『若妻が濡れるとき』['78]
『イヴちゃんの姫』['84]
『エロチックな関係』['78] 
『悪魔の部屋』['82]
監督 藤井克彦
監督 金子修介
監督 長谷部安春
監督 曽根中生

 十一年前に観た夢売るふたりの松たか子や、八年前に観たピース・オブ・ケイクの多部未華子に吃驚したことを思い出すような新垣結衣の自慰場面に正欲で出くわしたからというわけでもないが、101回記念新宿を片付けて中断していた『みうらじゅんのグレイト余生映画ショー in 日活ロマンポルノ』の観賞を再開した。特集テーマ「ミステリー」で収録された四作品は「若妻が濡れるとき【志麻いづみ】、イヴちゃんの姫【イヴ】、エロチックな関係【加山麗子】、悪魔の部屋【中村れい子】」。

 最初にあった『若妻が濡れるとき』は、右の乳房に無惨な傷跡の残る娼婦と思しき女(志麻いづみ)と榎木兵衛演じる労務者風の男との安普請の木造アパートの一室での激しい絡み場面を序章にして始まりながら、一転して志麻いづみが上品な佇まいの和装で現れる場面に転換して、些か歪な富裕階層の若林家の若妻に収まっている姿を映し出し、実に謎めいていた。序章の娼婦が過去なのか、富裕若妻から転落するのか、確かに「ミステリー」とするに相応しい設えだったが、そのいずれでもなかった。次々と、ある種、チープな秘密というか謎が明かされていくのだが、最後は、夫雄二(林ゆたか)に子種がないことを知るのは彼自身のみというなかで、若妻涼子(志麻いづみ)の受胎に姑(吉川遊土)が喜ぶエンディングになっていて、その謎かけを収まりよく感じた。

 志麻いづみが女の百態を演じて奮闘していることに感心。いづみファンにはたまらない作品なのではないだろうか。下卑た阿婆擦れ女の風情から、アバンチュール的なコスプレ、品よく慎ましい佇まいまで、化粧ともども洋装和装裸身と衣を替えて見せてくれる。コスプレということでは、夫が密かに愛人にしていた友人の和子(渡辺とく子)に連れられて赴いた秘密クラブでの仮面舞踏会風コスチュームでの乱交パーティに先駆けて、日常的にコスチュームをがらりと変えて男漁りをしていた涼子だった。乳房に遺された傷跡が効果的に使われていて、なかなか象徴的だったように思う。ある種の屈託と共に若林夫妻を歪に結び付けている鎹のようでもあったから、妻の妊娠くらいで壊れたりする夫婦関係ではないように思った。涼子に傷を負わせて血塗れの乳房にした暴漢も、彼女の秘密を握った和子も、和子が秘密を探らせた中田(井上博一)も、皆この世にはいなくなっている。

 和子は雄二に涼子の昼顔生活を告げる前に死んでいたようだし、雄二は自分に子種がないことを涼子に告げたりはしない気がする。それぞれがひとつづつ相手に秘密を隠したまま、二人だけが共有する秘密としての涼子の右乳房の傷跡を鎹にして生きていくに違いないと思った。


 続く『イヴちゃんの姫』は、オープニングクレジットに佐伯俊道の脚本とあり、『福田村事件』がいま話題で、当地でも本作を観た翌日から本公開の始まる奇遇を感じた。もう三十九年も前になる映画だが、イヴちゃんと言えば、当時“ノーパン喫茶の女王”として名を馳せていたことを思い出した。

 こんなにあどけなく明るいキャラクターだったのかと思いつつ、いかにも金子作品に似合っているように感じながらも、呆気に取られる物語展開に、いくら筋立てはそうであったにしても、これは最早、ミステリーのカテゴリーとは言えない気がした。敢えてミステリーと言うならば、それはイヴの演じた保健教師である伊武先生の人物像そのものだったような気がする。タイトルの姫というのは、公開当時には符号として通じるものが何かあったのかもしれないけれども、今となれば、不得要領なタイトルのように思う。だが、姫という点では、最後に去って行っていた伊武先生に対して、些か浮世離れした人魚姫のイメージがどことなく付与されていたような気がする。

 記憶媒体がフロッピーディスクで、避妊フィルム「マイルーラ」の時代の映画で、同僚教師と待ち合わせる成人映画専門館の上映作品である『団鬼六 薔薇地獄』『女教師 童貞狩り』『看護婦日記 獣じみた午後』の看板文字やポスターがでかでかと表に掲げられ、貼り出されているのを懐かしく観た。殺精子剤のマイルーラは、今でも使用されているのだろうか。とんと聞かなくなっているが、名に覚えはあっても実物を観たことがなかったので、フィルムをあのように折り畳んで挿入して痛くないのだろうかと思ったりした。

