大船山( だいせんざん                                                [九州]  1786m 

 

 祖母山から

 九州山行、三日目。今日は朝から快晴。宿で朝食をとっていてもうずうずしてくる。
 4年前の6月初旬に由布岳に登りミヤマキリシマを眺めようとやってきたのだが、3日間とも雨。湯布院と黒川の温泉に浸かっただけで帰ってきた。一昨日、ミヤマキリシマとは阿蘇山で思わぬ対面が叶ったが、また九重のミヤマキリシマは別格である。
 今日は同行の
Nom君 とは別行動。Nom君 は百名山が目的なので九重の最高峰中岳、久住山に登り牧ノ戸峠に下りる。自分は花目的なので大船山をピストンし、長者原に戻って車を牧ノ戸峠に回してピックアップすることにした。

 長者原の広い駐車場に車を止め、スガモリ峠に向かうNom君 と分かれる。すでに長者原周辺はハイカーでいっぱいだ。
 朝日を浴びた眩しい緑のタデ原湿原から見上げると、星生山の中腹辺りはすでにミヤマキリシマでピンクに染まっている。否が応でもテンションが上がる。

タデ原湿原から見上げる星生山

 

 湿原から雨ヶ池越への樹林の道に入っても、ハイカーの列は続く。団体さんはあまり目立たず、数人のグループや老夫婦の二人連れといった感じの人たちが多い。さすがにウィークデイなので若い人は少ない。何組かのグループと抜きつ抜かれつしながら、気持ちのいい落葉樹の森を歩く。
 平らな歩きやすい道が続くが、ベンチのあるところから登りになり、木の葉の間から長者原の方が透けて見えるようになると再び平坦な道になって雨ヶ池に着く。
 

落葉樹林を登る

 

コガクウツギ

 雨ヶ池は湿原になっていて木道が設置してある。雨が降ると池ができるそうだ。周りにはすでにミヤマキリシマが現れる。行く手には平治岳。気持ちのいいところだ。

 雨ヶ池を越えると道は再び樹林の中の道になり少し下り気味になる。頭上を覆われているので展望はないが涼しくてありがたい。
 一か所、樹林が切れたところがあって平治岳と大船山が眺められる。平治岳の山頂は遠めに見てもピンク色に見える。う〜ん、やっぱりすごい。

雨ヶ池附近


 

ミヤマキリシマ

 

平治岳(左)と大船山(右奥)

 樹林地を抜けると一気に視界が開け、坊ガツルの一角に出る。坊ガツルは湿原ということになっているが、見た感じは草原という感じ。
 広い草原を囲んで周りは九重の山々。正面はこれから登る大船山、背後は大きな三俣山。右手は高く、中岳だろうか。きっと久住山はその後ろで見えないのだろう。山中の別天地である。遠くからのんびりとしたカッコウの声が聞こえてくる。

 

 キャンプ場まで来ると、テントがたくさん立っている。トイレや炊事場があり、国立公園の古いキャンプ場の雰囲気だ。ここで泊まりながら周りの山々を巡り歩くのはさぞかし快適だろう。近くには法華院温泉もある。温泉に泊まれればもっと楽だが、今のシーズンは満員に違いない。
 キャンパーの会話を聞いていると、星空を目当てに来ている人もいるようだ。周りを山に囲まれていて、人工の光の影響が少ないので、きっと綺麗な星空が広がるのだろう。

 

坊ガツル

 

キャンプ場の背後は大船山 法華院温泉遠望

 

 坊ガツルから見上げると、平治岳の山頂がひときわ色付いている。九重のミヤマキリシマというと、まず最初に名前が出てくるのが平治岳だけあって、ピンクの塊がひときわ大きい。山頂が燃えているようだ。
 ふと、大船山をやめて平治岳に登ろうか、という考えが浮かぶ。
Nom君との待ち合わせがあるので、両方登る時間はない。迷いながら分岐まで歩く。
 分岐に来ると何となく平治岳に向かう人の方が多い。それを見て自然に大船山の方に曲がってしまった。根本的にへそ曲がりなのだろうか。

平治岳の山頂を見上げる

 

 しかし、よく考えればこの選択は間違っていなかった。平治岳からは祖母山や阿蘇山の展望が利かないだろうし、大船山山頂付近の感じも分からない。平治岳の方は大船山に登れば山頂から見下ろすことができるので、雰囲気は十分想像できる。

 ということで気分の整理はできて心は軽くなったのだが、大船山の登りはなかなかきつい。登山道は岩がゴロゴロしていて歩きにくいし、展望は利かない。最初のうちは傾斜が緩いがすぐにジグザグを描くようになる。
 周りの木が低くなってくると樹林の中にもミヤマキリシマが現れ始めちょっと気休めになる。ドウダンツツジも見られる。カイナンサラサドウダンだと思って写真を撮ったのだが、帰って調べてみるとカイナンは九州には生えない。九州のドウダンツツジはベニドウダンとツクシドウダンしかない。以前、木曽で見たベニドウダンはもっと赤かったが、こんなに変異が大きいものなんだろうか。

 

大船山の登りのベニドウダン?

 

雨ヶ池のベニドウダン?

