いまさら山猫機の話

山猫機を捨ててintelチップセット機を

■ 山猫機とは

 山猫機とはVLSI Supercore 59x シリーズのチップセットが使われたPCIバススロットのあるPC-9821シリーズ機の総称(の通称)です。1995年6月頃から1年以上にわたり発売され続け、型番には非常に紛らわしいものがあります。PC-9821Xa無印が既に発売されていましたが、これとは全然特性もチップセットも異なるものとして、まず PC-9821Xa7/C*, PC-9821Xa9/C*,PC-9821Xa10/C* から発売されました。(* はHDD容量の上2桁の数値になります、例4,8,12)

 このほかにも 廉価版の PC-9821Xa7eというものがすぐに登場しました。その後CPUをPentium 133MHzまで引き上げた Xa10/K*,Xa12/K*,Xa13/K* 型番のものが発売されます。最終的にはXa/R16までラインナップが続きました。

 いっぽうお買い得感の高いバリュースターとして登場したPC-9821V7,V12,V13,V16 の「一部」にも山猫マザーボードが紛れ込んでいます。他方は「インテル」のチップセット機です。V20では山猫マザーボードのみで続けられました。

 これとは別系統で、サーバー然とした Xt13/C,Xt13/K,Xt16/R という、PCIスロットを3個持った機種があります。これらの他に、「Canbe」のCx2,Cx3,Cx13,Cb3といった機種でも山猫チップセットは使用されています。ただしPCIスロットを持たないので、事実上Cバス機と考えてよく、後で述べるようなPCIデバイス問題とは無縁です。

■ バリュースター2桁機での山猫機の見分け方

 V7およびXa7eでは外観から見分けることは困難なので除外しておきます。バリュースター二桁機については、横置きデスクトップ機は背面のPCIスロットが2スロット幅(1つはスロット穴なし)あるものが山猫機です。1スロット幅しかないのがインテルチップセット機です。V10については全てインテルチップセット機のようです。山猫はV7,V12,V13に紛れています。V20/Sは全て山猫機です。このほかに、Xc13/S5 (Xc13の初代機であり、Xc13/S*2のように2で終わるものは別)も山猫チップセットマザーボードが使われているのがややこしいところです。さらにややこしいのはV16/Sです。基本的には山猫マザーボードですが、青札筐体のV16/S5P、/S5Cは違います。

 いっぽうタワー機はV13/M,V16/M,V20/M とありますが、全て山猫機です。

 つまりPCIスロット1個幅しかないものは必ずインテルチップセット機、2個幅なら山猫機と思ってほぼ間違いないですが、初期のV7およびXa7eには2スロット幅なのにインテルチップセット機が少し紛れ込んでいるというのが実情です。

 いずれにしても、カタログスペックでは山猫マザーボードであるかどうかは見分けが付きません。山猫マザーボードでPCIスロットに用意されたスペースが1個分のみという機種が無いので、筐体のほうが見分けがつきます。

■ マザーボード形式

 とくにV二桁機においては、採用されている機種との対応が必ずあるわけでは無いというのが、問題をややこしくしています。マザーボードの形式のG8の後のアルファベット3文字の辞書順が開発順と考えられていますので、その順で列挙してみます。なおCanbe(および類似のV7/C4K)とXt**タワー機は除きます。
型式ビデオチップ特徴
G8TTYTridentチップセットが82C591の「まがい物」すらある!
G8UYCTridentXa7eと初期V7のみにある(*)
G8VAZTridentXa /C機種はほぼこれ、希に82C591あり
G8VSUTridentXa /K以降の機種にある
G8VWVTridentXa /K以降の機種にある
G8WVDCL-GD5440V二桁デスクトップ機のみ,1スロットしか使えない、EDOメモリを活かせない
G8XJNCL-GD5440V二桁タワー機用,Xc13/S初代用,2スロット使える、EDOメモリ対応
G8XYHTridentCPU 166MHz以上の機種にある
(*)G8VLJもあるがそれはインテル 430FX-60チップセットという、別の意味で外れ機

■ PCIバスがおかしい

 山猫機の最大の問題は、PCIスロットが少なくとも2個もあるにもかかわらず、まともに動作するPCIボードが非常に限られることです。NEC純正型番として存在する次のものや、一部のビデオカードは動作しますが、ストレージ系、PCIブリッジやマルチファンクションを装備したボードは全く動作しません。いや、全く動作しないなら未だよいのですが、基本的にデータ化けを起こすというのが厄介なのです。さほど高確率でない場合、なかなか気がつかなかったり、ハードディスクのデータが壊れてから気がつくというようなことになるのです。

 PC-9821Xシリーズ純正品として売られたのは以下のようなボードです。ビデオカードを除くと、これら以外は動作しません(言い切ります)。
純正型名種類主要チップ
PC-9821X-B01ビデオカード(ウィンドウアクセラレータ)Matrox MGA2
PC-9821X-B02LSCSIカード(AHA-2940/J95のほうがBIOSが良い)adaptecl AIC7870
PC-9821X-B03ビデオカード "Millenium"Matrox MGA2064W
PC-9821X-B06ネットワークカード E100Bintel 82557
PC-9821X-B09SCSIカード,AHA-2940AUに相当adaptecl AIC7860
PC-9821X-B10SCSIカード,AHA-2940UW同等adaptecl AIC7880
* この他にPC-9821X-B04,05というMPEGボードやB07 100VG-AnyLANボードがあるがほとんど見かけない

