戸倉山( とくらやま)                              [南信] 1681

 

 1月に静岡の青笹山から雪の南アルプスを眺めたので、今度は中央アルプスの展望を求めて伊那谷の戸倉山に向かう。

 中央道の駒ヶ根ICを出て東へ。前方には仙丈ヶ岳が聳え、背後には木曽駒が迫る。今日もいい天気だ。

 登山口の戸倉山キャンプ場に着いた時には既に車が止まっていて、先行者が身支度をしていた。松本ナンバーなので地元の人だろう。
 いつも車に忘れ物をするので、今回は時間をかけて出発準備をする。その間に先行者は出発していった。
 

戸倉山キャンプ場の駐車場

 

 今日はスマホアプリの「ジオグラフィカ」を用意してきた。スマホのGPSを使い、電波が届かないところでも2万5千分の1の地形図に現在地や歩いた経路を表示してくれるもので、毎日の犬の散歩では実証済みである。今回のように地図上に登山道が表示されていないルートでは、現在地が正確に判って有効だろうと思う。もちろんプリントアウトした地形図も持参している。

 冬季休業のキャンプ場の車道を少し登り、道標に導かれて右手の作業道に入る。沢沿いにヒノキの植林地を少し進んだ後、今度は左手の斜面に取り付く。ここから登山道らしい道になる。すぐに支尾根に上がり、植林の尾根道を進む。

 赤松の大木が現れたので駒止の松かと思ったら、何の案内板もない。なおも尾根を進むと再び大木があり、こちらが駒止の松だった。もっとゴツゴツした樹を想像していたが、真っ直ぐに幹を伸ばしたさほど太い樹ではなかった。昔はこの松に馬を繋ぎ、草刈りや柴刈りをしたらしい。

駒止の松

 

 ここから支尾根を離れ雑木の斜面をジグザグを切りながら登っていく。ミズナラが多く、高度が上がるにつれてブナも混じっているようだ。
 歩き始めから登山道の所々に雪が残っていたが、少しずつ量が増えてきた。ただ、まだ滑り止めを付けるほどではない。雪の上の先行者の足跡を踏みながら登る。

 上の森コースを右から合わせるとまた尾根らしい道になる。こちらが主稜線といった感じ。右手は赤松林、左手はカラマツ林でその間を縫うように進む。この山はなぜか赤松が多い。気候が寒いのでマツノザイセンチュウがはびこらなかったのだろうか。

落葉樹のトラバース道

 

 ガイドブックスに展望ベンチとあるところで先行者に追いつく。単独行なので男性だと思っていたら女性だった。
 ジオグラフィカで現在地を確認すると、1485mの標高点のすぐ手前だった。なかなか便利である。

 林の中で展望など利かないじゃないかと思って振り返ると、ちょうど空木岳の方向だけ樹林が切れていた。山頂付近はまだまだ真っ白。残念ながら木曾駒の方は見えない。

展望ベンチからの中ア・空木岳

 

 1485mの標高点からは少し積雪が深くなる。ただし、傾斜は緩やかで歩きやすいのでまだ滑り止めは大丈夫。

 次のポイントは金明水の休憩所。なぜか梁から鍋が吊り下げられている。すぐそばの斜面からパイプが突き出ていてバケツが受けてあるのでこれが金明水らしいが、水は出ていない。休憩所の周りはツツジらしき灌木が多い。
 ここから最後の急登になる。雪がまた増えてきたが、ストックを頼りに登ってしまう。

金明水の休憩所

 

中央アルプス全景

 

 金明水から20分ほどの登りで戸倉山の西峰に到着。山岳信仰の山ではないはずだが、山頂の一角に虚空蔵菩薩像が建っている。
 西側は樹林が切り開かれていて中央アルプスの山並みが一望の下に見渡せる。う〜ん、登ってきた甲斐があった。ただ残念なことに宝剣岳のあたりにだけ雲が懸ってしまった。ちょっと遅かったかぁ。
 

 こうやって眺めると、伊那盆地から屏風のように中央アルプスが立ち上がっているのが良く分かる。
 地図で見ると、盆地の中には田切という名前の付いた川がアルプスの麓から天竜川に向かって何本も流れているが、この山頂からは、川に沿って残された樹林が筋のようになって盆地を区切っているのが良く分かる。 

 設置されている展望図には北アルプスの白馬岳まで見えるらしいが、今日は北の方は雲に覆われている。

右から空木岳、南駒ヶ岳、仙涯嶺、越百山

 

 嬉しいことに、山頂からの展望は中央アルプスだけではなかった。振り返ると南アルプスの峰々が間近に迫っていた。特に仙丈ヶ岳が大きい。仙丈ヶ岳は南アルプスの女王と言われているので、たおやかな感じがしていたが、ここから見る仙丈は山頂付近の荒々しい崩壊壁が正面に迫っていて、今までの印象を一変させる。
 山腹から下は前衛峰に隠されているが北岳、間ノ岳、農鳥岳の白根三山も良く見える。塩見岳は見慣れた西洋兜のドーム型ではなく、黒々とした岩壁の鋭い姿を見せている。なおもその右手には手前の二児山を挟んで荒川岳から大沢岳にかけての白い峰が逆光に霞んでいる。
 南アルプスの展望台としても良いところではないか!

