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| 『斬る』['62]<4Kデジタル修復版> 『剣』['64]<4Kデジタル修復版> 『剣鬼』['65]<4Kデジタル修復版> | |||||
| 監督 三隅研次 | |||||
| 今度の合評会は「剣三部作」とのことで、第一作のみ既見ながら三部作と言われれば、順に観るのが相当だろうと第一作『斬る』から観ることにした。十三年前に観て以来の再見だ。当時の観賞メモに「三隅ファンの先輩から託されていた作品をようやく観た。わずか71分の映画だが、なかなか中身が濃かった。お話はまぁどうでもいいのだが、とにかく絵柄が綺麗だ。そして、絵柄以上に、気丈な佐代を演じた万里昌代の肌が綺麗だった。 わずかに膨らみの偲ばれる胸元をのぞかせるだけで房も見せなければ尻も見せない出し惜しみだけど、何とも刺激的だった。いやぁ、昔の映画のサービスショットって、今時の映画のように男の裸体じゃなく女の肌だから嬉しいよね(あは)。背中と胸元だけでもあれだけ綺麗だと、大満足だった。」と残してあった。 お話は「まぁどうでもいい」と書いてあるだけに随分と乱暴で、脚本を担った新藤兼人の力業だという気がする。とても原作小説【柴田錬三郎】があるとは思えないのだが、とにかく構図に凝ったスタイリッシュな画面に魅了される映画だと改めて思った。撮影は本多省三とのことだが、構図は監督が絵コンテで示していたものなのだろう。 母藤子を演じた藤村志保のアップで始まった無音のアバンタイトルの緊迫感の持続と、高倉信吾を演じた市川雷蔵に似つかわしい虚無のなかに仄かに立ち上る雅の加減が好く、未見の二作を残して、三部作では本作が随一に違いないと早々に思った。4Kデジタル修復版だからか、万里昌代の肌は記憶にあるより一際、美しかった。 第二部の『剣』は時代劇かと思いきやモノクロの現代劇で、大いに意表を突かれた。原作も三島由紀夫とのことだ。またもや眼が印象深い顔のアップから始まった。だが、スタイリッシュなのはオープニングクレジットだけであって『斬る』のように凝った画面が繰り広げられるわけではない。その部分は専ら登場人物のキャラクター造形のほうにあったように思う。 東和大学剣道部主将の国分次郎(市川雷蔵)の己が美学に殉じた些か生硬な生き方にピュアよりもナルシズムのほうを強く感じさせ、三島原作の映画化作品として大成功しているように感じた。四十分間、身動ぎもせずに正座罰を堪え、唯のライバルとは違う「俺の存在の実証的対照」だと言って、誰よりも国分に対抗意識を燃やしていた賀川(川津祐介)のほうが、より多くの部員たちから慕われるのはもっともな気がした。「若い者の反目は一種の友情だよ。社会に出ると、そうはいかん」と言っていた木内監督(河野秋武)が最後に「国分を死に追いやったことを恥じよ」と自身をも含めて戒めていたが、劇中でも言われていたように国分は「生きることに負けたんじゃない」ことがよく判るだけに却って始末が悪いように感じられた。 木内教授の「恥じよ」に促されるまでもなく、おそらく誰よりも自責の念に駆られていたであろう壬生(長谷川明男)の国分からの問いに対する虚偽証言への悔恨を思うにつけ、独り善がりにまさる不徳はないものだと改めて思ったりした。囲い者を抱えていると思しき国分の父親(稲葉義男)が息子に向けて諭していた“汚濁のなかの生き甲斐”を全面的に肯定するものではないが、賀川の言っていたような“欺瞞”ではないだけに一層タチの悪い“独善的ピュア”の罪深さを思ったりした。 壬生の国分への答えは嘘だったが、国分を誘惑した伊丹真理(藤由紀子)の賀川への回答と国分追悼の場に現れての証言の、いずれが事実とは異なるものだと受け取ったか、合評会のメンバーに訊ねてみたいと思った。僕は真理が賀川に言った「後悔してるの」の後に理由を問われて「夢が壊れたから」との台詞の意味深長さから、真理は国分の攻略を果たしたように受け取っている。追悼の場に現れて「あの人、私に何もしなかった」と泣きながら訴えていたのは、壬生同様に自分の行為が国分を傷つけたことへの悔恨と賀川が自分との約束を破って部員たちに話してしまったことへの憤りと非難からのもののように思えた。壬生も真理も自分の行為が国分を自死に向かわせた一因のように感じていた気がする。それは逆に言えば、国分の自死が二人に与えた傷でもあるわけだ。 真理が言っていた後悔は、真理の挑発に負けた国分が事後に見せた醜態のなかで漏らした不用意な言葉だったのではなかろうか。そこにダメージを受け自己嫌悪に陥っていたであろう国分が、自分への信奉者と自認していた壬生の裏切りにも会って深い絶望と自己否定に到った気がしてならなかった。その意味から、真理の挑発への敗北と自己嫌悪というものは決定的であるように思う。国分が合宿日誌にしたためていた「俺は統率者の資格がない。強く正しい者になるか、自殺するか、二つに一つである」との言葉が壬生と真理、更には賀川に遺したであろう傷は、ほとんど相討ちに足るものだったような気がした。