『ホドロフスキーの虹泥棒 』(The Rainbow Thief)['90]
監督 アレハンドロ・ホドロフスキー

 積年の再見希望だった『サンタ・サングレ/聖なる血』['89]のスクリーン観賞をこの夏に果たしたら、思いがけなくも、ホドロフスキーの未見作品を観る機会を得た。オープニング・クレジットにピーター・オトゥールに続いてオマー・シャリフが現われ、往年の『アラビアのロレンス』['62]じゃないかと思ったら、遺産相続を巡る人間模様の醜悪さに辟易して地下生活者になったと思しきメレアーグラ(ピーター・オトゥール)と、早晩彼の手に入る筈の相続遺産の分け前を当てにして従者に雇われたディマ(オマー・シャリフ)との腐れ縁的友情物語になっていたように思う。

 吸血鬼ドラキュラで名高いクリストファー・リーが登場していた場面と見世物小屋の場面は目を惹いたけれども、お話がしょぼくてオマー・シャリフの熱演が充分に活かされていない、些か勿体ない出来栄えだったような気がする。

 人間なるものの醜悪さに絶望していると思しき大富豪の貴族ルドルフ・フォン・タナー(クリストファー・リー)が晩餐会で飼い犬に最高級シャンパンとキャビアを振舞い、遺産分配計画に集った訪問客には骨を与えて饗応する場面にブニュエル作品を想起し、彼らを撃退するルドルフの雄姿と共に流れる♪ワルキューレの騎行♪に『地獄の黙示録』['79]を思い出した。娼館を営むマダム・レインボウ率いる七人のレインボウガールズがカラフルな下着姿で屋敷を訪れて八人掛かりでもてなすなかで、心臓発作を起こしたルドルフの仮死状態による相続協議の中断期間が、本作に描かれた「地下生活者の手記」もどきのように映ってくる作品だった。

 九年前に観た『エディット・ピアフ~愛の讃歌~』['07]のなかで印象深く使われていた♪水に流して(NON,JE NE REGRETTE RIEN)♪が本作でも流れていたが、最後は、まさに圧巻の洪水場面だった。けっこう製作資金を投じたことが偲ばれる画面だったように思うのだけれども、これまでに観てきたホドロフスキー自身が脚本を書いていた作品群と違って、些か見劣りがしたのは、脚本を担ったベルタ・ドミンゲス・Dがヘンにホドロフスキー世界を意識して拵え物的な物語を書いたことによるような気がした。ときにフェリーニ作品も思わせる絵巻物のように映る物語の展開に劇中に使われていた♪Dem Bones(The Skeleton Song)♪のような軽やかさがあれば、もう少しテイストが変わってきたような気がするけれども、そうはなっていなかった。
by ヤマ

'26.10.25. DVD観賞



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>