 PC-9821シリーズで人気の高かった、アイオーデータのUIDE-xxシリーズも、大熊猫氏のBIOSを積んだSiliconImageチップのSATAボードも、まともに動作しません。となるとCバス機と同じではないですか、、、ということになりますが、実際Canbeはそうです。であればCanbe Cx2,Cx3,Cx13を買った方がずっと良さそうです。Canbeは(ディスプレイを除けば)コンパクトで無駄な空間がありません。

 山猫機のメリットは、純正のほか主要周辺機器メーカ製のPCIのSCSIボードが使用できる点であり、素直に、PC-9821X-B09やPC-9821X-B06相当品を2スロットに入れて使うのが正解と言えます。それか、オンボードのグラフィック(TGUI9680かCL-GD5440)を殺して、1スロットはビデオカードを装着することです。実際画質も悪いしビデオメモリ量も少ないので使い勝手が良くありません。そしてWindows95止まりと考えた方がよいです。なおOS/2 Warp3は対象となっていますから、純正品相当で固めておくのが無難です。

■ PCIバス、何が起こっているのか

 基本的にデータ化けです。実際、VLSIチップセットにパリティエラーフラグが立ちます。しかしシステムでパリティエラー停止という設定になっていないため、動作を継続しようとします。それでもいずれはハングアップに至ります。

 データ化けの理由については、(1)チップセット動作そのものに起因する説、(2)配線長(取り回し)に起因する説の2つがあります。おそらく両方あるのではないかと考えられます。その根拠を示します。

 G8VAZの頃までは、82C594チップのピン番号30と31は別々の信号ピンですが、G8VSUマザーボードには両ピンを繋いだものがありますし、メーカが改修したG8VAZではピン間をハンダでショートさせたものがあります。このようなことからチップセット動作そのものに問題が潜んでいそうです。PCI-PCIブリッジのあるボードを装着するとデータ化けは起こりますので、バス動作そのものに問題がありそうです。参考「CHANPON 3のUSB」

 歴代マザーボードを見ると、後期のG8WVD以降のマザーボードにはチップセットの595の周辺のPCIバス信号ラインにダンピング抵抗が見られます。しかし前期のG8VAZなどにはこれがありません。データ化けの改善策として入れられたものと見られます。しかしその効果がどれほどあるかは疑問です。山猫機ではPCIとCPUのクロックは非同期となっているため、PCIバス側のクロックだけ遅くするようなことは可能です。それを25MHz程度に遅くするとデータ化けが起こりにくくなります。これは(2)のほうに作用している可能性が高いでしょう。

 ちなみに山猫機のクロックアップはよく紹介されており、PLL IC【SC464AYB】横の2対のジャンパピンでCPU外部クロック 33,50,60,66MHzの選択、ICのあるピンの足上げでは80MHzも可能です。非同期であるがゆえにCPUのオーバークロックがPCIバスに影響を与えないと考えられたためか、オーバークロックが盛んに行われました。しかしクロック比が大きくなるとPCIバスのデータ化けは確実に悪化します。当時のオーバークロッカーはPCIスロットをあまり使っていなかったのでこのことに気がつかなかったのでしょう。

■ CバスもIDEも遅い

 CバスにSCSIボードPC-9801-100を接続すると判りますが、他の機種より明らかに速度は遅いです。オンボードIDEも顕著に転送速度が低いです。この点は山猫チップセットのCanbe各機種でも同じと考えられます。

■ 結論  「山猫機を以てPCIを語る勿れ」

 せっかくPCIスロットが2つあっても、純正品相当のPCIボードしか使用できません。もしそれを使わないのであれば、Canbeか、インテル430FXチップセットのV二桁を購入した方がいいです。とくにPCIバス搭載9821の入門機としては、山猫機は絶対に避けるべきです。これは今時から98の世界に入ったという若い世代の人には伝えなければならないと思っています。

 いっぽうすでに山猫機を昔から持ってたがそこで98から離脱した(そして今時戻ってきた)という人には、PCIバスがちゃんと使える9821の他の機種のことをぜひ知ってくださいと、言っておきます。PCIバスの世界が拡がりますし、CPUにP55Cが使えるという利点もあります(山猫機ではP55Cへのアップグレードパスは用意されていない→しかし解決策)。山猫機を拡張して楽しもうなどというのは、ばかげているとしか言いようがありません。それでもメモリをたくさん積んだサーバのような機種としては面白そうなので、こんなこともやってみてはいます。Xt13〜16ではメモリは「インターリーブ」で動作しているのではないかという仮説も出されていて、ITFの中身から書き換えるなら、横置き機でもメモリ構成決め打ちでインターリーブにできるかも?という興味は残っています。

 Cバスだけ使うとしても山猫機は遅いという特徴しかありません。案外、Cバスボードのみで、CPUを80MHzのオーバークロックで使うのはありかもしれません(ただしメモリは良い物を)。

 本体より後に現れたPCIデバイスがことごとく使えないことから、DOS以外のOSもWindows95とNT3.51止まりで十分です。Windows98SEやWindows2000については山猫機で使う意味がありませんし、実際動作するかも怪しいです。

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