主要人物皆人が実にスタイリッシュな自己表現と探求をしている人物だったように思う。 原作が柴田錬三郎に戻った第三部『剣鬼』は、眼が印象深い顔のアップから始まる開幕が、なんと犬に転じていて恐れ入った。剣鬼ではなく犬鬼かと笑っていたら、驚くことに犬っ子と呼ばれる班平(市川雷蔵)が、特技を持てとの養父の遺言に従い、花卉栽培の次に居合術の名人となり、人斬りに勤しむようになるという奇譚だったから、やはり犬鬼ではなく剣鬼ではあったのだが、健脚ならぬ犬脚をも発揮する剣客という、まるで駄洒落の冗談のような話でいささか呆れた。 柴田錬三郎の小説は一作も読んだことがないが、第一部の『斬る』以上のトンデモ話で、その名を冠した文学賞もあるのに、こういう話を書いた作家なのかと驚くとともに、第一部の力業も新藤兼人以上に原作者にあったのかと思い直したりした。 居合術と剣術は別物と説いていた師匠の醍醐弥一郎(内田朝雄)との関係には、ある種の美学が感じられたものの、城代家老を狙っていた神部(佐藤慶)から逃亡を誘われながらも応じなかったとはいえ、斑平は第二部の国分のように己が美学に殉じたわけでもなく、ただ妖刀を振り回して死んでいった気がしなくもない。さりとて第一部ほどにスタイリッシュな画面が冴え渡っていたわけでもなく、どっちつかずの斑な按配が斑平の名に相応しいという珍作のような気がした。 同年輩の男三人が集った合評会では、意外にも現代劇の『剣』のほうが『斬る』を上回って支持作として挙がり、些か驚いた。だが、欠席したメンバーから予め届いていた不在者投票を加えると、二対二のイーブンとなった。てっきり『斬る』のほうに支持が集まり、僕だけになるだろうと思っていた『剣』を支持したもう一人のメンバーは、主題性というか文学的香気から支持したようだ。 合評会で訊ねてみたいと思っていた真理の誘惑に国分が屈したか否かについては、『剣』を支持したほうのメンバーが、自分の願望かもしれないが、国分には貫いてほしいとの思いから、誘いに乗らなかったと観ているとの意見で、『斬る』のほうを支持したメンバーは、作劇的にはどちらもあり得るとしているけれども、映画の運びとしては、やはり賀川に言ったことは真理のプライドが言わせた虚言であって、国分の死を受けて彼の名誉を守るために虚言の撤回をしたと観るべきものだろうとの意見だった。 僕も「夢が壊れたから」という台詞が添えられていなければ、そのように受け取った気がするけれども、本作においては、国分の自死には壬生の証言以上の重みをもって真理からの誘惑に抗しきれなかった自身への嫌悪と敗北感が影を落としているように感じている。“汚濁のなかの生き甲斐”を口にした父親への憤りが自分自身にも跳ね返ってきていたところに、壬生の証言が追い打ちを掛けた結果としての自罰的自死だったように思う。それはまた心を鬼にして副主将の賀川に屈辱の正座を課した自分に対する国分流の落とし前でもあったような気がする。 すると『剣』を支持したメンバーから伊丹真理の存在は原作小説にはないものだとの付言があった。これについては、僕も仄聞していたところではあったが、やはりそうなのかと得心が湧いた。原作小説は未読なので、小説での国分の死にどれほどの唐突感があるのかは判らないが、真理との間の出来事抜きでの国分の死となれば、その唐突感は更に増したような気がする。そうでなくとも不在者投票のメンバーからは「國分の死が唐突で納得できなかったのですが、あとで三島の原作だと知り、三島なら書くだろうとは納得しました。」との付言があったくらいだ。伊丹真理を登場させると三島作品とは別物になるとは思うけれども、別作品としての妙味はぐんと増しているような気がする。知的で誇り高く気の強い意志的な女性の魅力を藤由紀子がよく演じていたとの意見があったが、実に同感だ。そして、嘘と事実が歴然としている壬生の証言と対置させ、肝心の場面を挑発に乗る姿も敢然と辞して去る姿も映し出さずに配している妙味に感心した。脚本を担った舟橋和郎の見事な潤色だと僕は支持している。僕が『剣』のほうに票を投じた最大の理由だ。 ともあれ今回も課題作抽出への賛辞が寄せられた。主宰者によれば、かつて名画座などでの特集上映ではよく取り上げられた、特に変哲もないものだとのことだったが、僕ももう一人のメンバーも今回プレゼンテーションされなければ観ることもなかった二作品だ。時代劇と現代劇を織り交ぜながら、キーワードたる“スタイリッシュ”で貫き、三作とも眼が印象深い顔のアップから始める意匠といい、そのスタイリッシュを、映像美の第一部、人物像の第二部、コミカルにも挑んだ第三部、として並べた企画的面白さといい、なかなか味わい深い三部作だったように思う。 | |||||
| by ヤマ '26.10. 2. BS12録画 '26.10. 3. BS12録画 '26.10. 4. BS12録画 | |||||
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