『ダウンタイム』(Plastic Beauty)
   第1話「アプデの神」
   第2話「口角を上げる」
   第3話「「未来」を、整形する」
   第4話「娘たち」
   第5話「「過去」を、整形する」
   第6話「秘密」
   第7話「神の手」
   第8話「壊れる」
監督 Yuki Saito

 お薦めを受けて第1話と第2話を視聴ところ、全8話ということらしい。養生期間を意味する標題がなかなか意味深長だ。少し養生すれば大概の事には持ち堪えられるのが人間だと言わんばかりの作品のようだ。
 監督のYuki Saito 作品は、ちょうど十年前に『古都』を観た覚えがある。「映画の冒頭、見事な機織りを見せる西陣に東山魁夷を想起したら、エンドクレジットに東山魁夷夫人の名が現れて思わずにんまり。 世界に冠たる文化と歴史の街、パリと京都を結んで、自然の風物、街の佇まい、呉服、書、絵画、日本舞踊と視覚に訴えるものばかりが目立つという実にカメラが雄弁な作品で、時制や場所柄で色調も変え、アングルやポジションにも凝っていたように思う。 未読の原作では、これらを川端康成がどのような文章にしていたのだろうとむしろそのことに感心させられるという妙な感覚が湧いてきた(笑)。」との観賞メモが残っていた。
 まだ後、6話ある。さて、これからどう暗転していくのやらと、腕利き外科医の沼田文(松岡茉優)の弟である尊(武田創世)の不穏が気になった。文の言っていた美容整形など「人体に対する侵略」との言葉が印象深く、“神の手”を標榜する遠山美容外科クリニック院長の凜(仲里依紗)の言った「この世界に病気じゃない人なんていない」との台詞が本作のキーワードのような気がした。

 翌々日に観た第3話と第4話では、余命幾ばくもない老女の坂下ゆり子(研ナオコ)だけでなく、小澤真海(野呂佳代)の望んだ女性器整形、さらには宝田萌乃(古川凛)の小学生整形とまぁ、いやはや何ともな整形事情が描かれていた。必ずしも悪い事とばかりは言えない側面を映し出し得ていて、人間の不埒なる本性をくすぐって金儲けに邁進させるうえでは、こういう是非の物差しの揺らぎが必須なんだなぁと改めて思った。“神の手”を標榜する院長の遠山凜(仲里依紗)のキャラ変をうまく使いながら、沼田文の揺らぎを描いていた気がする。

 三日後に観た第5話と第6話では、美容整形の光と影というか、闇を明るみにしつつ功をも描き出していた前半の趣きから離れ、何やら因縁深い血族物語になって来るとともに、住いの佇まいと腕前の際立ちがどこかドクターXめいてきて笑ってしまった。そして、整形依存の年増キャバ嬢を演じる安達祐実の凄味に恐れ入った。

 その二日後に観た第7話と最終話では、最終話まで観ると、結局この遠山新(渡部篤郎)なる翻弄男はなんなんだ?という話に落ちてきてしまっているように感じた。振り回された人々は、皆それぞれ逞しくサヴァイヴァルしていたけれども、それで目出度し目出度しという気分にはならず。
 それにしても、沼田妙子(永作博美)の新に対する根深い確執の原因は、結局のところ何だったのだろう。

*コメント
(ケイケイさん)
 「私がバカだったから」という妙子の台詞はどう思いました? 私は新が元々冷血で、妙子が賢い女性でないから、自分たち親子を捨てた、みたいに思いました。元々結婚もしていなかったんじゃないかなー。戸籍謄本って、そんなに身近なもんじゃないでしょう?だから父親が空欄でも、文は解らなかったのかも。新は自分で余命がそれ程ないみたいなセリフがあったでしょう? それでムクムク瞼の娘を探し回ったんじゃないですかね? それまでは賢さには拘ったけど、血統というか、自分の直系という意味の血には、拘りなかったんじゃないかな?

ヤマ(管理人)
 この台詞は、妙子も新もともに文に向けて発してなかったかねぇ? 妙子のほうは文にも受け継がれている“異様なまでの意地っ張り”を棄てられなかった自分のことを言ってるように感じた。
 僕は「新が元々冷血で、妙子が賢い女性でない」とは観てなくて、新のほうは、これも文に受け継がれている“自分がこうと決めたら貫徹させないではいられない独善性というか硬直さ”と“素直な感情表現のできない不器用さ”ということを思ったなぁ。妙子に送金していた一億円がふたりのそれを象徴していて、ヤマダタロウ名義で巨額を送金する新にしても、どんなに困窮しても金輪際それには手を付けなかった妙子も、どっちもどっちの破格さだよね。
 でも、神の手のみならず両者のそういう部分を受け継いでいる文には、幸いにして尊がいたから、生まれ変わることができたけれど、それでもあれだけの葛藤と苦衷を抱えたわけで…。文にとっての尊のような肉親の存在を、一人っ子だったと思しき新は得ていなかったから、文のように脱皮することが叶わなかったんじゃないだろうかね。