 コンピューターゲームを当てて一攫千金を狙うゲーム会社の企業スパイの話だとは思い掛けなかったが、とても真面目に筋を立てる気などないことが前面に出ていたように思う。上映中の『団鬼六 薔薇地獄』を独りで観ていた客が実演付きかよと呆気に取られて目を白黒させる場面が可笑しかった。


 三番目に観た『エロチックな関係』は、いくら話のうえとはいえ、探偵物語の工藤(松田優作)ならいざ知らず、俺には判らないことが多すぎるなどと漏らす桧垣浩太郎探偵事務所のでくの坊探偵(内田裕也)に、次々と女性たちがしな垂れかかり性戯に耽り出すことに違和感が付き纏っていたが、精力旺盛な助手の美紀(加山麗子)は、どうやら桧垣の妻らしく、財布も仕事の方針も彼女に牛耳られていたようだし、水沢千恵子(牧ひとみ)には思惑あっての桧垣利用だったから了としつつも、お話の運びの余りの杜撰さと、加山麗子をトップに挙げながら専ら牧ひとみ中心で、それなりの見せ場としての濡れ場というのは、訳の分からない唐突なカーセックスシーンのみだったような気がして飽き足りない。内田裕也がとっかえひっかえ幾人もの女性と絡む濡れ場などいいから、加山麗子の登場場面を増やしてほしいと思わずにいられなかった。

 グラビア等の写真では見覚えがありながら、動く彼女を観たのは、初めてだと思う。ときにあどけなさを覗かせる表情に魅力のある女優だった。本作で写真家を演じていた西村昭五郎監督による『肉体の門』にも出演しているので、マキノ正博版も鈴木清順版も五社英雄版も観ている同作のコンプリート観賞を果たしたくなった。

 筋立てそのものは、確かにミステリー色が濃く、それなりのものもあったように思うが、なにせ探偵に魅力がなく、話の運びが乱暴で呆れてしまった。レイマン・マルローによる原作小説は未読だが、洋物の翻案の仕方にも拙さを感じた。同作の若松孝二版『エロティックな関係』['92]も観てみたく思ったが、探偵役が同じく内田裕也だったことを思い出し、少々減退した。リメイク作は松竹だから、いくら何でも秘密クラブでの殺人ショーの部分は、変えてあるに違いないと思ったりした。

 それにしても、千恵子による連続殺人の動機がいかにも不可解で、裏稼業のボス黒川の差し金であったにしろ、自身の意思であったにしろ何とも釈然としなかった。原作小説では、どうなっているのだろう。


 最後に観た『悪魔の部屋』は、笹沢佐保原作の秀作だと仄聞した覚えがあったが、成程さもあらんと、大いに納得した。思いのほか面白かったのは、同じミュージシャン出身でも、内田裕也とは比較にならないジョニー大倉に負うところが大きいのかもしれないと思ったのは、前夜に観た『エロチックな関係』のせいだろう。

 彼が演じた誘拐犯の中戸川不時は、見るからに華奢な体型さながらに虚弱で狭量なうえに薄情だった伏島裕之(堀内正美)と違って、強引ながら凶暴ではなく、フォークを腕に突き立てても冷静さを失わない度量と思慮深さを備えていたから、中戸川に監禁された世志子(中村れい子)が夫への失望からストックホルム症候群的に彼に想いを寄せるようになるわけだが、タフさとナイーヴさを併せ持った男をよく体現していたように思う。

 中戸川の最後の選択には、少々無理があるような気がしたが、マネージャーとベルボーイの二人を呼んだ意図については成程と感心した。中戸川の言い分は、主題に直結する部分だから致し方ないような気もするが、原作での最後の顛末は、どのように描かれていたのだろう。

 監督との共同脚本が三日前に観た『イヴちゃんの姫』と同じ佐伯俊道で、何だかこれは早く福田村事件を観に行けということか?と思ってしまった。また、中村れい子の身体がなかなか綺麗で観惚れた。そして、ホテル王伏島京太郎を演じた内田良平が流石の貫録で、ポルノ映画にありがちなラブホロケではなさそうな設えの部屋が見映えしたように思う。



*『イヴちゃんの姫』
推薦テクスト:「八木勝二Facebook」より
https://www.facebook.com/katsuji.yagi/posts/pfbid07kAafgowTfNAk35LwETEMUo
F7WHqyM1RiUzfxeQm1oQcnS3CGFiw1Vfn2UrHkRHQl

by ヤマ

'23.11.22・24・27・28. スカパー衛星劇場録画



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