池木屋山(いけごややま)                      [台高]  1396m


高見山から続く

 寒くて夜中に目が覚めた。腕時計をみるとまだ12時。朝まではまだ、ずいぶんある。
 早朝から歩き始めるために登山口で車中泊する予定でやってきたのだが、高速道路を走っている途中でシュラフを忘れてきたことに気がついた。Uターンしようかとも考えたが、さすがに 岡崎から四日市まで来て戻る気もしない。考えた末、松阪ICで高速を降りて、ホームセンターでシュラフを 探すことにした。今の季節ならば、きっとファミリーキャンプ用に売っているだろう。
 インター近くのコンビニでホームセンターの場所を聞き、行ってみたら狙い通り。封筒型のスリーピングバッグ2,980円。ついでに390円で枕も買った。対応温度が14℃で、それよりも2℃低い3,980円の物もあって迷ったが、 「まあ、取り敢えずの物だから。」と安いのを買ってきたが、それが間違いだった。
 結局、我慢してそのまま寝ていたが、それから何度も目が覚め、最後は寝ていられなくなって予定より早めに起きる羽目になった。

 ラーメンの朝食を食べ、6時に歩きだす。陽は射していないものの、あたりはもう充分明るい。杉林をやや下りながら進むと、渓谷沿いの道になる。高滝までは遊歩道 が整備されていて、鉄製の橋や階段がたくさん架かっている。

 一か所、遊歩道が崩れていて、標識に従って谷底に降り、しばらく流れのすぐそばを歩くところもある。

林道終点の登山口
 

遊歩道が崩れていて、谷底を歩く箇所
 
桟道もある
 

 遊歩道は高巻をしたり、桟道を渡ったりと変化に富んでいる。谷はかなり深く、急峻だ。増水した時には、通行が難しいところもある。
 

 風折滝分岐の先の先にイワザクラが咲いている岩壁がある。ガイドブックにも紹介されているのだが、写真が載っていないのでおかしいな、と思っていたのだが、現地に立ってみて理由が分かった。イワザクラが咲いているのは岩壁のかなり上の方で、しかも谷底で暗い。写真に撮るには望遠レンズで三脚を使わなければブレてしまって、とても無理だ。保護のためにはあまり写真が出ない方がいいのかもしれない。

風折滝分岐の手前に架かる橋
 

 風折滝分岐から10分少々で高滝の下に到着。分岐から谷が曲がって西向きになっているので、丁度、 稜線を出た陽の光が正面から滝を照らしている。高滝というだけあって、ここまでの滝とはスケールが違う。高さは50mほどあるらしい。一筋に落ちる姿は豪快というよりも、清々しさを感じる。

 さて、ここからがこのコースの最大の難所。滝の右手(左岸)から大きく高巻をして滝の上に出なくてはならない。流れを石伝いに飛んで対岸の斜面に取りつく。樹林の中ではあるが傾斜はきつく、トラロープを頼りに高度を上げていく。ザレた斜面もあって、石を落とさないように注意しながら行く。
  斜面をずいぶん上まで登った後、岩場のトラバースになる。ここは高度感があって、かなり怖い。ロープに掴まりながら、頼りない足場に冷や冷やしながら進むと、岩場にお地蔵さんがあり、その先はやや下りになって高滝の落ち口のすぐ近くに辿りつく。核心部はここまでで、この先はやや楽な道になり、猫滝も巻いてその上の谷に降り立つ。


 

 実は4年前の2007年のGWにも池木屋山を計画したことがあった。その時は、4月29日に入山した人が行方不明になっていて、捜索活動がされている 最中だった。その中を登るのは少々気がひけたので、行き先を明神岳・桧塚の周回コースに変更したのだった。登山口には今もその方の情報を求める看板が立っていた。 まだ、見つかっていないようだ。
 このコースは時々滑落事故が起きるらしくて、登山口には安易な入山をしないよう注意看板が出ている。

猫滝
 


 猫滝を巻いたところで右岸側に渡る。道は流れに近づいたり離れたりしながらトラバース気味に続く。また谷の方向が南寄りになったので、あまり陽は射さないが、新緑で谷の感じは明るい。谷もやや浅くなったようだ。

 流れの音もあまりせず、他に登山者もおらず、本当に静かだ。どこからか山桜の花びらがはらはらと落ちてくる。見上げても淡い逆光でどこに桜の木があるのか分からないのだが、いくつもいくつも落ちてくる。 先に進んでも、いつも視界の中に何枚かの花びらが落ちていく。それがずっと続く。不思議な感じだ。落ちてくる花びらだけが、目の前の景色がスチール写真ではないことを教えてくれる。