仙丈ヶ岳アップ
 
北岳(左)、間ノ岳

塩見岳

 

戸倉山(西峰)山頂

 

左から荒川前岳、赤石岳、聖岳、大沢岳

 

 東峰の方へも行ってみる。
 西峰のすぐ下に小さな避難小屋があり、中を覗いてみると土間はなく畳2畳分くらいの広さで、意外にきれいだ。

 ここからは一段と雪が深くなる。20p以上はありそうで、先行者の足跡をたどらないと靴に雪が入りそうだ。わずかな距離なので強硬突破しようとしたが、山頂直前で滑ってこけた。少し靴に雪が入る。まずいなあと思いながら何とか東峰の山頂にずり上がる。

西峰と東峰の間にある避難小屋

 

 こちらからは西峰では見えなかった甲斐駒が望める。甲斐駒もカッコいいがその左手の鋸岳が目を引く。雪の付いていない三角の黒い峰が並び、その名のとおり鋸のように見える。鋸岳は二百名山だが、この険しい峰に登るのは難しい。はてさて今後、登る機会があるだろうか。

 東峰の方が風当たりが強くて寒い。スパッツを付けようとザックを探すが見当たらない。中の物を出して覗くが見つからない。仕方ないのでこれ以上転ばないようにチェーンスパイクを履く。滑り止めを付ければこの積雪でも不安なく歩ける。西峰に戻る。

東峰山頂の薬師如来像

 

鋸岳(左)、甲斐駒ヶ岳

 

甲斐駒ヶ岳(左奥)、仙丈ヶ岳

 

 さっきは雲に隠れて見えなかった宝剣岳や木曽駒が今度は見える。右に中央、左に南と両側にアルプスを眺めながら昼飯にする。今日は思ったよりも北風が寒い日だが、木の陰の風が当たらないところでは陽射しが暖かい。久しぶりに食べる「出前一丁」のカップヌードルがうまい。
 また一人単独行の中年の女性が登ってきて、僕より先に下って行った。

宝剣岳、伊那前岳、木曾駒ヶ岳

 

 下山は同じ道を戻る。スパイクが効いて快調に下る。
 展望ベンチでチェーンスパイクを脱ぎ、ふとザックを見るとスパッツがあるではないか。いつもと違う袋に入れていたので見えていたのに気付かなかったのだ。寒くて焦っていたのも一つの原因だろう。こんな些細なことが単独行では場合によっては命取りになる。気を付けねば。 

 戸倉山ルートマップ


[山行日] 2017/3/24( 金)
[天気] 晴れ   2017年3月の天気図
[アプローチ] 中央道・駒ヶ根IC ( 県道49号、210号) → 竹ノ沢 →戸倉山キャンプ場駐車場       [約15km]  
      
・竹の沢からは一車線の細い道。舗装はされている。分岐には「戸倉山キャンプ場」の標識がありわかりやすい。
・10台程駐車可。トイレなし。
[コースタイム]  
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:05 9:05 戸倉山キャンプ場P 出発    
9:35 駒止の松    
9:55 上の森コース分岐    
10:10 展望ベンチ 0:05  
0:35 10:15  
10:30 金明水 東屋    
10:50 戸倉山(西峰)山頂 0:20  
0:10 11:10  
11:20 戸倉山(東峰)山頂 0:15  
0:10 11:35  
11:45 戸倉山(西峰)山頂 (昼食) 0:45  
0:20 12:30  
12:50 展望ベンチ 0:05  
0:40 12:55  
13:05 上の森コース分岐    
13:15 駒止の松    
13:35 戸倉山キャンプ場P 到着   4℃
3:00     1:30 4:30
登り 1:50        
下り 1:10        
 
[地図] 市野瀬 (1/25000)
[ガイドブック] 戸倉山トレッキングマップ (伊那市観光協会公式HP)
[装備] シングルストック、チェーンスパイク

 

[温 泉] 露天こぶしの湯
・駒ケ根高原家族旅行村内の日帰り温泉施設。
・610円(60歳以上100円引き)
・ボディーソープ、シャンプー、ドライヤーあり。
・露天風呂あり。南アルプスの展望図があるが、植え込みが邪魔でよく見えない。
[風景印] 中沢局
 (長野県駒ヶ根市中沢4069−1)

・図案
  天竜大橋、駒ヶ岳