3. 9~17. BS松竹東急よる8銀座シネマ録画



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