沢沿いのトラバース道
 

 2万5千分の1の地形図にあるドッサリ滝はどこだか分らなかったが、猫滝からかなり進んだところでやや大きな滝に出会う。道はまた左岸に渡り山腹を登って高巻くことになる。踏み跡程度のジグザグ道を喘ぎながらかなり登ったら、ややはっきりした道に出た。こちらが正規ルートのようで、赤や黄色のテープを辿りながら慎重に登ってきたつもりなのに、いつのまにか外れてしまっていたようだ。テープは こまめに付けられているのだが、標識の類はほとんどないので、踏み跡を探しながら行きつ戻りつしていると、どちらに向かっているのか分からなくなってしまって気が抜けない。

 高巻から沢筋に戻るとじきに奥の出合に着く。ザックを下して一休み。流れの溜りには桜の花びらが吹き寄せられている。
 ふと後ろを見ると低い石積みになっていて、炭焼き窯の跡のように見える。こんなところまで炭焼きに来ていたのかぁ。そういえば明神岳へ登る谷筋にも窯跡があった。今の感覚だと人里離れた寂しい場所のように思われるが、昔は山での仕事があたりまえで、そんなに奥山という感じではなかったのだろうか。

奥の出合
(山頂へは奥の斜面に取りつく)

 

 奥の出合から斜面に取りつく。そのまま山頂への尾根になるのかと思っていたが、尾根を乗っ越してまた谷へ下っていく。地図で確かめると、山頂へ続く尾根はもう一つ東側の尾根のようだ。ミソサザイのさえずりが響く谷を渡ってその先の尾根に取りつく。
 ここからはひたすら尾根を登る。落葉樹にモミやコウヤマキなどの針葉樹が混じるようになり、岩場にはミツバツツジやアケボノツツジが文字通り花を添える。シャクナゲ坂とも言われるらしいが、このあたりのシャクナゲはまだ咲いていない。

トサノミツバツツジとアケボノツツジ
 

 尾根の傾斜が緩くなって来ると、周りの樹林が針葉樹からブナに変わってくる。灌木や下草がほとんどなく、公園のような雰囲気になってくる。尾根が広くなってはっきりせず、踏み跡も錯綜していてルートが良く分からないが、取り敢えず高い方へ登っていくと不意に三角点が現れた。山頂のまわりもブナ林が続き、あまり山頂らしくない。わずかに南東の方角に林の切れ目があって、遠く山影が霞んでいる。

奥峰からの眺める桧塚
 

 山頂には3人連れのパーティがいたが、すぐに明神岳の方へ出発していった。僕より先に宮ノ谷を登ったとは考えられないので、台高の縦走かとも思ったが軽装だったので、明神平から池小屋山をピストンしたのかもしれない。
 風を避けるため山頂から少し下がって昼飯にする。気が付けばずいぶん雲が多くなってきて、まだ芽が出てなくて明るいはずのブナ林に薄暗い影を落とす。
 

池小屋山の池、背後が山頂
 
稜線のミヤマシキミ

 さて下山は別ルートを取る。ガイドブックには同じコースを戻るようになっているが、インターネットで登山情報を調べていたら、宮ノ谷の西側の支尾根を辿って駐車場のすぐ近くに下山できるコースがあるのを見つけたので、それを下ることにする。
 まずは台高の主稜線を支尾根の分岐までたどる。山頂からすぐのところに池があり、これが池木屋山の名前になった池らしい。25mプールの角を丸くした位の大きさだろうか。ここも公園の中の池のようで、のんびりしたくなるような場所だが、まだ先は長い。
 その先で単独行の男性とすれ違ったが、この人はテント泊の重装備だった。
 

 小さなピークが幾つかあるので、分岐のピークを通り過ぎないように地図を見ながら気をつけて進む。右手にやや禿げ気味の尾根が近づいてきて、どうやらこれが下山路の支尾根のようだ。分岐点はあまりピークらしくなく、ぼんやりしていると通り過ぎてしまいそうだ。標識も何もないので、若干不安になるが地図からすればここで間違いはない。

 池木屋山を振り返るといつの間にか黒い雲が垂れこめてきている。山頂から東へ延びる稜線は、既に雲が引っ掛かって乗り越えようとしている。こりゃ、 先を急いだ方が良さそうだ。

下山路の支尾根
 

 下り始めははっきりしなかった踏み跡もしだいに道らしくなり、所々赤や黄色のテープが現れ始める。やはりこれで正解のようだ。しかし、だんだん雲が近づいて暗くなり、ぽつりぽつりと雨が落ち始めた。

 30分ほど下ると急に目の前に平坦地が現れた。自然にできたとは思えない感じだが、何だろう。ヘリポートだろうかとも思ったが、そんなにヘリが飛ぶのだろうか。いくら遭難が多いとは言え 、まさかねえ。地形図を見ると1,222mの標高点の先に等高線が間延びしたところがあり、それがここらしい。雨脚が強くなってきたので、雨具を着る。