 登り着いたところは段原。北大船山と大船山の鞍部のようなところで、いままで塞がれていた展望が開ける。周りは緑とピンクの絨毯。思わずため息が出る。いや〜、大船山のミヤマキリシマもいいじゃないか。
 しかし、どこから現れたのかと思うほど人が多い。きっと平治岳を経由して来たのだろう。休憩している人、食事をしている人。様々だ。まさに人気の山であることを再認識させられる。

段原

 

段原から大船山

 

ツクシドウダン

 さてさて、ツツジに見とれていないで最後の登りにかかろう。下ってくる人もいるが、まだこれから登る人も多く、狭い登山道は譲り合いが必要だ。ツクシドウダンのトンネルをくぐると、岩場の登りになり、再び展望が得られる。
 振り返ると段原火口原の周りにピンクのリングが降りている。火口の跡であろう米窪の縁にもピンクが載っている。こんな造形はなかなか考えられるものではない。

大船山の登りから振り返る。段原火口原と米窪。

 

山頂の標柱


 

段原火口原の向うに平治岳の山頂が覗く

 

久住山方面

 

三俣山と眼下に坊ガツル

 

 山頂もすごい人だが、展望もすばらしい。今まで見えなかった久住山を含めた九重のサミットの山々が良く見える。
 昨日登っただけでどんな姿をしているか分からなかった祖母山も、今日は傾山も含めて良く見える。傾山との稜線の間に顔を出しているのは大崩山らしい。これもいつか登りたい山だ。
 阿蘇山も中岳火口から時々噴煙が上がっているのが見える。

 

祖母山方面

 

噴煙を上げる阿蘇

 

 北側に目をやると鋏を振り上げた由布岳が意外に近く見える。見ようによってはトトロの頭のようにも見える。この山もいつかは登りたいが、次の機会があるだろうか。
 由布岳の右隣りは鶴見岳でその右手は別府の街。よく見ると別府湾が見える。お〜、海が見えるではないか。ひょっとしたら有明海も見えるかも、と思って西の方を眺めると、こちらは霞んで見えない。まあ、霞んでなくても見えないだろうが、両方見えたら面白いのに。

 

由布岳(左)と鶴見岳

山頂の南側

 

 人が多くてあんまりのんびりした気分にはなれないが、それでもなるべく時間を取ってこの景色を目に焼き付ける。
 電波が通じるようで、LINEで
Nomから連絡が来た。彼も久住山の山頂にいるようだ。こちらの方が下山に時間がかかるので、名残惜しいが戻ることにする。

 段原まで戻ったところで、花に誘われてつい北大船山に向かって歩き始めてしまった。「ああ、このまま歩いていきたい。平治岳の鞍部まで行けたらいいのに」と思ったが、時間を確認して我に返った。やっぱり下るしかない。

段原

 

 坊ガツルまで降り、後ろ髪を引かれる思いで雨ヶ池へ登り返す。
 雨ヶ池の先で行きには気が付かなかったシロドウダンを見つけた。シロドウダンは四国・九州に多い花で、今朝初めて旅館の庭に咲いているのを見たが、野生のものも見られて大満足。ツクシドウダンと合わせてツツジコレクションが二つ増えた。

 長者原に戻り、車で牧ノ戸峠で待っているNomを迎えに行ったが、予定の4時を少し過ぎてしまっていた。

シロドウダン

 

 九重星生ホテルの温泉で汗を流し、日本離れした広い草原の中を阿蘇を目指して走る。熊本空港に着けば二泊三日の九州遠征も終わり。Nomは百名山を3つクリアして満足そう。いい山旅でした。

 しかし、大船山の山頂でも思ったが、本当に次の機会があるだろうか。今回は平治岳に登れなかったので、次に来ることがあれば平治岳と由布岳に登りたいと思うが、いつ来られることか。その時には法華院温泉にも入りたいものだ。

やまなみハイウェイ城山展望台からの根子岳、高岳

 

大船山ルートマップ


[山行日] 2018/6/1(金)
[天気] 快晴     2018年6月の天気図(気象庁)
[アプローチ]

筋湯温泉 7:30 →(県道40号、町道)→ 7:40 長者原駐車場  【約7q】

[コースタイム]  
  行動時間 発着時刻 地点名 休憩時間  
1:55 8:00 長者原駐車場    
9:15 雨ヶ池    
9:45 法華院温泉分岐    
9:55 坊ヶツル 0:05  
1:40 10:00  
11:20 段原    
11:40 大船山山頂(1786.3m) 0:35  
0:20 12:15  
12:35 段原 0:10  
0:50 12:45  
13:35 坊ヶツル 0:20  
1:55 13:55  
14:40 雨ヶ池    
15:50 長者原駐車場   全行動時間
6:40     1:10 7:50
登り 3:35        
下り 3:05        

     <コースタイム6:45、登り3:40、下り3:05> ヤマケイオンライン
 

[帰り道]

九重星生ホテル 15:10 →(やまなみハイウェイ、R57号、県道23号、県道339号、R57号、R443号)→ 18:50 熊本空港 20:15 →(FDA)→ 21:35  →(名高速)→ 自宅

 

[宿]

旅館「名山」
・九重西麓、筋湯温泉の宿。温泉街からは少し離れている。
・一泊二食6,630円(税込)
・古い旅館だが居心地は良い。値段の割に食事も美味しい。
・共同浴場である「うたせ湯」のタダ券もあるが、宿の露天風呂が二つあり、眺めがよく気持ちがいい。

[温泉]

九重星生ホテル「山恵の湯」
・長者原近くのホテルの立ち寄り対応の温泉。
・入浴料800円。ボディソープ、シャンプー、ドライヤー完備。コインロッカー200円。
・幾つもの湯船のある広々とした露天風呂。三俣山のながめがいい。