1051年
　陸奥国の有力豪族の安倍氏が朝廷への貢租を怠る状態になり、永承六年、陸奥守・藤原登任との間で、玉造郡鬼切部で交戦、前九年の役が勃発した。

　敗れた登任は更迭され、河内源氏の源頼義が後任の陸奥守となった。

　源頼義が陸奥の政庁であった多賀城に着任すると、安倍頼良は恭順の意を示し、休戦状態となった。

1056年
　しかし、約四年の後、再び安倍氏との前九年の役が再開された。
　源頼義の陸奥守の任期が満了した天喜四年、安倍頼時から惜別の饗応を受けた源頼義が、鎮守府から国府へ帰還する途中、阿久利川で野営中に、源頼義配下の陣が何者かに襲撃を受ける騒ぎが起こった。
　詮議の結果、安倍頼時の嫡男・貞任の仕業であるとみて、源頼義は貞任を引き渡すように求めたが、安倍頼時がこれを拒否して挙兵した。
　再び安倍氏との前九年の役が再開された。
　これは源頼義による陰謀説や、藤原氏による陰謀説などもある。

　この藤原経清と云う人物、陸奥国亘理郡を本拠とする豪族で、国衙に在庁した地方官僚。
　系図を辿ると平将門の乱で登場した藤原秀郷の後裔と云われる。
　鬼切部の戦いでは、藤原経清は安倍氏側に属していた。
　その後、源頼義が多賀城に着任し、安倍頼時が恭順の意を示すと、藤原経清もまた、源頼義に従った。　この後、源頼義に、岩手県奥州市江刺岩谷堂下苗代沢を賜り館をかまえる。
　阿久利川事件をきっかけに、安倍氏が挙兵すると、藤原経清は、源頼義に従って参戦するが、その後再び安倍氏に属する。 実は、藤原経清は安倍頼時の娘を妻とし、この年嫡男・清衡が生まれている。　この清衡が奥州藤原氏初代当主となっていくのである。

1057年
　翌天喜五年十一月、源頼義は陸奥国府から、国衙の兵二千名程度と、傘下の武士五百名ほどで出撃した。　この五百名ほどの武士の中には、坂東の武士が多数含まれていた。
　安倍軍は、河崎柵に四千名ほどの兵を集め、黄海で国府軍と合戦となる。 この戦いでは兵力に勝る安倍軍が勝利した。

1062年
　その後、膠着状態が続くが、康平五年、源頼義は出羽に勢力を張る清原氏の参戦を得、八月十六日、国府の兵と併せ、およそ一万三千の兵で軍団を編成した。
　九月十七日、源頼義は、安倍軍の本拠地である厨川柵を焼き上げ、安倍一族を捕縛・処刑した。　貞任の弟宗任は投降したため処刑はまぬがれ、伊予の国に流された。

　清原氏には奥六郡が与えられ、清原氏が奥羽の覇者となった。

　安倍頼時の娘で、藤原経清の妻は敵方であった清原武則の子・武貞に再嫁した。　幼い藤原清衡は、武貞の養子となり、一命を取り留めた。
　この縁組は、陸奥の旧安倍氏支配地域を円滑に統治する意図があって結ばれたものと考えられる。

　源頼義は恩賞として伊予守となる。　頼義は凱旋後も京に滞在し前九年の役で戦った坂東武士への恩賞付与に奔走した事で、河内源氏への信頼は更に高まった。このため、頼義が伊予に赴任するのは二年後になってしまった。