謎の平坦地
 

  尾根道は細いながらもはっきりしていて、標識はないもののテープは付いている。ヒメシャラがずいぶん目につき、所によってはヒメシャラの純林のようなところもある。

 981m標高点の近くにワイアーの架かった岩があり、岩陰にはワイアーを巻き上げる錆びた大きな滑車も転がっていた。何年くらい前の物かわからないが、索道を巡らせて伐採が広く行われた時期があったのだろう。他にもワイアー が架かった切り株が幾つも目につく。
 近くに残されていた一升瓶や一斗缶などの状態を見ると、意外に最近まで作業が行われていた感じがする。炭焼きといい林業といい、ずいぶん山奥で仕事がされていたのだと感心する。

ワイヤーの架かる岩
 

 雨は小降りになってきたので、暑い雨具は脱いでしまう。普段ならこの程度の雨なら傘で歩くところだが、まさか降るとは思っていなかったので、上下のレインスーツしか持っていなかったのだ。

 866mのピークも越え、なおも下ると右手に大規模な伐採地が見えてきた。鹿よけらしい二重のネットに沿って稜線を進むとネットに登山道と書いた札が下がっている。ここで尾根からはずれて谷に下りていくようだ。ネットを縛ってある紐をほどいて中に入り、また縛っておく。内側のネットも同じ動作を繰り返す。

このネットをくぐって伐採地に入る
 

 伐採地の中は登山道と作業用の踏み跡とが入り乱れていて、どれを下っていいのか迷うところもあるが、 適当に太そうな踏み跡をたどる。かなりの規模の伐採地で、見渡す限り切り株が続く。樹皮が剥がれ、風雨にさらされて白くなった切り株はまるで墓標が並んでいるようだ。
 しかし、切り株の間には30cm程の棒のような杉の苗木が植えられていて、林業地として経営されていることが分かる。さすが林業の盛んな土地だけのことはある。

伐採地の切り株
 

 伐採地の出口はネットではなくフェンスの扉になっていたが、そこからはどこが道だか分からなくなった。右手の下の方に作業小屋らしきものが見えるので、それを目指して下りていく。いつの間にか両側にネットが迫っていて、右手の伐採地、左手の植林地の両方のネットの間を下るようになる。登山者のものらしき足跡はあるが、傾斜のきつい斜面を真っすぐ下っていく感じは正規の登山道とは違うようだ。
 

 ずいぶん下ってふと、気がつくと左手のネットに出口がある。右手のネットにも出入り口があり、どちらも踏み跡が繋がっている。これが登山道のようだ。左手のネットをくぐり樹林地に入る。テープが現れたので間違いない らしい。やれやれ。後はもう30cmほどの直径に成長している杉の植林地の中を下って行くだけだ。

 ジグザグ道をずいぶん下り、やっとのことで林道に降り立つ。橋のたもとで登山道を表す標識は何もない。なんと駐車場のすぐそばで自分の車まで30m程しかなかった。

このネットをくぐって伐採地に入る
 

 いやー、覚悟はしていたけれどかなりハードな山行になってしまった。登りはロープの続く足場の悪い岩場に緊張し、下りは地図にない 、ガイドブックにもないルートで緊張した。ウィークデイとは言え、GWの最中なのに結局2組4人の登山者にしか会わず、もし登山の途中で怪我でもして動けなくなったら、と考えるとちょっと怖くなる。単独で入るコースではなかったと 少々反省する。

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[山行日] 2007/5/5(木・祝)〜6(金)
[天気] 晴れ時々曇りのち雨
[アプローチ] ・高見峠駐車場までは「高見山」のページ参照
 高見峠駐車場 (林道)→ 高見トンネル西口 →(R166号)→ 松阪市飯高町森 (県道569号)→ 蓮ダム (林道:約9km)→ 宮ノ谷林道終点駐車場     [約35km]
・車中泊
・駐車場まで舗装道路。7〜8台は駐車可。
[コースタイム]

 6:00 駐車場 (0:50) 風折滝分岐 (0:20) 高滝 (0:25) 猫滝上渡渉地点 (0:50) 奥の出合 (1:45) 10:30 池木屋山山頂 11:00 (0:30) 1360mピーク<支尾根分岐> (0:25) 1222m平坦地 (0:35) 981mピーク (0:20) 866mピーク (0:15) 伐採地下山地点 (0:35) 駐車場 14:00   (計5:10)

[帰り道] 6日 宮ノ谷林道終点駐車場 (林道)→ 蓮ダム (県道569号)→  松阪市飯高町森 →(R166号)→ 松阪市飯高町富永 →(R422号)→ 多気郡大台町栗谷口 →(県道31号)→ 紀勢道・大宮大台IC     [約42km]
[地図] 七日市、宮川貯水池 (1/25000)
[ガイドブック] 新・分県登山ガイド「三重県の山」 山と渓谷社

 

[温泉] 奥伊勢宮川温泉 「フォレストピア」
・多気郡大台町薗。TEL 0120-017137
・11:00〜21:00 入浴料600円。
インターネットHPからプリントアウトした割引券を持参すると200円引きになる。
・露天風呂あり。やや狭いのが残念。薬草風呂あり。
・シャンプー、石けん、ドライアーあり。