『肉体の門』['64]
『女刑務所(スケムショ) 変態』['79]
監督 鈴木清順
監督・脚本 高橋伴明

 これが清順の『肉体の門』かと積年の宿題をまた一つ片付けた気分だ。当地に所縁もある、大学の先輩でもある田村泰次郎の原作小説は未読で、映画化作品もマキノ正博によるモノクロ版['48]を十四年前に生誕100周年記念 カツドウ屋一代 マキノ雅弘映画祭”で観ているだけだった。

 オープニングシーンの街をさすらうマヤ(野川由美子)の目力にグッと引き寄せられた。こ~んな女にぃ誰がした~♪星の流れに♪いざ戦わん 奮い起て いざインターナショナルが交錯する占領下の日本における無軌道なバイタリティと哀切をアバズレ街娼婦とチンピラ復員兵の奇妙な共生のなかで描いて、なかなか見映えのする作品だったように思う。

 高校の映画部の後輩が子どもの頃にわけも分からず口ずさんでた歌が、大学生の時に見た清順版「肉体の門」の中でも歌われてたのに感動しました。と言っていたように、映画と歌・音楽というのは切っても切れない関係があるように思う。♪星の流れに♪は '47年の歌で僕も子供の時分から知っている。とても印象深く残る歌であるばかりか、まさに本作に誂えたような曲なので、この機会に探してみると、主題歌にした東横映画『こんな女に誰がした』['49](監督 山本薩夫)という映画もあるようだ。ぜひ観てみたいものだ。

 鈴木清順によるカラー版では、深紅の関東小政おせん(河西郁子)、黄色いお六(石井富子)、緑のマヤ、紫の美乃(松尾嘉代)という四人の娼婦のカラフルな洋装と、女はなんたって奥様稼業がイチバンとぼやく黒の和装の町子(富永美沙子)に、元兵長だという復員兵の伊吹新太郎(宍戸錠)を加えた配置が、画面構成共々、とても画になっていたように思う。

 また、劇中に流れるすまぬすまぬを背中に聞けば、馬鹿をいうなとまた進む麦と兵隊のように戦後を生き抜き、民主主義だろうと八紘一宇だろうともう信用できないと、お上のお達しではなく己が肉体の求めるものを唯一の拠り所として「脱落者の幸福」を得ていく女たちの生存力の逞しさが、マヤの挑発に抗いきれずに禁を犯して自死してしまう聖職者の男の虚弱さと対照的だったような気がする。

 聞くところによると本作は、海外の監督にも多大な影響を与えているのだそうだ。確かに画面に力があって、色遣いのみならず画面構成も大いに目を惹いた。編集にも遊び心が溢れていて、マヤから求められて伊吹が挑む際の艦砲射撃が炸裂する音とカットの挿入には、ヒッチコックの泥棒成金['54]での花火連発を思い出して笑ってしまった。

 街娼婦仲間の“男に惚れて金も取らずに寝ること”を禁じた掟を破ったということで、町子もマヤも素っ裸で縛られたり吊るされたりして、おせんたちから折檻されていたが、野性味あふれボルネオの異名を取るに相応しく腋下の処理もしないままの裸身で吊るされるマヤを演じていた野川由美子の迫力に圧倒された。ただ、翌年の清順作品春婦傳で演じていた慰安婦でも同様だったから、清順の趣味なのかもしれないとも思った。


 女同士による折檻という点では、翌日に偶々見つけた高橋伴明の四十四年前のピンク時代の監督・脚本作品もなかなかのものだった。昭和六年の佐和島刑務所で繰り広げられる女囚への暴虐を描いていたが、六十分余りの全編のほぼ九割が裸女なり性戯場面で綴られるという驚きの脚本だった。加えて、力関係のみで成り立つ世界の住人の荒みようをも描いていて、圧巻だった。なかなかねっとりした演出力だったように思う。

 そして、収容施設なるものの理不尽な因業を観ながら、1931年の刑務所の虚構物語とは違っていても、九十年後の今尚、刑務所や入管での凄惨な事件が報道されたりしているから、本質的なところで抱えている問題点については、変わりがないのかもしれないなどとも思った。

 高橋伴明・岡尚美によるコンビ作品は『日本の拷問』['78]『少女情婦』['80]くらいしか観ていないが、斯界では名うてのコンビらしい。大変な熱演だった。それにしても、女囚三人がかりでの不眠不休のレズプレイでのエクスタシー責めによるアクメ地獄で、房長マツ(有沢真佐美)の言う眠れない苦痛と気の遠くなるような快感によって精神を病んでしまう隆子(岡尚美)の顛末には恐れ入った。眠れない苦痛は、責める三人の側にはないのだろうかと思わず失笑したが、しっかりサディスト看守の井上(下元史朗)も所長(今泉洋)も成敗して散っていた。

 高校時分の映画部長も「ものすごいレア作があるんやね」と驚いていたが、同感だ。




【追記】'23. 2.25.
 先ごろ鈴木版['64]を観たばかりのところに、五社版['88]を GYAO!配信動画で見つけたものだから、観逃す手はないと視聴してみた。これでマキノ版['48]と合わせて三作品観たのだから、そろそろ書棚にある未読の『高知県昭和期小説名作集⑪田村泰次郎』に収められている原作小説を読んでみようかと思い始めた。
 映画のほうは、鈴木版の♪麦と兵隊♪ではなく、冒頭に♪暁に祈る♪が流れ、これは外せない♪星の流れに♪をエンディングテーマにして終えていた。関東小政おせんを演じた、僕と同学年になる、当時三十路に入ったばかりのかたせ梨乃はなかなか魅力的だったけれども、菊間町子(西川峰子)の博奕エピソードを始め、母妹の仇のロバート軍曹と刺し違えるザギンのお澄(名取裕子)による♪テイク・ジ・A・トレイン♪エピソードなど、見映えはするものの、何とも唐突で繋がりの悪い場面の連続で、人物像や関係性に釈然としないものが湧いてくる観心地の悪さがあったような気がする。



*『肉体の門』
推薦テクスト:「やっぱり映画がえいがねぇ!」より
https://www.facebook.com/groups/826339410798977/posts/2986718314761065/
by ヤマ

'23. 1.27,28. GYAO!配信動画



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>