(ケイケイさん)
 うんうん、ヤマさん説は大いにありですね。私が意地っ張りでバカだったというの。私が賢くないと書いたのは、人間性じゃなくて頭脳の事です。新はその逆なのは、明白だしね。新が直ぐに妙子を見限ったのではなく、そこに色々あったろうから、あの一億円なんだとは思います。
 あれほど妙子が美容外科を嫌ったのは、私はやっぱり自分たち二人を捨てたからだと感じたんですよ。一億円手付かずだったのは、女としての矜持を感じて、天晴ですよ。クソババア!と罵った文の気持ちも解るし、骨箱蹴り飛ばすシーンも良かったわ(笑)。
 新の母親は自死していて、祖母が「あの女は経歴も顔も偽物」と新に告げていたでしょう? 嫁ぎ先の人が、そうまでして結婚したかったのかと哀れに思うのか、憎悪するのかで、子供(新)への影響は、全然違うと思うんですよ。父方は悪意に満ちていますよね。よく解らない、歪な新の人間性は、ここからが始まりですよね。
 尊の存在は、同意です。それと高志!私この人好きなんですよ。ダメダメだけど、ろくでなしではないですよね。「一億円くらいなら、三人で頑張って」って、返せません(笑)。基本的に文の家族は、皆短所はあれど基本は善人です。精神科時代に先生が仰っていましたが、精神疾患は遺伝するが(精神に限らず病気全般そう)、人格障害は環境が作ると聞きました。なので妙子と文のアルコールの依存性や、文の人格形成を観ていて、こういう事かと思いましたね。

ヤマ(管理人)
 >うんうん、ヤマさん説は大いにありですね。
 ありがとー。

 >新が直ぐに妙子を見限ったのではなく、そこに色々あったろうから
 新が見限ったのかなぁ。新の不用意な心ない振舞いに妙子が怒って後先考えずに文を連れて出て行ったような気がしている。劇中では明かされなかったけれども、そのへんの事情が知りたかったんだよね。同様に美容整形嫌いについても…。新憎しが美容整形嫌いになったのか、美容整形絡みの何かによって美容整形を毛嫌いするようになったのか、いずれにも描かれてなかった気がするね。

 >一億円手付かずだったのは、女としての矜持を感じて、天晴ですよ
 手を付けたくない気持ちは分らなくもないけど、やっぱそこは愚かだと思うから(笑)、とても天晴とまでは言う気にはならないけど(たは)。
 新の歪さに家庭環境が作用しているとの観方は僕も同じだな。亡母を慕う気持ちや孤高に立つことへは向えない新は、それゆえに冷血漢だとは思えないんだけど、成育歴のなかで随分と歪められてきたのではないかという気がするんだよね。

 >基本的に文の家族は、皆短所はあれど基本は善人
 弱さや未熟さ、多少の計算高さは見せても、本作の登場人物にあからさまな悪人はいなかったように思うよ。医師、看護師、患者、政財界人をも含めて。「人格障害は環境が作る」というのはそのとおりだと思うね。さればこそ可塑性があるわけだから、脱皮も更生もあり得るということだよね。

(ケイケイさん)
 妙子のうわ言で、私がバカだから、あの人が出ていった、と言ってませんでしたっけ? 色々含みのある台詞ではあります。愚かだけど、そこまで意地っ張りは天晴れですよ。私には出来ません(笑)。
 私は文が酒浸りの時、尊から、「今の姉ちゃん、ダメなときのママと一緒じゃん」と言われて、立ち直るのが印象深いですね。自分にもそういう気質を受け継いでるかどうか、自覚の有り無しで、人生左右されますよ。

 悪人はいますよ。新の後妻とか。絶妙に嫌らしかったです。後から来た分際で、何であんなに凛に偉そうなのか? と思いました。新も悪人ちゃ悪人ですよ。いくらなんでも、赤ちゃんの時から育てた養女に、あの仕打ちは出来ません。凛の限界を感じて、私は文を探したんだと思います。文の一連の流れをしくんだのは、黒幕は新でしょう? 全部篠井英介に報告させてたと思います。

ヤマ(管理人)
 自覚の有り無しで、人生左右されます、というのは全くそのとおりだねー。極論すれば、自覚を促してくれる人の存在を得ているか否かで人の人生は決まるように思うなぁ。ある意味、本人の持って生まれた資質以上に。

 悪人はねぇ、多少の意地の悪さや見境の無さくらいじゃ、“あからさまな悪人”とまでは僕は思わないけど、嫌な奴だということに異論はありません。新の見せた剛腕は、凜の限界を感じてというよりは、自分を蔑ろにして継承路線を棄てた凜の思い上がりに対する懲らしめのほうが勝っている気がした。いずれにしても、度が過ぎているのは間違いないけど。

 だから主眼はおっしゃるところの「文の一連の流れ」ではなくて、凜潰しにあって「文の一連の流れ」は手段のように思ってた。なので、突如、血などと言い出したことに魂消たね、なんじゃこりゃ?ってなもんで(笑)。高階(篠井英介)に報告させていたというのは、確か劇中でも明かされていた気がするし、その通りだと思う。
by ヤマ

'26.10. 5.~12. Netflix配信動画



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